NEW YEAR

第39話 16 年明けイベント


 2053年1月


 BCOに初めての年明けが訪れた。


 師走の事件から漸く平静を取り戻したプレイヤーたちは、GMが予定していたであろう年初めのイベントを楽しんでいた。〝楽しんでいた〟と言っても、それは一部のポジティブな者たちで、むしろ他は無理に楽しんでいたのだ。無理やりテンションを上げなければ、楽しめない者も少なくなかった。


 冬季のイベントで唯一、サーバーにデータがあったであろう年明けのイベントに、俺はどうしてこのイベントだけ?という疑問を持ちはしたが、考えてみればクエストは無かったにせよ、クリスマスにも装備やらアイテムやらのデータは存在していて、GM側もそれなりに楽しんでもらおうとしていたのが窺える。


 BCO内でホームのある街は、今のところ始まりし街とヘイビアだけであり、始まりし街は賑やかで、ヘイビアはやや賑やかといった雰囲気。この頃には非テスターたちも、第3エリアへ一部の者が到達していて、ヘイビアの人口は少しだけ上昇していた。


 そして今、正月気分の街で流行っているのは、意外にも仮想恋愛である。


 現実は置いといて、BCO内での擬似恋愛がプレイヤー間で流行っていた。


 中にはNPCを専門に、〝俺嫁〟として順位付けする者も現れて、街中には異様な光景が広がっていた。そして、年が明けてから初めて俺はヘイビアに戻った。


 というのも、12月末から年始にかけて年越しのイベントがBOC内の第9エリアで行われていたために、1人コソコソとイベントモンスターを狩っていたのである。


 その間の街の変化を知らなかった俺は、ヘイビアに帰るなりそれを目の当たりにして、表情に出さないものの驚いていた。


 現状ホームを持っていない俺は、各街にあるプレイヤー個人の倉庫として割高で貸し出されるストックルームで、アイテムストレージを整頓し終えれば、街中でベンチに腰掛けるぐらいしかすることが無かった。


 今までも、フルダイブ中に年始を過ごすことはあったが、コアなプレイヤーたちの溜まり場で年始イベントをこなすため、こういった光景を目にしたのは初めてと言ってもよかった。


 不意に思い出す、クリスマス前にしつこくメッセージを飛ばしてきたナナをブロックしていたことを。


 フレンドの項目を操作してブロックを解除すると、彼女がこのヘイビアにいることが分かった。街の中は意外と広く、ただ1人の人間を探すのは無理なことだ。


「……みつぅぅううけぇええええたぁあああ!!」


 後方から俺の頭を飛び越えて登場する人影。


「今!ブロック解除したよね!」

「……ふー……さてと……」


 フレンドの、7NANA7を再度ブロックし直そうとする。


 それを阻止しようと、俺の腕を握るナナは、鼻が触れるくらいに顔を寄せた。


「またブロックする気?」

「……(読心術のスキルか何かか)……そんな訳がないだろ」


 再度7NANA7のブロックしようとした手を引っ込めると、その格好を指摘する。


「正月限定の服……いや、防具か?」


 ナナは、華やかな青基調の振袖を身に纏っている。


「見た目装備だよ、ヤトくんは振袖を着ている女の子には声をかけてくれるんだぁ~、上半身裸の女の子には、〝見るだけ見て〟注意もしてくれないのにね~」


 棘のある言葉に、笑顔の後の鋭い視線、妙な空気に咳払いをして話題を変える。


「それよりもだ、ギルドに入ったんだな」

「……はぐらかした――ま、いいわ。ギルドね、アスランがどうしてもって言うから……あと、メンバーにも土下座されちゃったし」


 ナナはあの一件の後、アスランとそのギルドメンバーに頼まれて、ギルド幻影の地平線に参加することになったのだ。


「もう大変だったよ毎日毎日、どこかの誰かさんは無視して、挙句ブロックするし」


 その言葉を無視して話題を変えると、その話題にはナナも顔を暗くする。


「オーダーは?何人もメンバーが抜けたって聞いたが」


 あの事件以降、攻略組みが解散するほどにメンバーが抜けたオーダー。残ったのは始まりし街の治安を護る者たちと、主要メンバーのみ、と言ってもメンバーは200人いて、さらに第二ギルドもあるらしいが。それは、メンバーの減少に勝る非テスターの加入が要因だ。


「オーダーは、……なんか抜けた攻略組みが殆どウチに加入しちゃって、それ以来あんまり交流がなくて、でも一番の原因はギルマス同士が犬猿になっちゃったからかも、……っていってもアスランが一方的に嫌ってるって感じだけど」


 ナナの話では、オーダーは非テスターを育てることに力を注いでいるとのことだった。


 ケージェイ自身は、攻略組みを再編したい考えをギルド内でしているが、それに人が集まることがないことは、ナナも具体的には知らない様子で、俺の隣に腰かける。


「ねーヤト、あの時、話そうと思ってたことなんだけどさー」


 その話題は、〝ジョーカー襲来〟の後、ナナが話そうとした話題だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る