第17話 5 洗礼
ケージェイに別れを告げてから、始まりし街の酒場を出た時に、俺は内心うずうずしていた。
こんな状況だというのに、こんなにも戦いたい、そう思ったことは今まであっただろうか、いやあったに違いない。自分と仮想世界が本当に一つになった気分、あえてこの状況を作り出した人間が、どれだけの理不尽を用意しているのか分からないのにも関わらずだ。
攻撃を受けた時の痛みが増幅されているかもしれない、チート級のモンスターがその辺で現れるかもしれない。
そんな状況でも、そう、そんな状況だからこそ――
「ちょっと!待ちなさいよ!」
その声が俺を呼び止めるものだとは思わなかった。
不意に腕を掴まれた俺は、振り向きざまに睨みつける。
「……なんだ――あんたか」
そこには、さっき酒場で別れたはずのナナが立っていた。
彼女に話しかけられる理由に心当たりがなく、俺はさらに警戒心を強める。
「……で、なんなんだ」
「ちょ、ちょっとあんたに話があんのよ」
俺に話し?
「……」
ナナが話そうとして口を開いた瞬間だった。
「ヤ~トくん、さっきぶり~!ね~ね~、私とフレンドになってくれないかな~」
この耳障りな喋り方はマリシャだろう、俺は彼女に拒否の意思を持って眉を顰めた。
「ちょっと!まだ私が――」
「はい!送っとくので~登録よろしくね!」
視界の端でハートのマークが現れて点滅し始める。
そのマークの上に〝1〟の文字が表示されているが、これはフレンド申請の数だろう。
フレンド申請は対面する相手になら強制的に送れる、もちろんブロックは可能だ。
「……別に、登録しなくても――」
そう言った俺の視界の〝1〟の文字が〝2〟に変わる。
現在俺の視界にいる二人目が、無遠慮にそれを送りつける。
「私もついでに送ったから!登録しといてよね」
「……」
ツンデレ風なナナと、満面の笑みのマリシャ。俺はとりあえずフレンドの項目を選択してウィンドウを開く。
【KJ】:IN:――:始まりし街街中
【MARI】:申請中
【7NANA7】:申請中
マリシャは偽名。ナナにいたっては7NANA7?スリーセブンという意味か?
検索申請対策というやつだろう。これをするのは特に女のプレイヤーには多く、これは仮想世界での自己セキュリティー。非常に不本意な所だが〝後で削除もできる〟ということが、この時の俺に〝一括登録〟を選択させた。
「ヤトくん登録ありがとね~。あと、声かける時は〝マリシャ〟って呼んでね」
そう言ったマリシャは、転移ポートへ向かって行った。
「私は〝ナナ〟って声かけて……それじゃ――」
ナナも転移ポートへ走って行く。おそらくだが、俺の風貌から情報屋とでも勘違いしたのだろう。剣を装備していないのもそう見えた原因かもしれない。
ケージェイが選んだメンバーで、唯一俺がそれ風だったし、俺的にはラビットの方がそれに関して得意そうに見えた。
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