第20話 キスの後 車のドアを閉める時の力加減が分からない

 あの角を曲がると、私の住むマンション。

 なんだか恥ずかしくて、どうして良いか分からず真っ直ぐ前だけを見てこうして座ってるんだけど。

 こういう時、どうすればいいんだっけ?

 アキの時は……。

 あの時は、キスされる前に抱き合っててキスしてそのまま暫く抱き合っ……、いや、あの時はその前に……。

 って、そんな昔の事を思い出してどうするのよ!

 何か言わなきゃ、とは思うし頭の中はフル稼働なのに目線一つ動かせない。

 どうしよ……。

 いっその事、背後からゾンビでも現れて襲ってこないかしら。そしたら、このなんとも言えない空気を打ち破る事が出来るのに。ゾンビの役立たず!!

 いや、そんな非現実的な事考えて現状から逃げ出せる訳じゃなし。

「ごめん」

 リュウがブレーキをかけるのと同時に口を開いた。

「あー、うん、いや別に……」

 他に言う事が見つからないんだもん!!

 こんなキスのされ方、何年ぶりだと思ってるのよ!

 いや何十年?

「着いたけど」

 リュウに言われて初めて目の前に広がってる景色は、私が住んでるマンションのだと気が付いた。

 どんだけボンヤリしてるのよ、私。

「うん」

 こう、スムーズにカッコ良くシートベルトを外して車から降りたかったのに、外れないのよシートベルト。

「ほら」

 モタモタしてたら、リュウが腕を伸ばして外してくれた。

「ありがとう……」

 ガチャ

 ドアを開ける音が、何かの終わりの合図に聞こえる。

 今度こそ、今度こそ自分から行動する!

 車から一歩降りた瞬間そう決めた途端、私の身体は車から降りようとする意志に背いてクルリと振り向き、リュウを見つめた。

「リュウ、好きだよ」

 えーっ!!!

 口が!

 口が勝手に!

 勝手にっっっ!

 急に恥ずかしくなって、慌てて車から降りてドアをバァァァンと思い切り閉めてしまった。

 こ、壊れてないよね……。

 リュウが車から降りて来て「俺も」そう言って私を抱き締める、ような事もなく車は静かに動き出した。

 そして、角を曲がる時ブレーキランプが何回か点滅。

 え? 

 もしかして、あの頃大流行りしたあのバンドの曲??

 ごめん、何回点滅してたか数えてなかった……。


 ふわふわした気分でマンションに向かって歩いてたら、エントランスで蹴つまずいた。

 そう、私アラフォーだよね。

 自分で思ってる程、足上がってないのよね。

 いつか、こうして足が引っかかって転んで大腿骨骨折して誰にも助けてもらえず……。

 いゃぁぁぁぁぁっ!!

 一気にテンションだだ下がりなんだけどっ!!

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