第8話 溢れる涙 献立はカレーライス
「ほんと、ごめん!」
私に尻尾を踏まれたシッポは何故かリュウの足に飛びかかり、リュウの作業用ズボンに血のシミが出来てしまった。
「このくらい大丈夫。こんな仕事してたら、ちょいちょい流血するから」
リュウは笑って言ってくれたけど、それ絶対痛いよね……。
「エアコン工事のお礼と、シッポの粗相のお詫びを兼ねて、今夜晩御飯ご馳走させて」
「え! ノリの手料理が食べられるの?」
だーれが、作ると言った?
そして、何だ、その嬉しそうな顔。
「そ、そうね」
おい、私!
「じゃ、六時半くらいに!」
リュウ、ご機嫌に去って行ったけどさぁ。
問題は二つ。
その一、リュウの言ってた約束って何?
その二、料理どうしよぅ……。
冷蔵庫を開けると、何も無かった。
もう、十年近くまともに料理何てしてこなかったから、昔書き溜めてたレシピメモを探し出して暫くにらめっこ。
一人分だけ作るって、すごく面倒なのよね。
それでも一人になって暫くは作り置き何かしてたんだけど……。
仕事中心の生活に完全シフトしちゃったから、作り置きなんて食べるタイミングもなくて、だんだんと作らなくなっちゃった。
今時、コンビニに行けば何でもあるしね。
久しぶりのスーパー。
手っ取り早く、カレーとサラダで良いかな。
あんまり気合の入ったメニューもひかれちゃいそうだし。
リュウは、約束通り六時半にやって来た。
「おー、カレー大好物!」
うん、知ってる。
高校の時学食で毎日カレー食べてたもんね。
あの後、何件か工事でもしてきたのかな、少し汗臭いリュウ。
でも、嫌じゃないな。
シッポも昼間の騒動を反省してか、凄く大人しい。
まぁ、騒動の原因作ったのは私なんだけど。
「あー、うまかったか!」
「お粗末様でした」
リュウの笑顔が高校の時の笑顔のまんまで、何かすっごく切ない気分になっちゃった。
「ノリ、どうした?」
え?
「何、泣いてんだよ」
私、泣いてるの?
そう思った瞬間、もう、止まらなくなった。
こんな、しゃくりあげて泣くなんて、何年ぶりだろう。
リュウは、オロオロしてたけど。
オロオロしてる四十歳のリュウ、ちょっと面白い。
「高校卒業して、大学卒業して、数年メーカーで働いて、今の電気屋開業して今に至る」
突然リュウが言い出すもんだから、ビックリして涙が止まった。
「ノリは?」
え?
私?
「えーっと、高校卒業して、短大行って、2年程就職浪人して、やっと今の会社に就職して今に至る」
当たり障りのない自分史。
「結婚は? 俺はバツイチ」
そんな、あっさり言わないでよ。
「してない。しようとは思ったんだけど……」
「だけど?」
なに、言わなきゃダメなの?
「彼の転勤が決まって、結婚するなら仕事辞めなくちゃダメで。でも、仕事辞めたくなくて。それで、婚約破棄した」
会社で部下がこんな報告して来たら、頭整理して出直せって言うな、私。
「じゃ、お互い今は一人か」
「そ、そうだね……」
思い出した!
約束、思い出した!
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