第11話 アラフォー二人呑 お造り盛り合わせは外せない
「ノリちゃん、ご飯行こうよ!」
香織ちゃんからお誘いを受けた。
☆ ☆ ☆
「ごめんね」
会うなり香織ちゃんが謝った。
「え? 何?」
「うちのお兄ちゃん、思い込みが激しいもんだから」
そうか、リュウはあの日の事香織ちゃんに話したんだ。
そんな事まで話せる兄妹って良いなと思う半面、何だか妙な気持ち。
なにこれ、嫉妬?
私、香織ちゃんに嫉妬してるの?
「そ、そうだね……」
だめだ。私、今完全に思考停止した。
香織ちゃんに嫉妬?
妹だよ?
何考えてるのよ、私。
目の前のマグロの刺身を箸でつまんで、しょうゆ皿に乗せようとして落っことした。
「あ……」
皿の上に刺身がダイブして、しょうゆがテーブルに跳ねた。
っぷ……。
香織ちゃんが吹き出した。
「ノリちゃん、全然、かわってなくて嬉しい」
そして、嬉しそうに微笑む香織ちゃん。
「そ、そうかなぁ」
としか返しようがないじゃない。
四十にもなって、最後に会ったのが十八の時って人に「変わってない」って言われて、喜んでいいのか悲しんでいいのか。
「こりゃ、お兄ちゃんも勘違いするわ」
え?
「お兄ちゃんね、ノリちゃんが自分の事を待ってたと思ってたのよ」
はぁぁぁぁぁぁぁ???
そんな訳ないじゃない!!!
って、思ったのが顔に出た……よね……。
香織ちゃん、面白そうに私を見てるもん。
「どんだけ自分に自信あんのよって、ちゃんと言っておいたから」
そう言うと、美味しそうにサーモンを口に運ぶ香織ちゃん。
そうだ
「香織ちゃん、喘息はもう良いの?」
うんうん、と香織ちゃんが頷いた。
「そうだよね、二十二年前からお互いの時間は止まってるんだもんね」
そう言うと、香織ちゃんはあの時留年になった高校を退学して、単位制の高校に転校。大学までの二年間で喘息の治療に専念して、大学の看護科に進んだ事。同僚だった医者と結婚して、男の子を二人もうけたけど離婚した事を、美味しそうにつまみを食べお酒を飲みながら話してくれた。
私もお酒の勢いもあって、ついつい自分の事あれもこれもアキとの事まで話しちゃった。
「改めて、ごめん」
ちょっと酔っぱらったのか、頬を少し紅くした香織ちゃんが突然頭を下げた。
え、今度は何。
「私、ずっと香織ちゃんに謝りたかったの」
「何を?」
「卒業式の日、お兄ちゃんノリちゃんに告白したでしょ」
「うん」
あれを告白と言うのならね。
「私がお兄ちゃんに無理やりさせたの」
「えーーっ! そうだったの?」
そりゃ、ビックリよ。
だって、今だって色恋沙汰を話すくらい仲が良くて、あの頃だって羨ましくなるくらい仲が良かったでしょ?
最初にお見舞いに行った日、隣のベッドのおばあちゃんが「お兄ちゃんが彼女連れてきた」って言った時、香織ちゃん、表情ひきつってたでしょ?。
でなければ、私自ら彼女じゃない、なんてわざわざ言わない。
「小さい頃から喘息が酷くて、親もお兄ちゃん、特にお兄ちゃんは私に甘くて」
だろうね、知ってた。
「卒業式の前の日に、ノリちゃんか私、どっちかにしろって言っちゃった。完全な嫉妬よね」
って香織ちゃん笑ってるけど、勝手に三角関係だったみたいに語らないで!!!!
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