第6話 世代交代 エアコンのことだからね
12年前アキと2人で買って、10年間私とシッポを、外からの暑さや寒さから守ってくれたエアコンは、リュウの手によって、簡単に取り替えられてしまった。
取り外されたろされたエアコンはまだまだ綺麗だし使えるんじゃないかと思っていたけど、新しく付け替えられたものに比べると古ぼけて見えて、胸がざわついた。
こうやって私もいつの間にか古ぼけていってるのかな。
☆ ☆ ☆
「ありがとう」
工事を終えたリュウに、ビールを出す。
「おれ、まだ仕事中。それに車」
あ、そりゃそうか。
「ごめんごめん。じゃ、それ持って帰ってよ。今、代りにコーヒー入れるね」
リュウが、意外そうな顔をした。
「ノリが呑めばいいだろう」
「私、お酒のまないんだ」
そう、私はお酒苦手。
と言う事にしている。呑むと具合が悪くなる。そう言えば今の時代無理に進められる事もない。
女独り生きるには、酔っ払って羽目外す訳にはいかないのよ。
「ふーん」
なによ、その、ふーん、て。
工事から避難してたシッポが警戒しながらやって来た。何その、今すぐにでもダッシュできそうな姿勢。
「あぁ、あの日、シッポのお迎え行ってくれたの、リュウだったんだってね。香織ちゃんから聞いた。ありがとうね」
威嚇しまくるシッポに、物凄く手を焼いてたってのも聞いた。
そうだよねぇ。シッポは私以外の人間は動物病院と時々預かってもらっているペットショップの人しか知らないんだから。
「だってノリが言ったから」
シッポ、リュウを思いっきり遠巻きに見てる。
「ごめん、全然覚えてない」
「猫、シッポが。ペットショップにだけ言って突然倒れるから、ほんとビックリしたんだからな」
「前の晩、寒かったから。ほんと迷惑かけてごめんね」
「いや、別に良いけど」
うん、普通に話せるようになった。
「でも、よくあのペットショップだって分かったね」
「あれ」
そう言ってリュウが指さしたのは、壁にかけてたカレンダー。
仔犬や仔猫がたくさん載ってる物をくれるので毎年愛用してるんだけど、こんな時に役立つとは。
「えー! よく気が付いたね!」
やっと、私も22年のブランク埋まったかな?
リュウとシッポの距離はなかなか埋まりそうにないけど。
「コーヒー淹れるから、そこ座っててよ」
そこはアキの指定席で自分で座る事もなかったのに、何の躊躇もなく勧めていた。
「あー。ちょっと洗面所貸してくれる。手洗いたい」
今までエアコンの取り付け工事をしていたリュウの手は真っ黒だった。
「いいよ、使って」
「じゃぁ、その前にこれ、トラックに積んでくるわ」
そう言って、廃棄となるエアコンを持って出て行ってしまった。
アキと選んだエアコン。アキが消し忘れて、注意したら喧嘩になっちゃったエアコン。温度設定戦争(って呼んでた)も楽しかったな。
ちょっと泣きそうになって気付いた。10年も経つのに私まだアキの事引きずってたんだ。
うん、でもこれで綺麗さっぱりにしなくっちゃ。
新しいエアコンなんて、消し忘れたらスマホで外出先からも操作できるんだぞ!
温度設定なんて、細かい事しなくたっておまかせで勝手に快適にしてくれるんだぞ!
「これから、よろしくお願いします!」
新しいエアコンに、頭を下げてご挨拶。
「お前、なにやってんの……」
戻ってきたリュウに見られてた。
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