第10話
軽快なファンファーレと同時に突然現れたポリゴンの荒いピエロ。
俺はGMのイタズラなのかと思って少し後ずさる。
『やーやーどうも!プレイヤーの諸君!BCOの世界へようこそ!』
いかにもピエロっぽい高い電子音声、見た目は妙な不気味さを放っていた。
『僕はジョーカー、君たちにはお知らせをしているよ!』
何かのイベントか?まだ名前を決めただけなのにそんなはずがない。
『現在時刻を持ってプレイヤー諸君は、このBCO――ブレイド・チェーン・オンラインに囚われの身となりました!おめでとー!』
FDVRMMOが普及し始めた頃にそういう事件があって、今ではあまり振れてはいけない話題になっている。
まして、GM側がそれに近い内容のイベントを進行するなんてありえない。
その違和感に徐々に鼓動が速くなる。
『オープンと同時に、マスコミ各社やネットにはそれとなく情報を与えたから、現状君たちの身は安全だ!』
「一体どういうつもりなんだ……」
一方的なピエロの話は続く。
『君たちに届いたであろうプレゼントは受け取って貰えたことだろう!』
目の前に開いたウィンドウには、ある画像が表示されていた。
「これは今朝の……」
朝方に配達員から受け取った小型の外部ハード。
『その画像のハードは、セキュリティーなんとかって書いてあったと思うけど!』
『全部うっそ~!これはね!超小型のセンサー爆弾なのです!』
「……」
爆弾、今このピエロは爆弾と言ったのか?
『これをHMCに取り付けて、このBCOにログインしたら最後!爆弾のセンサーが作動しちゃうのです!』
これは――
『想像してみて!キミの頭がレンジに入った生卵みたいに弾けちゃうところを!』
何かの冗談なのか――
『発動したらこの爆弾は取り外し不可能!無理に外そうとすればタイマーが起動して数秒でバン!気付かずにHMCを外してもバン!』
いや、確かに俺はここにいる。
『もちろん、この世界で死んじゃっても―――バン!』
「イタズラにしては度が過ぎる……」
『まだ疑っているキミ~!左手でログアウトのボタンを押してみよう!』
俺は左手を振ってウィンドウを開く――
キャラクターステータス、装備、図鑑、機能、その他――
それに続くはずのログアウトの文字が無くなっていた。
『もうそろそろ信用した?信用しようが信用しなかろうが、キミたちにここから出る手段は何一つとして残ってない!』
これじゃまるでいつかのデスゲームの再現ではないか、そんなはずはないのに、背筋が凍る感覚に襲われる。
『あ!間違いました!出る手段はあるのです!これはゲーム!ルールを設けよう!ルールは簡単!このゲームの全大陸をクリアすること!』
いつだったか、レンタルしたデジタルの本で見た過去の事件の実体験の話を、今まさに自身が体験している違和感。
『そして!優しい~僕はもう一つ!クリア条件を増やしてあげます!その条件は――』
「………」
『約2千人のテスターの全滅!もしくは約8千人の非テスターの全滅だ~!始まるぞ!P!V!P!質が勝るのか!数が勝るのか!?』
「……なんだと――」
ピエロのアバターが不敵な笑みを浮かべいる。
『テスターの頭には"T"の文字が浮かんでいるから、しっかりと差別化できているのでご安心を~!』
"テスター"対"非テスター"。
『どうだい!サイコーのゲームだろ?人と人との殺し合い、楽しいね~!ゾクゾクするね~!爆弾が付いたキミたちの現実の体も~病院に運び入れるなんてできないだろうね~!』
アレが本当に爆弾だった場合、仮想世界で死んだ瞬間に現実では爆発が起こる。
つまり、誰が近くにいるか分からないのにBCO内で急に死んだりしたら、現実で人を巻き込んで爆発してしまう。
誰も、怖くて近づけない、意識のない体を介護するどころじゃない。
そう考えると、過去の事件よりも質が悪い。
『あ!そうだ!まだ残酷なお知らせがあります!テスター諸君!"いいえ"を選んだキミ~!残念!』
俺が"はい"を選択したアレか――
『弱くてニューゲームだよ!始まった途端に"始まりし街"からのスタートだ!周りは非テスターだらけ!どうだい!興奮するだろ~!』
この時、俺の脳裏には記憶にある始まりし街で、敵だと言われた連中から囲まれて袋叩きにあう、そんな光景が広がって――ハッとする。
『"はい"を選んだキミは運がいいね~!すぐに非テスターたちを殺せちゃうよ!僕なら興奮して鼻血がでちゃうな~!』
俺は自分が他プレイヤーを殺すことがイメージできない、本当に命のやり取りをしたことなんてないのだから。
『それじゃ~!レッツ!キリング!――――』
ピエロの頭がパン!と破裂して消え、あとには余韻と静けさだけが残る。
「……悪趣味だな――」
その後、すぐに俺の視界は真っ暗になった。
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