第47話 20 プレイヤーキラー
カイトの事件から一週間。事件の真実の大部分はごく一部だけが知ることで、俺が口止めしたら彼らも何も言えない状況になった。
俺がプレイヤーをログアウトさせてしまったことで、その噂がゆっくりと時間をかけて善くも悪くも広まっていった。
チート使い専門のプレイヤーキラー。
PKをした者のHPバーが黒く変わることから、BCOでは本来PKした者は〝ブラックプレイヤー〟と呼ばれていた。
通常のプレイヤーキルでは本来はそうなるのだが、俺はHPバーは緑のままで、木漏れ日のカナデが意図的に事件の内容を織り交ぜて流布したため、俺はチート使い専門のプレイヤーキラーとして周知されていった。
「ね、ヤト、キミはどうしてこうなんだろうね」
カイトの言葉に、俺は目の前の状況を渋々説明し始めた。
「俺がソロでエリアボスと戦って、そうして戻って来てみたら、俺が買った新しいホームに、マリシャがお祝いだとかでやって来て、そしたらナナも俺の噂が気になって確かめに来た。で、カイトがナナを出迎えて、今に至ってるわけだろ?違うか?」
「……まさにその通りなんだけど、それもこれも、ヤトが女ったらしなのが原因だよね?」
やんわりとしたウザ過ぎないカイトの話方に、俺が別段嫌がる様子も無く会話を進めていると、ナナが不満そうに言葉を漏らす。
「カイトさんだっけ、ヤトってさ、女の子にとって目立つって分かってるよね?」
「……ナナちゃんもカワイイから目立つよね~、ボクとフレンドになってくれないかな」
ナナの言葉をかわすカイトに、マリシャがナナに耳打ちする。
「この子はね――」
そうヒソヒソとマリシャがナナに何かを言うと、ナナは少し頬を赤らめつつ俺に言う。
「ま、カイトさんのことは放っておくとしても、ヤト、あなたのPKについて本当のところを聞きに来たのよ」
ようやく本題か、やれやれだな、と思いつつ俺は一部を正しくナナに伝えた。
「カイトや他の被害者もいた、だから俺はチート保持者をチートを使ってこの世界から追放した、いや、正確には殺したと言うべきだな」
「……分かった、でも、どうしてわざわざカイトさんだけ、一緒に暮らすことになったのか聞かせて」
今俺たちがいるのは、始まりし街のプレイヤーホームの一つで、俺がカイトのために買った彼女のホームだ。ただ、今はそこを俺も拠点としているだけであり、別に二人で暮らすために買ったわけじゃない。
「……たまたまだな」
「たまたま、だよねヤト」
俺の言葉にカイトも同意する。が、ナナは不満そうに、机を叩くと、オブジェクトエラーが表示される。
「たまたまヤトがホームを買って、たまたまカイトがそこに住んで、たまたまヤトが居候してるっていうわけね、たまたま……そんなわけがないでしょ!」
どうしてそんなに怒っているのか、そして、なぜ俺たちは怒られているのか、俺はどうすればこの問題を解決できるのか、その糸口さえ見えないまま、カイトが朝食の片づけをし始める。
始まりし街で、おそらくは誰も買わないであろうこのホームは、アイテムを置いておくスペースだけでなく、寝室やキッチンスペースがある普通なら無駄な機能であるとされるホームになっている。そして、その値段もレアアイテムが数十個転売で集められるほどの額になる。
「朝からカイトの手料理食べて……夫婦じゃん、こんなのもう夫婦じゃん」
マリシャがそう呟くと、ナナも不満そうにカイトの皿を洗う背中を見る。
「エプロン着けて……なんだかなーもう」
「それより、俺に話ってのは?ナナはその話が本題だったんじゃないのか?」
カイトが仮想世界での簡易的な洗い物を済ませ、湯呑に茶を入れてそれを俺やナナやマリシャの前に置くと、ようやくナナは本題を話し始めた。
「ヤトのチートの噂を、アスランがどうしても聞いておいてくれって言うから、だから話を聞きに来たの」
「で、俺がチートを使ったのは事実だって分かって、その理由も聞いた上でまだ何を聞きたいんだ?」
ナナは湯呑を持ちながら、アスランの言葉を思い返すように口に出す。
「どうして……あのボス攻略の時に、チートを使ってくれなかったのか――って」
そう思ってしまうのも無理はない。平時ならばチーターなどというものを歓迎するプレイヤーはいないだろう。だが、このBCOでは攻略こそすべて、違法だろうがなんだろうが、帰れるのなら何にでも頼る。
「あのボス戦で、ヤトがチートを使ってくれたなら、もっと被害が少なくて済んだんじゃないかって、アスランはそう思ってるのよ」
チート=万能という概念が、チートを使わない人間にはそう感じるのかもしれない。だが、その間違いは正しておかなければならない。
「俺の使ったチートは、違法なMODやチーターに対しての効力しかない。チート級のモンスターに使ったところで、あれは何の効果もないただのオブジェクトでしかなくなる」
「ほら、やっぱりそうだった、アスランの杞憂で終わり、だいたいヤトが必死に命がけの戦いに参加した時点で理解しないとだめよね」
そう言うナナはどうなんだろう、少しでも俺が手を抜いて戦っていたと思ったのだろうか。
そんな疑問を俺が吐露することはなく、ナナの話はそこで終わる。
「話が終わったんなら、俺は出かけるぞ。オーダーから呼び出しがあったからな」
それを聞いたカイトは、不満そうに頬を膨らませた。
「オーダーって、BCOで警備や生活基盤を作ったギルドだよね?もしかしてヤトを捕まえたり罰したりする気なのかな?」
カイトの質問に俺は答えない、だから彼女はそれ以上は聞けないし聞かない。
ナナとマリシャを置いたまま、俺は見た目装備のラフな服装を枠から外す。
「もう行っちゃうのかい?」
「時間だ、待たせてもいいだが、ここで時間を潰す用もなくなったしな」
カイトは再び頬を膨らませる。
「その言い方は、ボクがその程度の存在って言われてるみたいでやだな」
カイトの言葉に首を傾げた俺は、ナナとマリシャの視線に眉を顰めながらも、自分に非はないと思いつつホームを後にした。
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