第36話
「責任転嫁はその辺にしておけ」
二人に対して俺はそう言った。
ボロマントを靡かせながら、いつも以上に鋭い目付きで睨みつける。
「責任転嫁だと……、ヤト、お前には感謝している、助けに駆けつけてくれなかったら全滅も有り得た、が、それとこれとは別だ」
アスランはそう言うと、ケージェイを指差してもう一度、「こいつは俺たちの信頼を裏切ったんだ」と言う。
やれやれという気持ちで、俺はケージェイを指差す。
「ケージェイはなんだ?プレイヤーだ、アスラン、あんたもな。勘違いするんじゃない、〝この世界に英雄は存在しないんだ〟」
その言葉にケージェイはハッとする。
「大体アスラン、あんたらだって覚悟してたんだろ?こうなることは想定できた。この世界は理不尽の塊が存在している」
理不尽の塊――それは、ジョーカーを指して言った言葉だ。
「俺から見たら、あんたらは覚悟なんて全然ないように見えた。第3エリアのボス戦で、のん気に設定通りのフルレイドで戦っていたあんたらは、まだこの世界を〝ゲーム〟だと思っている」
アスランは言葉を失う。
このBCOにおいて、戦闘フィールドは人数で広さが変わる。
通常VRMMOのボス戦は、最大参加人数がフルレイド20~25人だが、BCOでは制限なしに設定されている。おそらく〝騎士団〟が200人の定員なのも、その設定が要因なのかもしれない。
やはり大規模なPvP要素を踏まえた設定、そう俺は考えていた。
俺はこの時、これらの設定とジョーカーの言葉を刷り合わせた大規模なPvPが、おそらくは2000対8000を可能にすると考えていた。
今後この世界において、1万人規模の戦闘フィードが発生するとなると、1大陸を用いて1個の戦闘フィールドにしてしまうということが起こりうるかもしれない。
そんな考えを、今この世界で同じように危惧している者はいないだろう。
「俺なら、予想した必要レベルにさらに上乗せして、常に考えておくフレキシィビリティーを持って然るべきだと思うんだが」
「フレキシビ……なんだって?」
アスランは、どうやら横文字に対して適応能力が低い様子だった。
「確かにそうだ、〝攻略組み〟などと言って人数を絞り、精鋭だけでボスと戦おうとした私の判断ミスだ」
ケージェイはそう言って、もう一度アスラン等に頭を下げる。
「戦いで人が死んだ責任を押し付け合うのは勝手だが、自分の選択を棚に上げて他人の責任にするのは〝格好が悪い〟し、聞くに堪えないぞ」
そう言うと、〝非テスター狩り〟を呟いた男のもとへ行き、座っている男を上から睨み付け言った。
「人殺しをしたいなら俺が相手になってやる。だが、その時は自身も殺される覚悟をしておくんだな」
男は、〝冗談だ〟と言って苦笑いを浮かべて首を振った。
重苦しい空気の中、最後にあることを残す。
「この戦いで得た物が無いと思っている奴、今後の戦いで得るものが無いと思っている奴は、〝アレ〟を見て、〝生きててよかった〟とでも思うんだな」
俺が指を指す方向を無気力で見た男たちは、一斉にその表情をデレッとさせる。
視線の先には、先の戦闘でダガーで華麗に戦っていたナナの姿がある。
BCOにおいて、耐久度は防具や武器だけでなく服や下着にも存在する。
下着はストレージの中で着脱ができるアイテムであり、服もそれに同じである。
ナナは、先の戦闘でアーマーブレイクされたため、戦闘時に下着姿を露にしていたが、誰もそれどころではないため注目を集めなかった。が、現状その下着姿だったナナが何故かそれすら身に付けておらず、本人は気付かずに大胆に手を後ろにまわして無意識に強調させていた。
おそらくは、戦闘で耐久度の低い下着が何らかの経緯でブレイクされたのだろうが、皆が必死だったため、誰も気がつかなかったのだろう。
「お、おおおおおおおおおおおお!!」
「……女神だ」
「ぱい、ぱいが……」
「揺れている」
妙な視線を感じたナナはキョトンとした様子で、自分を指差すヤトと周囲の男のデレっとした顔を見た。
何……この視線は?なんか、気持ち悪いんだけど――
後ずさるナナは、未だに自身の置かれた状況を理解できていない。
俺はナナの方へと向かい、横をすれ違いざまに、「単純な生き物なんだよ男って奴は――」と呟いて去って行く。
「ちょっと!!ヤト!今度!話聞いてよね!!」
ナナの言葉に右手を上げて返事をする。
そしてまだ自身の状況を理解しないナナは、もう一度男たちの方を向いて、「何?何か文句でもあるの!」と怒ってみせるのだった。
険悪な雰囲気は無くなり、アスランもケージェイと互いに視線を交わさなかったが笑みを浮かべていた。
この日、〝ジョーカーの襲来〟として大きく記事がプレイヤーたちの視界に映った。
死者48名。
そう、チート級モンスターは第5エリアだけでなく、第6エリアにも現れて猛威を振るっていた。プレイヤーたちは恐怖し、第6以降のエリア開放後、ひと月経った今でも、誰もエリアボスと戦っていない。攻略速度は鈍足化し、プレイヤーホームから出てこなくなる者も現れはじめた。
そして、二か月が経過した頃、その時解放された第7エリアのボス攻略を成功させた記事が出回ると、誰もが〝救世のギルド〟として褒め称えた。
そのギルドの名前は――幻影の地平線、ファントム・ホライズン。
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