第16話
「私のことはもう知っているだろうが、ケージェイだ。今日キミたちに集まってもらったのは、キミたちに私のギルドに参加してもらうためだ」
大体予想はついていた、今日この段階でケージェイが呼び出す理由にそれ以外思いつかない。
「何でこのメンバー?私に声がかかった理由を知りたいかな」
ナナの意見は正論だ、今ここに集まっている顔ぶれは規則性もなにもない。
ケージェイはナナの疑問に対し解を述べ始める。
「ヘイザーはサブマスター、クラウは参謀、それ以外も私なりに考えがあって選んである、ナナに関してもそうだ」
「……なら答えて、どうして私に声をかけたの?」
ナナはどうしてもそれが知りたい口ぶりで、しつこくケージェイに尋ねた。
「キミは危うい、この世界に来てあのピエロの言葉を聞いた後で私は少し不安になった。他のプレイヤーもそれぞれ幅に違いはあれ、顔色を曇らせていた」
それが普通だ、そう言ってケージェイはナナを見る。
「だがキミは平然として、あの黒い空間から出てきた、出てすぐにステータス画面のログアウトボタンを確認せず、装備を付け始めた……、とてもじゃないが声をかけずにはいられなかった」
「……そう」
彼女はそれ以上何も聞かなかった。
「悪いがケージェイ、俺はすでにギルドマスターだ、だからあんたの下につく気はない」
「……そうか、ならしかたないな」
「レイネシア、行くぞ」
「私も彼、ヘイザーのギルドの一員だから」
そう言ってヘイザーとレイネシアは酒場の個室から出て行く。
その後ケージェイが、他に出て行きたい者は?という問いに、手を上げたのは俺だけだった。
「別に今すぐ出て行こうって訳じゃない、話を最後まで聞いた上で判断したい」
俺の言葉にケージェイは肯く。
「"現状で判断しかねるから最後まで聞いて決める"……少年、"あざといな"キミは――」
抜け目がなく貪欲である、または"あくらつだ"という意味のそれを口にするラビット。
俺は視線をそいつに向けて言ってやる。
「性分なんだ」
「構わないさ、ヤトには聞く権利がある」
ケージェイはそう言って語る。それはこの世界、いや、ケージェイの理想とする世界を維持する根幹。ケージェイを筆頭に、ここにいるメンバーで他のギルドを管理する。
この三日でケージェイは、各テスターたちを説得して掲示板を利用した投票を行っていた。
それで彼が1867名のギルドのマスターとなることが決まり、ばらつきがあるものの複数のギルドマスターが彼の掲示板に書き込みを残した。
それらをBCO内の筆記アイテムにコピーし集計した結果、1457名のギルド参加を確認し、67ギルドの加入を認証した。
残りの410名はソロだったり、参加意思がなかったり、ギルドの人数が定員に満たないために認証できなかったらしい。もちろん、ケージェイのギルドメンバーも拭くむ。
「このギルドが目指すのは秩序になる。ギルドの掲示板に書き込まれた問題を解決することもこのギルドの役割だ」
「そうなれば攻略どころじゃなくなる、そこで"攻略組み"ってことだね。先人の知恵に習えってやつだ」
「今はまだ"不安"がプレイヤーの心にある、が、人は良くも悪くも慣れてしまえる」
慣れたんじゃない……慣れるしかないんだ。
「すでに自由は与えてある、それでも反発する者とは戦うしかない」
人はそれぞれ違う、それなのに価値観を互いに押し付けあう。
相手に自身の価値観を理解して欲しいから。
でも、誰しもがそれを許容できるわけではない。
強要に妥協し自身を騙すか、妥協せず自身を貫き個になるか。
「悪いがケージェイ、俺は降りる」
「…………理由は?」
理由?
「……俺はゲーマーだ、あんたらだってゲーマーだ。この世界にいるほぼ全てのプレイヤーはゲーマーだ」
この世界は現実とは違う。
「ゲーマーである以上は、ステータスで優劣が決まるのには納得できる。だが、誰かの理想に乗っかるなんてのはごめんだ」
立ち上がった俺をケージェイは止めない。
「ケージェイ、別にあんたを嫌って言っているわけじゃない」
「だろうね、キミの言いたいことは分かるよヤト」
部屋を立ち去ろうと立ち上がった俺、そしてそれに続くようにナナが立ち上がる。
「私も、このギルドには入らないわ」
そしてもう1人。
「私も~他のギルドから声がかかってるので~やっぱり止めます」
マリシャが立ち上がった瞬間に、ラビットは明らかに溜め息を付いた。
おそらく、先刻俺に対して言った言葉で、自身が"抜けたい"とは言えない状況を作ってしまった、そのことに対する溜め息だろう。
よほどラビットの中では、マリシャとナナが席を立ったのが意外なのだろう。むしろ、彼女たちは始めから俺と同じ考えだったような気がする。そうして、俺と2人が部屋を出ようとするとケージェイは最後にこう言った。
「フレンドには残しておく、だから気が変わったらいつでも連絡してくれ」
その言葉は何も変なことを言っていない、だが、その時の俺は他意があるように思えてならなかった。
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