第26話


 ここが、仮想だと思い知らされる瞬間。戦闘時の動きが速過ぎて、風景の処理が追いついてない為にできるエラーだ。背景である地面が露骨にポリゴン化している。


 実際に装備アイテムであるミリタリーブーツが、はっきりと描かれている分、それが目立つ。


 仮想世界を司るシステムは、必ずしもリアルを追求しない。


 それはシステムに過ぎないから、現実的な〝機械の部分〟がそうさせているのだろう。


 その瞬間にバーバリアンの攻撃が鼻先を掠めて、245のダメージを受けてしまう。


「……油断しすぎだ」


 それは自身への忠告で、その後ダメージを負ったのは一回だけ、初見では回避不能のスキルによる1242の威力をたたき出した、バーバリアンの悪あがきだけだった。


 数々のフルダイブ経験で鍛えた勘は、このBCOでも生かされているが、この世界特有の〝戦闘中システムアシストなし〟に関して言うなら、まだまだ苦労しそうな気がする。


 RESULT

 F:6700

 E:400

 D:バーバリアンの大剣 RARE

 D:バーバリアンの防具 

 BOSS SOLO BONUS

 F:5000

 E:200

 D:戦士のガントレット RARE


 それはリザルト画面で、Fはフィラ、この世界の通貨、Eは経験値、Dがドロップアイテム。


 この時、俺は自身の誤解をまた一つ知る。


「レアドロップが二つ――」


 BCOのボス討伐報酬のレアドロップは、このボスソロボーナスと表示されているソロでのみ入手可能なものだと考えていた。


 しかし、通常ドロップにもRAREのアイテムが出ているということは、今まではただ運が悪かっただけということなのかもしれない。そして、このソロボーナスは経験値が約五割増しであるためかなり大きい。


 ボスをソロで狩るメリットは少ないと考える、それがセオリーである現状では、絶対に誰も気付くことのできないことだ。この優位性は、俺とこの世界の相性の良さを表している。


 リザルトを払って消すと、戦闘フィールドの外へと俺は向かう。


 ボスのいるフィールドは、専用の固有空間になっているが、撤退はできるようだった。


 これなら無理な戦闘継続をせずに、ボスについて情報を引き出した上で、撤退も今後思案しなくてはいけない。


 入手したバーバリアンの防具は、ネガティブがAGIに対し以上に高かったため、おそらく今後はストレージで埃を被るかホームの倉庫行きになる。


 戦士のガントレットは、さすがレアだけあってなかなかに強力な装備だった。


 スキルもAGI強化にSTR特化で多少VITにネガティブだが、発動時間20秒なら瞬間火力のブーストに最適だ。猫の腕輪よりDEXが劣るが、その分STRが上昇する。


 すぐさまその二つを交換して口元を緩める、この瞬間は自身でも自覚のある欠点の一つだ。


 注意力散漫な俺は、走ってくるイノシシのようなモンスター、ウリゴーの体当たりをまともにくらった。


「……がっ!」


 プログラミングされたモブのそれが、俺を見て笑っているように見えた。


「……この――」



 ウリゴーの一件を済ませた俺が、武器を収めた時に丁度メッセージが入る。


 差出人はナナからで、件名は〝たすけt〟だった。


 余程の急を要したのだろう、文が途中までしかない、いや、打ち込む暇がないほどの状態であることはすぐ理解できた。


 フレンドの項目で、ナナのいる場所を確認する。


 【KJ】:IN:ORDER:F6―A5

 【MARI】※ブロック中

 【7NANA7】:IN:――:F6―A5

 【KAITO】:IN:――:始まりし街

 【BJ】:IN:FamIlIar:F3―A1


 ビージェイのギルドが〝ファミリア〟である事実は置いといて。


「第5エリアのフィールド6……」


 A~Dまでの五大陸中の最初の大陸A、その内大きなエリアの5番にあるフィールド6、そこはおそらくボスエリアだろう。


 偶然俺がボスと戦っていた時に、ナナとケージェイもボスと戦っていた、ということではなく、俺が狙って被せたのだ。


 しかし、まだ戦闘中とは思いもしなかった。


 戦闘は彼らが戦い始めた後に俺が開始したため、人数が多い彼らの方が早く終わるだろうと予想していたからだ。


「直接行くべきか……」


 判断し辛い状況に、俺は手持ちの転移アイテムを使うか迷う。


 このBCOの転移アイテムは、レアドロップでのみ入手可能なアイテムで、そう簡単には使いたくない。だが、そうして迷っている俺に追い討ちとなるメッセージが届く。


 ケージェイからで、件名が〝絶対に来てはいけない〟と書かれたそれを見た俺は、あの薄気味悪いピエロの顔がチラついて、転移アイテムを手元に出現させていた。


「転移!ヘイビア!」


 絶対にただ事ではない。


 ケージェイにしてあの言い様、必ず普通ではない事態に陥っている。


 鮮やかなエフェクトに包まれた俺は、ヘイビアへと転移し、そこから第5エリアまで駆け出した。

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