第29話 最強の助っ人 現れたのは
動物救急病院で子猫用の哺乳瓶を買って帰って来た。まだ、小さすぎて男の子が女の子かわからないけどさ、恐らく女の子だろうって。
お腹の虫も今のところ居なさそうだという事。
「今のところ、と言うのは少し大きくなってもう一度検査してみないと正確な事は分からないんですよ」
と、若いイケメン獣医が、子猫をこねくり回しながら言ってたのよ。
そうそう、シッポの時もそうだった!
懐かしい。
こねくり回されている子猫が「ミュ」と抗議の声を上げたのが可愛くて、思わず笑っちゃった。
香織ちゃんが子猫にミルクをあげ始めた。
「こんな事してると、子供達が小さかった頃の事思い出すなぁ」
なんて呑気に言ってますけど、私も思い出したんだから。
香織ちゃんが病院で逃げたあのお医者さん。香織ちゃんの別れたご主人。さて、そろそろちゃんと説明していただきましょう、とは思うんだけど、何て切り出す?
この状況で、どうやってきりだす?
よし、聞くぞと意気込んだ瞬間。
「ノリちゃん、この子本当にノリちゃんが引き取るの?」
意気込み消失。
まぁ、人には聞かれたくない事もあるだろうしね。
それにしても香織ちゃん、物凄く愛おしそうに子猫見つめてる。
きっと、情がうつっちゃったんだろね。
「うん、うちの子にする」
本気よ。私、この子家族にするって決めたんだから。
さぁ明日から大変だ。子猫のお世話もあるし、シッポのご機嫌も伺って置かないと部屋の中荒らされてしまいそう。
と思ってたら香織ちゃんから衝撃の一打。
「でもこの子、まだ自分で排泄も出来ないし、三時間おきにミルクと排泄をさせてあげないとダメよ? ノリちゃん、明日仕事でしょ?」
え?
え?
え?
三時間おきぃぃぃ?
☆ ☆ ☆
「ふわぁ……」
しまった。
油断してたら、あくびが出ちゃった上に、ヤマシタと目が合ってしまった。
なによ、ニヤニヤして!
結局
「今夜は私がみるから、ノリちゃんは寝てよ」
香織ちゃんの有難い申し出を躊躇なく受けたんだけど、黒い可愛い子猫が気になって殆ど寝れなかったの!
そして、今も香織ちゃんはウチにいてシッポと子猫のお世話をしてくれてる。
明日からは、香織ちゃんが何とか考えてくれるそうで……。
まさか仕事休んでお世話に来てくれるとか!?
そこまでお願いして良いんだろうか。
そうそう、今朝確認したら未読のままだったリュウへのラインは既読になってた。
☆ ☆ ☆
眠い目を必死にこじあけて、もうちょっとでお昼って時に
「すみません、これ、よろしくお願いします」
この前、私の事を凄い顔で見てた若い社員が頼んでいた資料を持って来てくれた。
「ありがとう」
にっこり微笑んだつもりだけど、疲れ切った四十路の顔はきっと酷い顔だろうな……。
☆ ☆ ☆
勿論子猫にかまけて、リュウの事忘れてるわけじゃなく。
『大丈夫?』
とはLINEしたら
『全然元気、今日の夕方退院。病院来てくれてたんだって? ごめんな心配かけて』
って返事がきてた。
家で子猫(と香織ちゃん)が待ってると思うと、早く帰らなきゃってソワソワしちゃって、定時で会社を飛び出しちゃった。
ウチで待ってくれてる香織ちゃんと一緒に食べようと思って、美味しいって聞いてたケーキ家さんのプリンとシュークリームを買っていそいそ帰宅したら、もぅ香織ちゃんの姿はなくて洗面所からキッチンに移動した段ボールの中で子猫はぐっすり寝てた。
しっぽは寝室に閉じ込められてて、ちょっとご機嫌斜め。
でも、香織ちゃんわざわざ閉じ込めたんじゃなくて、しっぽがベッドの上にぐっすり寝てたから、起こさないようにしてくれただけなんだけど。
ちょっと、しっぽ。子猫はともかくしっぽくらいお帰りって言ってくれても良いんじゃないの?
どうしよう。このプリンとシュークリーム。こんなに食べたら太っちゃう。中年になると直ぐに太るのに、少々の事したって体重減りやしないんだから!!
香織ちゃんに、LINEをしようとしたら既に香織ちゃんからメッセージが来てた。
ほっんと、通知に気付くのが遅くて申し訳ない……。
『子供達が寂しがってるらしいから、猫達も寝ちゃったし、ちょっと早いけど失礼するね。今夜からは最強の助っ人手配しておいたから、遠慮なく使ってね』
だって。
最強の助っ人?
『わかった! ありがとう!』
って返事はしたけど……。
知らない人が来るの、物凄い抵抗があるんですけど?
☆ ☆ ☆
行き場の失ったプリンとシュークリームを一度冷蔵庫に入れて、さて、どうしたものかと思案中。
だっていくら香織ちゃんが信頼してる人でも、初対面の人とこの狭い部屋で過ごすなんて……。
でも、子猫はまだまだ手がかかるし寝ないでお世話なんてしたらアラフォーはいろんな意味で死んでしまう!
しかも日中だって、子猫のお世話は待ったなし。
感情に任せて「子猫を引き取る!」何て宣言した昨日の自分を呪うしかない。
呪ったところでどうにかなる訳じゃないんだけど……。
あー、もぅ、ほら、全然考えがまとまらない!!
ピンポーン
きたっ!
香織ちゃんの言う最強の助っ人が。
変な人だったら、どうやってお断りしよう!
☆ ☆ ☆
最強の助っ人は、左腕を首から三角巾でぶら下げて、ぬぼーっと立ってるリュウだった。
「遅くなってごめん」
そう言うと、ずかずかと部屋の中に入って、しっぽに威嚇されながら子猫の入っている段ボールを覗き込んだ。
「うわー。やっぱりずいぶん小さいなぁ。良かったなぁお前。助かって良かったなぁ」
リュウ、顔がデレデレで溶けそうですけど?
そして寝てる子猫を無事だった右手ですくい上げた。
ちょっと、寝た子を起こすのやめてくれない?
しかも、何故かしっぽが子猫を取り返そうとリュウの周りでアタフテしてる。
あー、やばい!
しっぽがリュウの右腕に飛びかかりそう!!
もし、しっぽがリュウに飛び掛かったら子猫が危ない!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます