第30話 嘘を告白するって心臓が口からでそうになるよね

 低い唸り声をあげながら、リュウに狙いを定めてるシッポを慌てて抱き上げた。

 ねぇ、シッポ。

 もしかして、子猫をリュウから守ろうとした?

 子猫を受け入れてくれたの?

 それとも、リュウじゃなくて子猫を狙ったの?

「おー、なんだ長女は末っ子に焼餅やいて赤ちゃん返りか?」

 子猫を段ボールに戻したリュウが、シッポの頭をわしわしと撫でた。

 ちょっと、何してるのよ。

 猫パンチくらうわよ!

 って、え……

 シッポが、喉をグルグルならしてるんですけど。

 どうゆう事?


 ☆ ☆ ☆


 さて、最強の助っ人さん。

 片腕折れた状態で腕吊ってて、何を助けてくれるんでしょうかね。

 って言ってやろうかと思ったんだけど、男の人って以外と器用だったりするでしょ?

 なんだかんだと子猫の排泄の処理なんかも、やってしまってる。

 そして、その膝の上にはシッポが。

 何、この疎外感。

 仲間に入りたくて「何か手伝おうか?」って言っちゃった。

 いやいや、何言ってんの私。手伝いに来たのは、リュウの方なんだけど!

「大丈夫。それよりノリ、昨日あんまり寝れないまま仕事行ったんだろ。大丈夫か?」

「うん、大丈夫だけど……」

 子猫の様子も見たくて、リュウの横にペタンと座って段ボールを覗き込むと、子猫は気持ちよさそうにスース―寝てた。

「寝てるね」

 そう言ってリュウの方を向くと、そんな近くに座ったつもりはなかったのにリュウの顔をあまりにも近くて……。

 そのまま、リュウがゆっくり顔を近づけて来て……。

 ダメ!

 寝不足の四十歳の女の顔を、そんな至近距離で見ちゃダメ!

 凄くいい雰囲気だったのに、慌てて立ち上がってしまった。

「ご、ごはん食べるでしょ。冷蔵庫に何かあったかな」

 いそいそとキッチンに逃げてきちゃった。

 あぁ、もぅ、本当ダメ。

 疲れ切った肌に、よれてくすんだファンデーション、はげ落ちた口紅。

 絶対見られちゃったよね。

 つい、何も入ってない冷蔵庫に頭突っ込んでため息ついちゃった。

 いや正確には、お酒とさっき放り込んだプリンとシュークリームの入った冷蔵庫。

「えー、どれどれ」

 ちょっと、リュウ! 背後に来ないでよ。振り返れないじゃない。

 後ろから一緒に冷蔵庫を覗き込むリュウから伝わって来る体温に、身体が固まってしまった。

 私全然高校の時から、変わってないわ……。

「リュ、リュウ。ビール飲む?」

「いや、昨日手術したばっかで飲んじゃダメだろ」

 あ、そっか。

 どうにかして、リュウを背後から剥がしたいのに。

「酒ばっかり」

 と笑いながら更に近付いて来る。

 ちょっと、ストップ! ストップ!

「香織ちゃんと食べようと思って買って来たプリンとシュークリームもあるよ」

「デザートは、ある、と。じゃぁさ、デリバリー頼もう。ほら、何にする?」

 リュウが一緒に見れるようにスマホの画面を差し出した。。

「ちょっとその前に、顔洗って着替えてくるね! 直ぐに戻るから座って待ってて」

 慌てて洗面所に飛び込んだ。

「急がなくて良いから!」

 リュウの声が聞こえる。

 高校の時と、全然変わらない声。

 いや、ちょっと低くなった?

 急いでドロドロの化粧を落として、スッピンは流石に無理なのでささっと粉ははたいて眉毛書いて、まつ毛はビューラーだけ。唇は色付きリップで。

 高校生の時は、化粧なんてしてなかったのにね。

 今は、スッピンの顔なんて裸みられるくらい恥ずかしい。

 部屋着は、今朝洗濯機に放り込んでおいたので快適に洗われて乾燥されている。

 家電さまさま。

 全てを数分で済ませて、再びリュウの前に登場。

 リュウは子猫の段ボールの前に座り込んでシッポと遊んでくれてた。

 意を決して、隣に座った。

「よし、何食べたい?」

 リュウがスマホの画面を二人で見やすいように差し出した。

 デリバリーのアプリを立ち上げる瞬間、LINEのアイコンが目に入った。

 そうだ、昨日嘘ついちゃった事、ちゃんと謝らなきゃ。

「あのさ、リュウ」

 ん? と顔を上げたリュウの顔にドキっとしてしまった。

「昨日、ごめん」

 急にドキドキしてきちゃって、リュウの顔をまともに見れないんですけど!

 なに、この動悸は……。

「なんの事?」

「えっと、あの」

「ん?」

 だめだめ! そんな顔を覗き込まないで!

「あのさ、昨日LINEで友達をご飯食べたって言ったけど、実は会社の後輩とご飯食べてた」

 嘘は嫌、隠し事はしたくない。

 そんな気持ちが先走って、まくしたてるように言っちゃった。

 リュウが顔をじっと見てるぅぅぅ。

「な、なんで嘘言っちゃたのか自分でも分からないんだけど」

「それって男?」

 うっ……

「うん、あのえっと、ヤマシタ……」

「あぁ、あいつか」

「で、でも仕事の話してただけだし!」

 いや、ちょっとリュウの話もしたけど。

「ふーん。で、何食べる?」

 ふーん?

 え、なに、興味なし?


 ☆ ☆ ☆


 結局、ステーキ屋さんのステーキ丼とサラダを頼んだ。

 近くのお店だったみたいで、思ったより早く届いて本当に良かった!

 だって、注文してからリュウ一切喋らないんだもん。

 妙な雰囲気が漂ってて、どうして良いか分からなかったんだもん。

 もしかしてリュウ怒ってる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る