NEW WORLD

第9話 1歪まされた世界


 2052年11月


 デジタル表記の時計が、視界中央の上部で11と01、そして、00:00に変わると、俺は頭のHMCの指定位置を2回指でタップする。笑みを浮かべる顔が無表情に変わる頃には、俺は仮想空間にいることだろう。そして、夕方までは一度休憩するまでは多分ログアウトもしない。


 そんなことを考えながら、俺の意識は体から離れてHMCを通しその世界へと向かう。


 例の空間に設定した姿の俺が現れると、目の前の項目を視界に入れる。


 CharacterName:


 その項目に打ち込むのはこの世界の俺の名前。


「Y、A、T、Oっと……」


 YATOそれが俺の名前である。名前が決定した時点で何故か新たに項目が表示される。


 "キャラクターを引き継ぎますか?"


「なんだこれ――」


 内容はテスト期間のステータスを引き継ぐかどうかだった。


 そんなこと普通なら絶対にありえない項目で、より早く強くなるためにプレイヤーが努力するMMOにとって、テストからの引継ぎはチートを使うようなものだ。


 GM側がそんなことを理解していながら、引き継ぎの項目を入れるなんてことは馬鹿げたことで、新規ユーザーからしたら堪ったもんじゃない。


「引き継ぎ……」


 俺はこの数週間のことを考えると、どうしても"いいえ"を選択する気にはなれなかった。 


 しかし、逆にこれが不具合だった場合は、スタートダッシュが完全に出遅れることになる。


「………」


 他のテスターだったらどうするだろう。


 "いいえ"を選べば間違いなく誰かと同じスタートライン。


 しかし、"はい"を選べば圧倒的な有利か、二日ぐらいの不利かのどちらかになる。


「他のテスターなら――」


 誰しも、こう思うかもしれない、二日ぐらいの遅れなら取り戻せる、と――


 "いいえ"を選ぶテスターは、確実に堅実にをこなす相手だ。


「賭けで大事なのは決断力と多少の無謀さだ――」


 俺は"はい"を選択した。


 この賭けは、このタイトルにおいての分岐点だったと、後になれば誰でもそう思う。

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