第7話 誰かの為の珈琲 適当すぎる過去の私

 私の淹れたコーヒーをリュウは美味しそうに味わって飲んでくれてる。

 職場はセルフだし誰かの為にコーヒーを淹れるなんて何年ぶりだろう。

「でもさ、あの香織ちゃんが看護師だなんて、意外だった」

「しかも、2人の子持ちな」

「らしいね!」

「たくましくなったわ。まぁ、ノリのおかげだけど」

 え?

 は?

 私?

 ドウイウコトデスカ?


 ☆ ☆ ☆


 キャンプファイヤーの日にリュウと二人でお見舞いに行ったのがきっかけで、1人で香織ちゃんのお見舞いに行くようになった。。

 だって、やっぱり女の子同士だし、読みたい雑誌とか、ね、ほら、お兄ちゃんじゃ、分からないもの。

 ちなみに最初に持って行ったセブンティーンと明星は初めて読んだらしい。

 優秀な子は読む雑誌も違うのね……。

 この辺りじゃダントツ優秀な高校に通ってた香織ちゃん、実のところ学校生活もストレスだったみたいでさ。

 ほら、私みたいなバカと話してると、気が紛れるだろうし……。

 なんてね。本当は下心ありありで、リュウの事が聞きたかったんだよね。

 香織ちゃん、それまで入院まではしなかったけど、何度か酷い発作を起こして休んだりしてたらしく、とうとう今回の入院で留年が決まってしまったんだよね。


 ある日病院に行くと、香織ちゃん泣き腫らした目をしてた。

「香織ちゃん? 苦しいの」

 慌てた私を見て、香織ちゃん、また泣き出しちゃって。

 やっぱり16歳の女の子に、留年、キツイよね。それも自分には何の落ち度もないのに。

 香織ちゃんは優秀なんだから、通信制とか試験とかで、高校卒業資格とって大学受験できるよ、何て聞きかじりの知識で必至に励ましたんだけど…。


 ☆ ☆ ☆


「香織、あの後あっさり高校に退学届出してさぁ。喘息の治療に専念する宣言して、通信で高校卒業したんだよ」

 げっ!

 香織ちゃん、本当に通信制に変えたんだ。

 うわ……。

 私とんでもない事言っちゃってたのか。

「そ、そうなんだ」

 冷や汗がでそうなんですけど。

「ノリのおかげで、前向きになって、喘息も随分良くなったんだ」

 そ、それなら良かった……。

「相変わらず、兄妹仲良いんだね」

「そうかな……」

 そうだよ。

 うちなんて、私が婚約破棄してから10年。

 姉どころか、両親にも、まともに会ってないわよ。


 ああ、私、姉が居るの。

 ちゃんと長女としての立ち位置を分かってる、姉。

 20代半ばで結婚して1児の母。

 旦那は単身赴任で、姉はちゃっかり実家に戻ってきてる。

 孫が居たら、婚約破棄して40まで独り身の次女になんか、親も興味ないよね。

 うん、そりゃそうだ。

 仕方ない。

 でも、何だか、自分が凄く惨めになってきたんだけど。

 私、本当に独りなんだなぁって。

 いつか、そう遠くない未来、この部屋で孤独死するんだろうな。

 思考が破滅の方へ独り歩きしだした時、リュウが唐突に言った。

「で、約束は覚えてる?」

 な、なに?

 やくそく?

「え?」

「やっぱり、覚えてないのか……。俺はずっと覚えてたけどな」

 あれあれあれ、今度はリュウが肩落としたけど?

「よし、じゃ、まずお互い、この22年間について、簡単に語ろう」

 おいおい、何を言い出すの。

「先づ、俺から行きます」

 待て待て待て待て、勝手に行くな。

 リュウが話したら、私も話さなきゃいけないじゃない。

「あ、コーヒーのお代わりいれようか」

 慌てて立ち上がったら、いつの間にか足元に来てたシッポの尻尾、踏んじゃった。

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