第27話 10 乱入者
なぁKJさん、何であんな子どもに声をかけるんだ?
そんなラビットの言葉に即答できないのは、その答えを自身も理解できていないのだろう。
もしかすると、それは初めて目にしたヤトが、この不条理な世界で口元に笑みを浮かべていたからなのかもしれない。ナナに感じた危うさとは違い、ヤトに感じたのは、この状況でも笑えるくらいの何かを、彼が持っているのかも知れないと思ったからかもしれない。
思えばこの世界で時折、自分も口元に笑みを浮かべていなかっただろうか?それを表には出していなくても心で浮かべていた気がする。それに関してはどうしてなのか考えずとも分かっている。
17歳でFDVRMMORPGを始めたばかりの頃のことだった。
最近主流となっている娯楽は、拡張現実であるARを用いたものになった現代で、俺は古臭いと今時の若者に言われる、フルダイブのVRを好んでプレイしていた。
そんな時、攻略情報をネットサルベージしていた時に見つけた記事に心奪われた。
タイトルは、「1万人を仮想空間に閉じ込めた凶悪なVRMMORPG」だった。
それはフルダイブが普及し始めた当初に起こった事件の記事で、内容はそのタイトルに実際に閉じ込められた人物の実体験などを含む全貌だった。
βテスターと他のプレイヤーの確執や、βテスターの中にはチートに匹敵するほどの情報を持ってたとされる者もいたらしい。
この記事の著者は、自身が攻略組みではないと前置きした上で語っていたため、内容に関しては〝だろう〟や〝だったようだ〟のニュアンスが多かった。
もっと分かりやすい視点から書かれた記事がないか、と探した時に見つけたのが、攻略組みのメンバーが書いた自伝だった。
PKを犯罪と知りながら行っていたプレイヤーたちとギルド、そのギルドの討伐をした攻略組のプレイヤー。
フロアボスの討伐の実態や攻略組みの戦いの全貌等、その他にも帰還してからの苦労や迫害まがいな嫌がらせ、と内容は多岐に亘っていた。
彼の語っていた言葉で一番多かったのは、〝二刀流ソロプレイヤー〟と〝最強のギルドのマスター〟の二つ。
その二つについて語られていたことは、推測も多かったが殆ど彼が体験したもので。
〝二刀流ソロプレイヤー〟に関しては、虚実が不鮮明だったため、著者が記すことが少なかった。
だからというわけではないが、一番気になったのは最強ギルドのマスターの方だった。
圧倒的センスと強さで他のギルドからも信頼が厚かった最強ギルドのマスター。
鉄壁と言っていい楯によるガードは、そのHPバーを緑から黄へ変えることはなく、常に最前線でゲーム攻略を進めていたそのギルドマスターは、とても惹かれる存在になった。
本を読み進めるていたある時、その存在がある階層ボスで消失してしまった時には自然と目から涙が溢れていた。己を犠牲にして、他のプレイヤーの道標となり、牽引してきた彼がいたからこそ、きっと攻略組みは百層まで攻略できたのだと今では思っている。
そんな〝最強ギルドのマスター〟に憧れて、銃主体のタイトルでプレイし始めた私は、剣中心のタイトルへコンバートするも、その世界に魔法があったことで、すぐに別のタイトルを探した。
そしてある日、新規のタイトルのテスター募集が届き、中を開いた瞬間に思った。
〝この世界は、きっとあの世界に似ている〟――と。
【Blade Chain Online】
このBCOこそ、あの剣の世界に酷似している、と思いダイブした俺は肩を落とした。
システムアシストが存在しない剣の世界は、あの世界の偽物でしかなかった。
しかし、現状のタイトルで剣のみという世界は存在していない。
私は、妥協してこの世界で戦士になると決めた。もちろん正式オープンしたならば、間違いなく最強ギルドマスターになるつもりでいた。
そうして正式オープン当日、不敵な笑みが前に現れ、そのピエロの言葉に叫んでいた。
「まさに天啓!」
笑いが堪えられなかった!ピエロの言葉など耳半分しか聞こえていない!
「この世界に私は!愛された!」
プレイヤー1万人が仮想世界に囚われる。
過去の事件と同じ状況、憧れた世界とこの偽物の世界が重なった気がした。
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