第49話 21 秩序の異変


 オーダーのホームから出て、足早に街中を転移ポートへと向かう。


 そんな俺を呼び止める女の声。それは、今や幻影の地平線のサブマスターであるナナだった。


 彼女は最後に会った時とは違っていて、オーダーメイドの騎士コートを見た目に装備していた。おそらくは、ギルドの制服のようなものだろう。


 そして、彼女が俺の前に現れた理由は、オーダーのホームに入っていくのを見かけた仲間の知らせを聞いて、彼女が心配して外で待ち伏せていたのだ。


 ナナの所属ギルド幻影の地平線は、オーダーの無謀なボス攻略を良くは思っていない。


 あえて言うなら、〝アスランが〟と言ってもいい。アスランからその動向を注視するように言われたナナも、オーダーには年末から気を配っていた。


 そんな時にオーダーが俺を呼び出したとの報告が入ったため、彼女はオーダーと何を話したのか俺に聞く、が、そのことで口を開くことは無い。


「ヤト!無茶しちゃだめだからね!」


 1人、始まりし街の転移ポートへ向かうその背中を、ナナは悲しげな表情で見送った。


「……ギルマスには――」


 ギルドメンバーにそう聞かれたナナは、顔を拭ってから答える。


「アスランには私が直接伝えに行くわ」


 そして、男にオーダーを見張るよう言う。男の周囲に溶け込むような見た目は、彼女にそう言われると人ごみへと溶け込んでいった。


 その後、ヘイビアのギルド本部でナナは、俺のことをアスランに報告する。


「たぶんケージェイは、ヤトに第7エリアのボス攻略を依頼したんだと思うの」


 そう伝えて援軍を出すことを提案するナナ、だが、アスランは首を縦に振らなかった。


「どうして!ヤトには借りがあるでしょ!」

「ナナも聞いてるだろ、第7エリアのボスは超レイド級モンスターだ。オーダーが初見で倒そうなんて気を起こしたから死者が多かったが、俺たちはそんなバカな真似はできない」


 アスランの意見に、ナナは過去に俺が救援に駆けつけてくれなければ死んでいたと言う。が、ギルドのマスターである彼にとってみれば、〝それはそれ〟でしかなかった。


「フィールド内から逃げられるのは分かってるでしょ?少しでも加勢してヤトを助けなきゃ」


 ナナの異様な拘り様に、アスランは食いつく。


「どうしてあいつに執着する?あいつはただのプレイヤーだぞ、いや、今はプレイヤーキルしたブラックプレイヤーか……。確かに戦いで異常なセンスを持っていた、だがしかし、彼はチート使うチーターだぞ、なのにナナのその慌て方は……」


 あいつを好きだとしか思えない。


 そんな言葉をアスランは飲み込んだ。


「どうしても援軍を出さないようなら、私1人でも行くから」


 頑な彼女に、アスランは仕方なくギルドでの加勢を受け入れた。


「だが、まずはギルドの数名で本当にヤト、ないしオーダーのメンバーが再びボス戦に挑もうとしているのか、それを確かめる必要がある」


 勿論、ナナはその調査するメンバーに志願した。


「何も、ヤトが今日事を起こそうなど考える馬鹿ではないだろう、準備だってできていないはずだ」

「そうよね、今日は大丈夫よね」


 アスランの言葉はもっともで、ナナも納得した様子だった。


 翌日、第7エリアへナナたちが到着すると、アサシン風の姿はなく、ボスが倒された様子もない。ナナはホッと胸を撫で下ろし、約3時間ほどそこで待機した。


 だが、その日はヤトもオーダーも来そうにないため、その場にいたギルドメンバーに解散を告げて、自身もホームへと帰宅した。

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