第12話
その後、視線を街中に向けると、中心には人が集まり始めていた。
現状次のエリアへ向かうことはできる、が、それよりも今は情報を収集することにプライオリティーの高さを感じて、俺はその集まりへ向かった。
数百人のテスターが集まって話をしている。話題はもちろん自分たちの現状だ。
「冗談なのか?」
「だったらGM呼べないのはどうよ」
「その前にログアウトできないのが事実でしょう」
「これやばいわ~」
真剣に悩んでいる奴の中で、未だ半信半疑でふざけている奴もいる。
そんな中で一人の男が叫びだす。
「ヤバイ!ヤバイ!俺死んじゃう!」
男は二十代であろう容姿に茶髪で装備はまだ付けていない。
「俺!十五分たったら彼女にHMC外してって言ってあるんだよ!どうしよう!後一分しかない!」
「死亡確定ー」
「乙です~」
「どうにか連絡できないのか?」
「もう遅いだろ……」
時計が15になった瞬間に、男はバタリと倒れて白いエフェクトと共に消えてなくなる。
それは強制ログアウト時と同じだった。
「これで死ぬかどうか分かるな!」
「ば~か、こっちに知らせる方法がないっての」
結局、その後男が再度ログインすることはなく。
話題は始まりし街へと向く。
「今頃、始まりし街はPvPで死者多数かも」
「俺のフレ五人くらい"いいえ"を選択したみたいだ」
「テスターだってバレバレだしな」
そう、自身の頭の上に出ている"T"の文字は見えないが、周囲のテスターの上にはその文字があった。
フレンド登録していると、その人がどこにいるのか、レベルがいくつなのかが見れるため、確実に"いいえ"を選んだ人もいることが分かる。
「……おい、俺のフレが一人ログアウトしたぞ」
「あ、俺も!」
「俺もだ……あ!また!」
そのログアウトがどちらを意味しているのか、誰にも答えが出せない。
リアルでHMCを外されたためにそうなったのか、強制的なPvPを街中で仕掛けられてそうなったのか。街中は戦闘行為ができない、が、PvPでありがちなデュエルは別で、相手に剣を当てると、その人物の視界に決闘を受けるか否かの文字が浮かぶ。
仮に"T"の文字を持つ一人を羽交い絞めにして、剣で突き、その後指を操って勝手に認証してしまえば街中でもPKはできる。ステータスが同一だから起きうる行為ではある、だから、今が一番起こりやすいとも言える。
「おそらくはHMCを外したことによるログアウトだろうな」
一人の男がそう言う。
男は体躯のガッシリした強面で、腕は丸太のように太かった。
正直、それが本来の姿なら格闘家か何かかと思わせる風貌だ。
「どうしてそう言える?」
俺は咄嗟にそう口にしていた。
「始まって15分だ、殺し合いが始まったにしては早すぎる」
たしかに、男の言葉は理解できる。ここにいる俺たちもまだ決めかねている。
「だが、このままだといつかはそれが起こるかもしれない、今は疑いを持った者が多数を占めるが、いづれはそれが少数になる」
「そうなると人はもう止まらない」
俺と男は目を合わせて話を続ける。
「今すぐ始まりし街へ行って、レベル1のテスターをこの街まで連れて来る必要がある、でないと――」
「レベル1のテスターたちはそこから自力では抜け出せない、街から出たらモンスターが待ち構え――」
「後ろからは非テスターたちが押し寄せてくる、……それに、一時間もすれば街中でテスターを拘束するよう声を上げる者が現れるだろう」
数が少ないテスターが有利なのは現状だけ、数週間も過ぎれば非テスターたちに追いつかれて物量で潰されるかもしれない。
「大事なのは今だ、まだレベルが低い非テスターたちに"秩序"を与えなくてはいけない」
男の言葉はもっともだが、それはいずれ不満となり膨れ上がって爆発するかもしれないものであるのは事実。
秩序が成り立つのは、それが自由であるからだ。
こんな閉ざされた世界で秩序を作った場合、不満がいつかはその檻を破って暴れだす。
「必要なのは秩序じゃない……自由であることだ――」
俺の言葉に男は笑みを浮かべ、そしてこう言った。
与えるさ"秩序"という名の"自由"をな。
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