第10話 二十二年と言う時間 心は乙女のままよ
月曜日。
「先輩、何か今日いつもと違いますね」
後輩君に言われた。
そう、後輩の癖に五年も後輩の癖に、来月からわたしの上司になる後輩ヤマシタ。
「別に、何も変わらないわよ」
「えー、そうかなぁ」
やめてよ、そんなにマジマジ見ないで。
「いや、やっぱり何か違う。もしかして恋人でも出来ました?」
「あんたねぇ、それセクハラだよ」
来月には上司になる相手に、あんた呼ばわりもどうかと思うんだけど、そんな急には変えられない。
「あー、気をつけなきゃ……」
「そうだよ、来月から私の上司になるんでしょ?」
サラっと言えた。
何て切り出そうかと思ってたのに、こんな感じこんなタイミングでサラっと言えるんだ私。
「で、恋人出来たんですか?」
だからぁ!
叱り飛ばそうとしたら、ヤマシタが急に頭を下げた。
「なによ」
「すみません。内示、先輩に相談もせずに……」
何で謝るのよ。
なんで相談する必要があるのよ。
そんなの気にしないで良いわよ。
って言葉が頭の中を駆け巡るのに、口から出てこない。
出ろ! 動け! 私の口!
「もう、何で謝るのよ。おめでとう」
言えた。完璧じゃないけど言えた。
山下君が頭を上げた。
「怒ってないんですか」
「何を怒るって言うのよ」
そう言ったら、微笑みたくなった。
大人の先輩として、微笑まなくっちゃ。
不自然だったかもしれないけど、何とか口角を上げて微笑むことが出来た。
「俺、ばんばん出世して社長になって、絶対先輩の事副社長にしますから!」
何言ってんの、こいつ。しかも副社長って。
「で、恋人できたんすか!?」
こりゃ、だめだ。
ヤマシタが社長になる日は、来なさそう。
☆ ☆ ☆
それにしてもヤマシタは察しがいい。
恋人なんて出来てないけど、うんと昔、二十二年前の淡い恋の相手が目の前に現れて、昔の事を思い出した。ただ、それだけなのに心が軽い。
単純だな、私。
ついリュウの優しさに甘えてしまったけど、結局指輪は受け取らなかった。
二十二年前だったら
「ありがとう!」
って、何なら涙何か流しながら受け取ったかなぁ。
違うな。
私、そんな素直じゃなかった。
今も昔も。
☆ ☆ ☆
私、十八歳の乙女みたいじゃないのよ……。
そう思った瞬間、急に頭の中が冷静になってしまった。
「ごめん」
リュウの腕から力が抜けた。
「誰か、恋人とかそういうのが居るのか?」
言葉が出なくて、黙って首を横に振った。
「そうか」
リュウが、私から離れた。
このまま後先を考えずリュウに甘えてしまったら、そう言う関係になってしまったら、あの頃の綺麗な思い出が、何かは分からないけど違うモノになってしまいそうで。
「違うの、あの、その、ほら再会したばっかりだし、その」
上手く説明できない。
「そりゃ、そうだよな!」
ガハハとリュウが笑い、その声にシッポが逃げ出した。
「また連絡する。ちゃんと考えといて欲しい」
リュウはそう言って帰って行ったけど、リュウこそちゃんと考えてるんだろうか。
だって、ついこの前二十二年振りに再会したばっかりだよ?
それとも二十二年もの間、ずっと私の事を想いながら生きてきたの?
そんな訳ないじゃない、だってバツイチなんでしょ?
私の知らない他の誰かと結婚して、離婚したんでしょ?
そもそも私、リュウの事を、今のリュウの事をどう思ってるんだろう。
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