第11話 2 閉ざされた世界


 視界に入る草原。それは、テスト期間の最後にログアウトした街外れの境界線の上。


 その先に広がるのは、テストでは入れなかったエリア。本当ならこの先にを見るには、始まりし街で再びレベル1からスタートして、ある程度時間をかけて到達するはずだった。


 しかし、それは突如ジョーカーと名乗るピエロに宣告された言葉で、再びこの場所に現れることになった。


「……ステータス!」


 左手を左に振ってウィンドウを開くと、そこにあるキャラクターステータスを選ぶ。


「……レベル――」


 LV:19

 HP:3158(3158)

 STR:78(78)

 VIT:43(43)

 DEX:52(52)

 AGI:65(65)


「…………」


 俺が言葉を失ったのはそのステータスを目にしたからではなく。


「……これは――俺だ!」


 キャラクターステータスのウィンドウに、はっきりと現実世界の俺がアバターとして映っている。その姿は、テスト期間で使っていた顔ではない。


 網膜認証や指紋認証に使うあのアバターなのだ。声にしても現実の俺そのものだった。


 おそらくはHMCの基礎登録の一つ音声認証機能の設定時に、"あいうえお"から"わをん"までが入った謎の文章を読まされるのだが、HMCの中にデータが残っているためそれで再現しているのだろう。


 その鋭い目つきは、"鋭くて怖い"と前に誰かに言われた記憶がある。


 16にしては少し大人びていると言われる顔立ちに、十代の幼さはない。


「どうして……」


 それがあのピエロの仕業であることは間違いなかった。


 図鑑はロックされ、機能で使えるのはフレンドの項目だけ。


 装備を選択して項目のアイテムストレージを選択すると、テストの段階で手に入れた装備が全てある。回復等のアンプルも各種残っていた。


 装備は一度外されてストレージに戻っていたが、おそらくアバターが変わったからだろうと推測できる。


「……早めに装備しておくべきか――」


 指でドラッグして装備を付けていく。


 武器

 1:ローズソード【片手長剣】STR48 HP8%

 防具

 1:フロントアーマー【鎧】VIT52 AGIー9

 2:コルラの腕輪【腕】VIT15 DEX15

 3:ミリタリーブーツ【足】AGI30 VIT20

 4:暗殺者のストール【頭】AGI5 VIT5 DEX5

 装飾

 1:コルラの耳飾り【アクセサリー】DEX20

 2:

 3:


 その結果、上から黒、黒、黒と黒一色に、腰に赤い鞘の剣という見てくれが悪人のような仕上がりになってしまう。ストールで口元も隠れて鋭い目つきが際立っている。


 明らかに初対面で嫌がられること間違いないな。


 そう思いながら踵を返すと、まだ形も覚えきれていない街が視界に入り、"とりあえずは"と歩き始める。


 街に入った瞬間、不意に"街中で剣は抜けるのか?"という疑問が浮かび、左腰の剣を抜こうとする。


「……抜けた――」


 そうして俺は、その剣をオブジェクトに振り下ろす。


 紫のエフェクトが発生して、六角形の透明の板に赤文字英語で表記される"破壊不能"の文字に不快な音。


「ふー……ま、そうだよな」


 安心したのは、街中が安全なセーフゾーンであると確認できたからだ。


 これで唐突なPvPの発生はない。


 もう一度キャラクターステータスを開いて、装備後のステータスを見る。


 LV:19

 HP:3158(3411)

 STR:78(126)

 VIT:43(135)

 DEX:52(92)

 AGI:65(91)


「どうやら下方修正は入ってないみたいだな」


 枠内のその数値は装備の性能込みの数値で、テストの時となんら変わりはなかった。

 ホッと一安心してもう一度ログアウトボタンの有無を確認する、が、やはりそこには何もなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る