第5話【チュートリアルⅡ】


 チュートリアルも中ほどに差し掛かると、漸くPVEの戦闘が始まった。


 スライム相当のモンスターであろうザコ敵に、レベル1の俺がHPを削りきるまでには3回~4回の攻撃が必要だった。


 システムアシストのない普通の攻撃は、よくて3~5のダメージが入る。試しに敵の攻撃を受けて見て驚愕する。


 HPは一割も減らないものの、自身の体に起きたことには驚かされた。


 FDVRMMOに必須なシステム――痛みを和らげるそれがかなり甘く設定されていた。リアルを求めるゲーマーにとって、これは致命的な幻想要素となり、敵の攻撃を受けて痛みを感じないなんて世界は、リアリストにとっては苦痛に近いのではないだろうか。テスト段階だから甘く設定しているならまだ納得はいくが、これが正式なサービスに活かされた場合は即落ち必至だろう。


 痛みを感じないヌルゲーで満足できるような奴は、フルダイブなんて物を選んだりしない。


 要改善の旨をGMに報告することを心に留め、俺は武器のスキルを使ってみる。


 剣を水平に構え、体が何かに押されてモンスターに突進すると、右手の剣が白いエフェクトを放って、次の瞬間にはモンスターを貫く。


 ダメージ33の赤文字と、ストライクスラッシュ、STRIKE SLASHの文字が効果音と同時に表示され、やはりそれには高揚感がある。


 今はこの片手長剣なる剣で、皆が等しくストライクスラッシュのスキルを使用しているが、将来的には世界に一つだけの誰も知らない武器で、誰も知らない自分だけのスキルを使って敵を倒す。そんな姿を想像すれば、MMOゲーマーならこれに高揚しないはずはない。


 戦闘のチュートリアルも終盤、紫のエフェクトと同時にNPCが現れる。


 女の姿のそれが現れると、何故か"ここを触って下さい"と矢印が表記される。


 NPCの胸に表記された矢印に思わず困惑する。


 GMのジョークなのだろうが、例えNPCと言えど、その胸を揉むなんて事をチュートリアルで要求されるなんて思いもしなかった。


 ゆっくりと優しくそれをわし掴む、ハラスメント警告の後NPCによる鉄拳制裁。


 こうなることは予想していたが、その後の視界に浮かんだ文字には少し苛立った。


 "警告:あなたの触り方ではこの女性は満足しませんでした、残念!"


 ここで一つ疑問に思うのは、これが女性のプレイヤーの場合には、〝どんな嫌がらせが待っていたのだろう〟というものだが、それはおそらくとてもくだらない疑問であることを察して頭の隅においやった。


 その後、そのNPCは片手長剣を手にとって、このタイトルのもう一つの特徴を知ることになる。


 味方同士の連携攻撃であるスイッチは、他のタイトルでもなんども経験していて、複数人による攻撃手段であり、スイッチのコールから繰り出される連携攻撃は、PTを組む上での強みと言える。


 ダメージに加算されるボーナスも低くはなく、コンボを仲間と連携して行うとより強くより早くダメージを出せるシステムの一つだ。


 そして、このタイトルに含まれるチェーンの意味が、漸くここにきて初めて現れる。


 NPCの女がスキルを発動した時、視界にCHAINの文字が浮かび、その瞬間に自身もスキルを放つ。この時、CHAIN!の文字が大きく宙に表記されて、スライム相当のモンスターに45と46の数字が何度も表示される。


 発動後に、TOTALというダメージの総量が表示され、412の文字が浮かぶ。


「これが"チェーンスキル"――」


 通常スキルを大きく上回るダメージ。これがあれば簡単にクリアできるのではと思わせるほどのもの。しかし、そんな高威力の技が簡単に発動するはずなかった。


 前提でPTであること、能力値の各ポイント誤差の総合が15P以内、互いが同系の武器であること。むしろ、もう"シンクロ"と言ってもいいほどだ。


 これだけ見てもなかなかに縛られた条件下だと思うし、さらに、これに加えて一番厄介な項目。


「"関連のある二種類のスキルのみ発動可"……このBCOにどれだけスキルがあるのかは知らないが、天文学的数値になるんじゃないか?」


 このチェーンスキルは初期でこそ扱えて、レベルが上がり強くなるほどに条件がきつくなっていく仕様。野球ゲーで初心者用の必ずホームランが打てるバットのようなものだ。


 特訓してステータスをあげた時には、もう振れないバットになってしまう。


 そうと分かれば、ソロの俺には無用な代物である。


 普段から協調性に欠ける俺は、望んでソロになることが多い。


 数多あるFDVRMMOを経験した結果、社交的にって奴がどうにも肌に合わないらしく、諦めてしまったことは否めない。

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