第6話

 チュートリアルを終え、早速モンスターとの戦いを始める俺は一人転移ポートへと向かう。 


 それからは、アラームが鳴り、ログアウトするまでの時間でレベルは7にまで上がっていた。


 その日は、他のゲームのイベントに参加するつもりでそのアラームをセットした俺だったが、ゼリーを夕飯代わりにトイレを済ませて再びBCOへとログインする。


 フルダイブに入り浸るのは俺にとって日常だが、テスト段階のゲームに他の時間を割いてログインしたことは一度もなかった。


 イベントもない、現状優先度の低いその世界に再度来た理由は、テスト段階でしか手に入らない装備の情報収集。これも、テストが終わって正式に始まった瞬間、一月ぐらいで役に立たなくなることが多い。


 しかし、この世界には同じ武器防具は存在しない、手に入れておけばもう誰もそれを得られない。逆に言えば、誰かに取られたらもう手に入らないのだ。それらの情報は正式オープン時に役立つ。


 こういうMMOのドロップは、モンスター一種類に付き一個の固定ドロップがあるのが普通で、初期に出会ったトリンボーというモンスターは、いかにも武器を落としそうになかった。


 経験値を稼ぎながら"こいつだ"という奴に出会うまで4時間費やし、レベル12になった俺はマジロンなるアルマジロを凶暴化させたような、その赤いモンスターを狩って狩って狩りまくった。


「これで!23!」


 一時間弱過ぎて23体目を倒した時に、軽快な効果音でレアドロップが表示される。


 この時ばかりは嬉しさで笑みも零れた。


「スクワルス――片手長剣、STR30、VIT0、DEX2、AGIはマイナス4、スキルは―――」


 スキル名:【ヴォーパルスラッシュ】


 リポップしたマジロンにそのスキルを試しに放ってみる。


 スラッシュというだけあって、構えは突きよりも斬るという感じの姿勢で、駆け足と同時に背中で何かが爆発したかのような轟音と共に剣が赤く閃光を放つ。


 VORPAL SLASHの文字が軌道に描かれると、マジロンの頭上に233と赤い文字が浮かんで、効果音もグレードアップしていてついつい声を上げてしまう。


「お~……スクワルスか――」


 ストライクスラッシュと同ランクであろうそのスキルは、おそらく初期の数多くあるスキルであることは当然なのだろうが、その体感の迫力は使った者にしか理解できない。


 その後もマジロンを狩り続けたが得られる物はなく、あとはモンスター単一に対して、各プレイヤーに別の名前の同じスキルの武器がドロップするかしないかを検証してみたい気はしたが、その検証は現状ソロである俺には縁のない試みだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る