第3話 果物店の紙袋とルーズリーフ 高校生に戻りたい
香織ちゃんお手製のお粥と買ってきてくれた薬のお陰で、翌日には熱も下がった。
「今から行くから」
晩御飯どうしようかなぁ、何て考えてたらリュウから電話。
昨日は、急な修理に対応してくれた見知らぬ親切な電気屋さんだと思ってたから、普通の顔していられたけど……。
約22年振りの再会。
いや、昨日既に再会してるけど。
どんな顔して会えば良いのか、分からないじゃない!
数分後
ピーポーン…
はやっ!
シッポが、大急ぎで寝室のベッドの下に潜り込んだ。
シッポは、アキがこの部屋を出て行った翌朝、通りがかった公園で震えてたのを見つけて同居する事にした相棒。
だから、もう10歳の人見知りが激しい、おばあちゃん猫。
「どうぞ」
つい、他人行儀な感じで対応しちゃったんだけど、気不味いのはリュウも同じだったみたい。
「これ」
と、有名果物店の紙袋を差し出した。
「あ、ありがとう」
「お客さんから、もらったんだ。じゃぁ」
って、出て行こうとするの。
「待って、お茶くらい……」
「元気になったら、連絡してこいよ。連絡先入れといたから」
そう言って、帰っちゃった。
袋の中には、あの頃と変わらない字で名前と電話番号と住所が書かれたルーズリーフが一枚入ってた。
ルーズリーフ……。高校生じゃないんだからさぁ。
☆ ☆ ☆
リュウとは、高校2年の時に同じクラスになった。
席も隣でね、って少女漫画みたな事を言いたいけど、席は随分遠かった。
ただ、当時仲の良かった子の席の隣が、リュウだった。
うちの高校の修学旅行は、2年の秋に行われてた。
今はどうなんだろうね。
海外とか行ってるみたいだけど。
で、修学旅行のグループが、同じになったのが決定打で、仲良くなった。
懐かしいなぁ。
今にも、あの頃に戻れそう。
なんて、物思いに浸っていたら、寝室からシッポが出せ出せと、騒ぎ出した。
やめてシッポ!
爪でドアを傷付けないで!
明日からは仕事も行かなきゃ行けないし、リュウの差入れ頂いて今日はもう寝てしまおう。
☆ ☆ ☆
夢を見た。
高校の修学旅行の夢。
行き先は長崎。
グループで行動する日。
あの橋の上で、みんなで写真を撮った。
私の隣にそっと立ったリュウの手を、思い切って私の方から握った。
リュウも、そっと握り返してくれた。
凄く満ち足りた気分で目が覚めた。
でも、そこには何も満ち足りてはいない40歳の私がいて、少し泣いた。
そんな私の顔を、シッポがじっと見つめていた。
☆ ☆ ☆
高校二年生の私は、修学旅行から戻って皆で撮った沢山の写真を見て確信した。
多分、リュウは私の事が好き。
だって、私のそばに必ずリュウが写ってるから。
でもね、多分なのよね。
同じグループなんだもん、そんな事もあるよ……。
臆病な子供の私は気付かないフリをしたまま、リュウとは友達のままだった。
もし、もし、夢みたいに、あの時リュウの手を繋いでいたら、私の人生どうなってたんだろう。
アキと出会う前に、リュウと結婚してたんだろうか……。
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