第18話
「ちょっといいかい――」
どうやら、今日は初日に劣るものの厄日らしい。
振り返るとそこには、長い黒髪に、面はこの日あったどの女性プレイヤーよりも美しく、特に怪しくはないがすぐに信用したくはない顔の、そんな印象の――
「キミはテスターだね、頭に文字が浮いているし、出来ればでいいんだけどこの世界のレクチャーしてくれないかな?あぁごめんね、ボクはカイト、で、どうかな?」
非テスターの彼女が最初に俺みたいなテスターに声をかける、それ自体に違和感しかなく、俺はあしらうように言う。
「……チュートリアルでも受ければいいだろ」
チュートリアルを受ければ、俺の教えなんて必要はない。
「それがさ、どうやらヘルプ機能がロックされているらしくて、チュートリアルが受けられないみたいなんだ」
なるほどな、この理不尽はジョーカーの仕業だろう。ヘルプ機能全体のバグなんて考えられないからな。
「……あんたフルダイブのVRMMORPGは初めてか?」
「まぁーね、MMORPGはあまり経験ないんだ、よく分かったね」
別にそうだと分かったわけじゃない、初めてか?そう聞いただけだ。
「……そうか、じゃあこれまでに何人に話しかけた?」
「キミ以外にかけた覚えはないな」
そんな不自然な答えがあるか。
「きっと別の誰かに聞いても、"フルダイブのVRMMORPGは初めてか?"と言っただろうな」
「どうしてかな?」
初心者かどうかすぐに分かるからだよ……、これだから素人は。
「仕方ないな、俺が教えてやる、場所を変えるぞ」
「よろしくねヤト」
俺は名乗っていない名前を呼ばれて一瞬立ち止まるが、そもそもマリシャにナナが大声で俺の名前を呼んでいたのだから、彼女が知っていても不思議ではない。その考えが浮かんで再び歩き始めた。
俺はカイトを連れ、始まりし街の外へと出た。
広い平原は低い崖が唐突にあったりして、直線では移動しにくいフィールドになっている。
モンスターの現れない場所でカイトに質問する。
「装備を見せてくれ」
「いいよ」
そう言ってカイトは、自身のステータスを表示したウィンドウを俺に向ける。
他人のウィンドウは許可がなくても見ることができる、が、本来は設定で見れないようにできるのだが、機能をロックされている現状では無理だ。
現状では画面の大きな旧型タブレットのようなもの、それに視界を向けると。
LV:1
HP:160(160)
STR:10(30)
VIT:10(35)
DEX:10(10)
AGI:10(9)
「……」
初期のステータス、見事にランダム平均振り分けだな。そう思いつつ装備の項目へ。
武器 1:初心者の剣――
防具 1:初心者の胸当て――
装飾 1:ジョーカーのハナタバ――
初心者装備、細かい部分は他人には見えないようになっている。スキルはどうなっているのだろう。それに――
「この装飾はなんだ?」
「これ?これはね、あのピエロの仕業だよ。ボクたち後乗り組は全員最初から装飾に付けられていて外せないんだ」
装飾スロットの占拠か、……これは地味に効くな。
「ピエロ曰く、〝むさい男どもにはハナクソを、ブスな女どもにはメクソを、タイプな女の子にはハナタバを〟だってさ」
カイトのそれはピエロの真似だろうが……全然似てはいない、可愛く見えるだけだった。
「それぞれ効果があるらしいよ……ボクのはドロップ率増の大、メから始まるのはドロップ率減小、それで、もう一つはドロップ率減で、確立は大中小の個人差あるようだよ」
ふざけたことを考える、まるで子どもだな。
話を終えると、俺は拳を構えてカイトの腹を殴りつける振りをする。カイトは一瞬遅れて体を仰け反らせると、驚いた表情を浮かべて言う。
「驚いたな~急に何だい?」
俺はカイトの腕を掴み、指で小突くと、頭の上にKAITOと名前が表示され、緑色のHPバーがミリほど減り現れる。
「痛くはないんだけど、女の子に何してるのさヤト」
ルナになってからは名称が変わったが、所謂仮想の痛みを生成するそれは、本体の脳が勘違いで生成する〝本来ないはず〟のそれを緩和する感覚再生エンジン。
ルナはゲームバランス自動改善システムの愛称で、類似するものによっては、クエストの生成もしていたらしい。ルナにその機能が無い事は、前に記事で読んだことがある。
BCOには、独自の武器ジェネレートシステムがあるらしいが……名前は忘れた、愛称でもあれば忘れなかったんだろうが。
「どうやら、痛みは抑えられているようだな」
もう一発、さらに数度腕を小突くと、ようやくHPバーが緑から黄色に変わる。
「こらこら、さっきから無言で~説明してよ、ちゃんと」
「教えて欲しいんだろ?フルダイブVRMMOってやつをさ」
そうカイト言った俺は、唇の端に笑みを刻んだ。
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