第14話

 その後、ケージェイとフレンド登録を済ませた俺たちは、すぐに他のテスターに参加を募り、転移ポートでそれぞれテスターたちを集めながら、8000人のいる始まりし街へと向かった。


 始まりし街に転移すると、そこは人で溢れかえっていた。


 広場はそれなりに広いはずなのだが、さすがに約1万という数が集まると狭く感じてしまうものだ。


「責任者だせよ!」

「どうすりゃいいんだよ!」

「怖いよ、お母~さん!」

「誰か助けてぇ……」


 今にも割れそうな風船、俺の視界にはそう映っていた。


 誰かが鋭利な物を突きたてるように、動力となる負の感情を振り撒いた瞬間割れてしまいそうだが、現状にそれらしき者はいない。


 俺たちがそうなるかもしれないが――


 群集の中をケージェイは先頭に立って進んで行く。その後ろを俺やメガネ男が付いて歩く。


 将来的に何かのイベントで使うであろう、今はまだ何も載っていない台座に飛び上がったケージェイは、声を張り上げて注目を集める。


「きみたちは!現状を理解しているか!」


 騒いでいた集団が一斉にケージェイに視線を集める。


 テスターだぞ。


 テスターだ。


 そんな声がヒソヒソと囁かれ呟かれる。


「我々は現在!このBCOの世界に!囚われてしまっている!」


 自身の置かれた状況を知る術が、あのピエロ言葉だけでは不安になっても仕方がない。


「今も!何人か!突然な強制ログアウトしていることを確認している!」


 もし自分が、この視線に晒されたとして、こんなにも堂々と話すことだできるだろうか。


「リアルでHMCを外したことによる強制ログアウト!彼らの安否は不明だ!」


 ここで死ねば元の世界に帰れるだろ!


 そんな誰かの言葉に、ケージェイは一つの打開策を打ち出す。


「死ぬな!今ここで死ねば、リアルで本当に死ぬのかもしれない!一日だ!一日待てば全てが分かる!」


 何を根拠に言ってやがる!


 そうよ!一日待ったからってリアルで死んでいる証拠にはならないわ!


「証明にはなる!」


 ケージェイの言うとおり証明にはなる。


 現在ここにいる人間が一日経っても変わらずここにいた場合、向こうで"そういったこと"が実際に起きていなければ説明がつかない。


 話に納得した声が上がる中、1人の男が声を荒げる。


「俺は!騙されないぞ!お前らテスターは殆どがデータ引き継いでるんだろ!一日が二日!二日が三日ってなって!その間に!上手い狩場でレベル上げる気だろ!」


 茶髪に今時の髪型をした男の言葉に、一度は落ち着いた空気が再び燻りだす。


「前にも似た事件で!ベータテスターが!そうやって新人を出し抜いたって!こっちは知ってるんだぞ!」


 過去の事件の当事者の一つの見解なんだろうが、そういうことをしたβテスターが確かにいた――と本で呼んだ記憶がある。


 その事件をきっかけに、日本内では"β"という言葉の使用をFD環境下のVRMMOでは控えるようになったのも事実だ。


「そうだ!俺も聞いたぞ!」

「俺たちを騙すつもりか!」


 騒ぎ出す群集、それを収める手段は少ない。


 言葉による説得か、もしくは、力による説得か。


 徐にケージェイは、背中に背負った俺の身長より少し小さい大剣を手に取り、横一線に薙ぎ払う。すると、空気が広場全体に行き渡って肌がピリつく。


 そして、大剣を肩に乗せたケージェイは笑顔で言った。


「今更遅い!もうキミたち非テスターと私たちテスターには大きく差がある!」


 過去の事件とは違う。


 過去の事件では経験に差はあったが、スタートが一緒だったために、βとそうでない者で競争が起きた。しかし、今回で言えばすでにスタートのラインが違う。


 しかも、過去の事件では、"仮想世界に囚われる"ということ事態が初めてだった。


 だが、今回はその事件でなんとなく、ここにいる皆が、フルダイブプレイヤーだからこそ想像に得難くない物を始めから持っている。


「私たちはキミたちを見捨てない!こうしてここに立っていることこそが―――」


 ――その証だ!

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