第9話 指輪のサイズ サイズは変わらないけど肌の張りが……
高校、卒業式の後。
仲の良かった子達と人並みに別れを惜しんで涙なんか流してたら、リュウに呼び出された。
「告白じゃない?」
誰かがそう言って、凄く冷やかされた。
まぁ確かにこの流れは、コクハクだよねぇ。
「なに?」
冷やかされて恥ずかしくて、つい、ぶっきらぼうに言ってしまった。
リュウの顔、真っ赤だったのを覚えてる。
「もし大人になって再会して、その時誰とも付き合ったりしてなかったら、俺と付き合って下さい!」
なに、その運任せな感じの先延ばし告白。
「べ、別に良いよ」
今すぐでも良いよ。
って、本当は言いたかったんだけどね。
言えばよかったのかも……。
「いや、その、ほら、子供の頃の約束だし!」
そもそも私、付き合ってる人が居ないなんて一言も言ってないですけど?
「あん時さぁ、振られるのが怖くて、何か変なな告白しちゃったなぁ」
「何年前の話してるのよ」
「ちゅうわけで、はい」
と、ポケットから出してきたのは、指輪だった。
「ちょ、ちょっと。何これ」
「指輪。買って来た」
はい?
「ごめん。全く意味が分からない」
「約束、思い出したんだろ?」
思い出したくなかったけどね。
だって、逃した恋は切ないもの。
高校生のリュウ。
あの長崎の橋の上で、隣に立ったリュウの手を握っていれば……。
十年前のアキ。
仕事なんてどこででも出来たのに、どうしてついて行かなかったんだろう。
今の生活に特別不満があるわけじゃない。
でも、時々、もし、あの時、別の選択をしていれば何かが変わってたのかな、何て思う事が最近物凄く増えた。
後輩君の出世が、原因だと思う。
ああ、私はここまでなんだって、思ったの。
この場所は、色んなものを手放してまで手に入れる場所、だったんだろうか。
そして、これからの私は、この場所に留まり続ける為に、生きていくのよね。
そして……
あ、だめ、また思考が……。
「ノリ?」
確かにリュウは、私の青春の1ページの登場人物だけど。
「私ね、今、心が弱ってるから、優しくされると、困る」
リュウ、突然立ち上がったから、怒って帰るのかと思ったら……
「何で、困るんだよ」
ちょっと汗臭いリュウに、後ろから抱きしめられた。
「高校ん時に、こう出来てたらな」
「ずるい」
リュウに身体を預けた。
何でバツイチなのか、そりゃ色々きになるけど、今踏み出さないと何も始まらないよね。
もう、18歳の女の子じゃないんだもん。
残された選択肢は、素直になる事。
それしかない。
心が弱ってる今なら、今のリュウになら出来る気がする。
「ノリ?」
「私ね、長崎の橋の上で、リュウと手をつなげば良かったって思ってた」
「俺も!」
更にキツく、リュウに抱きしめられた。
汗のニオイにまじって、中年になったリュウのニオイを感じた。
「あの時、どっちかが勇気出してたら、今と違う今があったのかな」
「もしかしたら、俺らには必要な22年って時間だったのかもな」
「長すぎるよ」
「指輪、サイズあってるかな……」
「サイズも聞かずに買うなんて、四十の男がする事じゃないでしょ」
「十八の時のサイズだったら知ってた」
はい?
「ノリの友達に、昼飯おごって教えてもらった」
「え?」
「サイズ確認しろよ、合わなかったら直して貰うから」
リュウが、離れようとしたから
「離れないで」
って、思わず言ってしまった。
離れたら、夢から覚めてしまう気がして。
って、私、十八歳の乙女みたいじゃないのよ……。
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