第48話
街に出ると、そこにいるプレイヤーたちのヒソヒソと話す声を耳にする。
アレが例の――。
PKしたってよ。
しかも圏内でだぜ。
ブラックプレイヤーよ。
人殺しってこと?
おい、逃げようぜ。
逃げる者や中傷する者、怖がる者は問題ない。問題なのは、俺というブラックプレイヤーに目を輝かせる者たちが少数ながらいることだ。
主にテスターたち、この世界のクリア条件の一つ、〝非テスターの全滅〟を心のどこかに持っている者たちだ。怯えるのは非テスターたち、いつ襲われるのかと怯えている。
この世界においての異分子として、俺は見られるようになってしまっていた。
ゆえに、オーダーのギルドマスターであるケージェイが呼び出したのだろう。
「やーやー少年!いや……ブラックプレイヤーのヤトくん――」
細めの体に細い目、オーダーの主要メンバーの1人ラビット。
「ラビット、彼のことはまだそう呼ぶべきではないと僕は思うけど」
メガネをかけた男は、オーダーの主要メンバーの1人クラウで、ズレるはずの無いそれを右手で触れてそう言う。
俺はオーダーのギルドホームにある話し合いの場、そこに置いてあるこの字の机を見て眉を顰め、内側へ入ると椅子に座る。
目の前の男を一瞥すると、その印象が以前のものとは違うと気付く。
「……顔付きが変わったなケージェイ――」
「……秩序を維持するには少々苦労が多くてね、キミは相変わらずのようだなヤト」
ガッシリとした体躯に強面なのは相変わらず、しかし、どこか疲労感に包まれ表情は暗い。
ケージェイは手元に山ほどの資料を置いてあり、それが俺の件だけのものではないことは察することができる。ラビットとクラウがケージェイの左右に座ると、漸く話が始まる。
話は、圏内でプレイヤーをキルしたことについてだ。
「報告ではヤトくんが街中、所謂圏内でプレイヤーの1人をキルしたとあります、これについて、ヤトくんに事実と異なる部分があるなら、言ってもらいたい……どうだい、ヤトくん」
クラウの言葉に、「別に」と返す。
そのメガネに触れて溜め息を吐くと、クラウはケージェイに言う。
「ケージェイさん、ヤトくんはこの件に関して全肯定するようです」
クラウがそう言うと、ケージェイは資料を机に置いて溜め息を吐いた。
「ヤト、ここでの発言は、今後キミに不利になることがある……、発言の撤回はできないが……構わないのか?」
まるで、裁判の裁判長のような物言いに思わず呟いた。
「……裁判ゴッコとは笑わせるな――」
その瞬間、ラビットが手からロープのアイテムを取り出して投げつける。
アイテムが体に巻きついて拘束すると、ラビットは自身の椅子から机へと飛び出して、飛び乗って睨み付けてくる。
「あんまり調子に乗らないことだね……少年」
「……」
「ラビット――」
ケージェイに声をかけられると、ラビットは机の上からゆったりと退いた。体に巻きついたロープを外すと、ラビットは元の席へ戻る。
「ラビットがすまない、私から謝罪しよう」
ケージェイの言葉に、特に何も返しはしない。それが建前であるのは、察するに易い。
その後、ラビットを一瞥してからケージェイに視線を戻すと用件を聞く。
「で、俺を呼んだのはこんなお遊びにつき合わすためだったのか?」
「……ヤト、キミに第7エリアのボス攻略をしてもらう」
眉を顰めケージェイを睨みつける。
「何を考えているんだ……罰のつもりか?」
ケージェイは、手元の資料から一つを取り出して手渡してきた。
内容は、オーダーの攻略組みの活動記録だ。第7エリアの攻略、36年12月26日。
攻略参加メンバー、オーダー20名。外部協力メンバー、45名。
死者38名、帰還者27名、内オーダー4名。
「なぜ……同じことを繰り返した――」
俺は目を見開いてケージェイを見る。
彼は、溜め息を吐いて椅子から立ち上がると背を向けた。
「我々オーダーは〝最強のギルド〟でなければならない。……が、最近我々の他に強いメンバーが集うギルドが増えている。一つは〝クラウン〟」
クラウンのギルドマスターはヘイザーで、ヤトは面識があるが話をしたことはない。
ヘイザーを筆頭に、レイネシアや多数のテスター陣を主力として、エリア攻略しているらしい。
「もう一つは――幻影の地平線だ。彼らが第7エリアの攻略に成功する前に、我々オーダーが挑む必要があった」
結果は惨敗。理由は、第7エリアのボスの設定が、50人規模では攻略不可能な設定だったため。オーダーとその他協力した面々は、この作戦を強行したケージェイを責めたらしい。
その事に対してケージェイは、彼らに「必ず攻略してみせる」と豪語したのだそうだ。
「アスランとサブマスターのナナは、人を惹きつける魅力に満ちた存在だ。ヘイザーは、1人でその2人に匹敵する器を持っている」
「……要は焦ったってことだろ」
「ヤト、私はこの件をキミに託すことにした、……断ってくれても構わないが、そうなるとキミにはこの世界から退場してもらうことになる」
ケージェイの言葉に舌打ちをする。
「俺にボスを倒させて手柄を横取りするつもりなのか――」
背を向けたままのケージェイは微動だにしない。
「確か、ファミリアだったかな?キミと縁のある者が多いのは――」
クラウがそう言うとラビットも続けて言う。
「木漏れ日――そこの可愛い子ちゃんにも面識があるよねヤトくん」
口元は笑っているのに目は笑っていないラビットを見て、再びケージェイの背中を睨んだ。
「秩序が……聞いて呆れるな――」
吐き捨てた俺はその場を後にした。
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