第3話

 目を開けるとすぐに多数の人間が視界に入り、それぞれ多種多用な外見で人とは思えない者もいる。今ここにいる人数が未だFDVRMMOに熱を持っている者たちであり、俺と同類ないし近しい感覚の持ち主であるのだろう。


 俺はすぐに右手を下方へと振る、が、考えとは違いその行為で思惑の現象は起こらなかった。


「………基本設定が左になっているのか」


 一言小さな不満を呟いてから再度左手を振るう。すると、目の前にスクエアの枠が表示されていくつかの項目が現れた。


 上から日本語で表示され――


 キャラクターステータス、装備、図鑑、機能、その他、ログアウト――


 それらの表示の機能を開きタップハンドの項目を探す、が、機能にはその項目がなかったために、慣れない左手でのそれを妥協するしかなかった。


「今時左手オンリーなんてナンセンスだろ」


 更なる不満を抱えつつ、俺はステータス画面に手を触れる。


 剣、防具、装飾。


 実にシンプルな装備画面だ、次にキャラクターステータス。


 LV、HP、STR、VIT、DEX、AGI――


 それだけ見ても、この世界には魔法が存在していないのが理解できる。


 魔法がない方が身体を使い、感覚で動かすことがより強くなり、その結果、高揚感や満足感が得られることはもう大体分かってきている。


 人は、体を動かして何かをすることに喜びを感じる。そんな考え方ができるようになったのはこの世界を通じてだ。


「レベル1、まずは現状の身体能力の把握から始めるか」


 俺の生まれた所の横に、青いエフェクトの出ている円柱の空間があり、それが転移ポートであることは一目で分かる。


 そのエフェクト内にクルクルと回転している何かがあり、よくみるとテストステージの文字が浮かんでいた。


 よくあるチュートリアルルームというやつで、VRMMOでは体を動かすことからそれが始まる。タイトルが変われば仕様が変わるのは必然で、ごく一般的な身体能力から超人的な身体能力まで、それぞれに体の動かし方を知らなければならない。


 エフェクト内に体ごと入ると数秒で視界が変わる。そこでは、すでに体を動かしているプレイヤーたちがいて、その動きから初心者なのかそうでないのかはすぐに分かる。


 他人の動きを見て、自分が同じ動きをできるとは限らないのが仮想世界の常識だ。


 ステータス上で上回っているプレイヤーが相手でも、能力ではなく、体の動かし方が上手いステータスの低いプレイヤーの方が強い場合も少なくない。


「おい、あいつ」

「すげー慣れてんな」

「かっこいい~」


 俺の前で等間隔に置かれた黄色い柱の足場を、軽快な足取りで渡って行くプレイヤーがいる、そいつは走り抜けると、次の反り建つ壁にしがみ付いてよじ登った。


 明らかに手馴れている褐色の男は、羨望の眼差しを初心者らしきプレイヤーから向けられる。 俺は肩を回して2回跳びはねると息を整えた。


「次は俺の番だな――」


 さっきの男よりも素早く黄色い柱の足場を駆け抜けて、壁を蹴って片手で上ってみせる。


 褐色の男よりもその場が沸くと、そいつは不満げに俺を見てくる。


 ダテにフルダイブ歴が長いわけじゃない、俺は余裕の表情でその男を見返した。


 この世界の身体能力は、元の世界での運動神経抜群の高校生男子並だろう。


 Lv1でこれなら、上昇値にもよるけど、ちょっとした超人気分を味わえるかもしれないな。

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