第41話 17 KAITO
「もしかして、ラグってる?お~い」
カイトの言葉に思わず反射的に、「そんなわけないだろ」とぶっきら棒に返事をした。
「あーよかった、この世界から強制ログアウトしちゃったらアウトだよ」
カイトと会う時は、常に同じアバターだった俺は、今その答え合わせをしようと聞く。
「……カイト、お前なのか?」
「なんだいヤト、ボクをカイトと呼んでおきながら、まだ確信が持てないのかい?」
「どうして俺があのヤトだと分かった?それにその姿――」
「あーこれ、これは……現実のボクの体を3Dスキャナーで取り込んだ仮想現実のボクかな」
短い髪をフワッとかき上げたカイトは、「イケメンだろ?」と言って見せた。
「さっき女の子がヤトって名前を呼んでたからね、……もしかするこっちにいるかもと思ってね――」
「そんなのはフレンドの機能を使えばどこにいるか分かるだろ」
そう言ってもう一度カイトを一瞥する。
「……お前、始まりし街で会った時にはもう俺だって気付いてたんだろ、何で言ってくれなかったんだ?それに……女だったのか――」
「気付いてたよ、それよりもさ、傷つくよ~ボクは女、性別上はね、むしろ、現実ではね。でも、この仮想現実では男として振舞っていたんだ、このBCOに囚われるまでだけど――」
カイトはナナのように正月イベントの格好はしていなくて、長剣を腰に、白いマフラーの下に白のトレンチコート。足元にミリタリー装備のロングブーツ、スカートではなくホットパンツを穿いていた。と言うのも、白のトレンチコートで隠れていて、一瞬まるで穿いてないと思わせる。
「ちゃんと穿いてるよ、ほらね」
「見せ付けなくても分かっていたさ……にしても、驚きだな……ずっと男だとばかり……」
「……色々とあってね、複雑な事情さ、今日までボクがどうしていたか、聞きたいかい?」
「いいや、それよりこの街にいるってことは、攻略を考えているってことか?」
「ねーヤト、ヤトは時々は他人に興味を持った方がいいよ、でないと無意識に人を傷つけてしまうから」
「なんだ、皮肉か?今お前のことに興味を示しただろ」
「違うよ、〝こんな可愛い女の子が、どうして男の振りなんてしてたんだろうか?〟そんな疑問は湧いてこないかい?」
「……いいや、それに関してはお前の事情だろ?立ち入っていい問題でもないだろうに」
その言葉にカイトは溜め息を吐く。
「はぁ~だめだねヤト、一つ教えておいてあげるよ、現実と仮想現実の共通点を――」
カイトは顔をグッと寄せると耳元で呟く。
「女の子が、〝聞いてほしそう〟にしている時は、男は、〝黙って聞く〟それが一番いい接し方ってことさ」
カイトの言葉に俺は眉を顰めてコクリと肯いた。
その後、カイトは俺を連れてイベントの間に開かれている神社エリアで、初詣やおみくじをする間に〝ながら〟会話をした。
ボクはね、子どもの頃から好きになる人が女の子だったんだ。綺麗な女の子、可愛い女の子、柔らかい女の子。小学生の時には、男の子に告白されるくらいにはボクは可愛くてさ、でもボクは女の子が好きだから、男の子は全員断っていたんだ。
でもさ、そんなことを繰り返していると、他の女の子からしたら、ボクって〝○○くんを振った女〟ってことになるんだよね。
ボクが好きだった女の子も、ボクのこと嫌いになるわけさ。いつの間にか女の子の間で仲間はずれにされて、ボクとしては仲良くしたかったんだけどね。
そして、ボクが出合ったのが、当時姉が使っていたHMCという仮想現実だった。
アバターを男にすれば女の子と仲良くなれた。ボクは、仮想現実の世界で友だちも好きな人も作ることができた。けど、仮想現実の関係性は恐ろしく脆かった、儚かったと言ってもいい。
次から次に周囲は新しい世界を求めて、今の世界を捨てて行く。
ボクは何度か関係性を作っては、崩壊し、作っては、崩壊しを繰り返した。
そして、それに疲れたボクはある時キミに出会った。
違法なシステムに支配されていたあのVRMMOの世界で。
海外経由のサーバー、仮想現実でアバターを狩りまくるプレイヤー。狩られたプレイヤーはストックしておいたアバターをコンバートして、別のプレイヤーのアバターを奪い合ったあの世界。ボクはそんな世界でヤトに会った。
アバターを狩るプレイヤーを狩って、〝元のプレイヤーに返す〟っていうその世界で最も無意味な行動をしていたプレイヤーヤト。キミに初めて話しかけた時、ボクは、〝どうしてキミはそんなことをしているのかな?〟と言ったんだ。それに対してキミは、無視をしたんだよ、すっごく傷付いたんだよ~。次に話しかけた時は、〝キミは強いね、ボクとフレンドにならないかい?〟だったかな。
またしても無視するヤトに、関心を持ってもらうために、ボクは色々悩んでしたことが、〝問題です!〟とクイズを出すことだった。
〝現実と仮想現実はどちらが本物でしょうか!〟
その言葉に足を止めたヤトは、即答で答えたよね。
そうして、ボクに笑みを浮かべたキミは、〝この世界が好きか?俺は好きだよ〟って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます