第2話 電気屋さんは坊主君 抱き合うアラフォー女子

「無理すんなって!」


 慌てて起き上がろうとしたら、肩を押さえられ電気屋さんに止められた。

 って言っても、強く押さえられたんじゃなくて、何かこう労わられてる感じ。


 って、この電気屋、何者?

 警察に電話した方が良い?

 その前に悲鳴?

 エアコンを購入した家電量販店に修理依頼したんだけど、3日後しか無理。

 仕方無いから、エアコン修理してくれそうな電機屋さんに、電話かけまくって来てもらったんだけど……。


 もう絶対、量販店なんかで買わないんだから!

「ノリお前、熱あんじゃないか?」

 言われて気付いたけど、私、凄くクラクラしてる。

 あ、でも、シッポのお迎えに行かなきゃ……。

「すみません、私、猫のお迎えに行かなきゃ……」

 ここで、記憶は途切れた。


 ☆ ☆ ☆


 ちょっと、シッポ。

 人が気持ちよく寝てるのに、顔を舐めないで。

 あんた、気付いてないかも知れないけど、舌がザリザリしてて結構痛いんだからね。


「ん?」

 シッポのザリザリした舌のおかげで、意識がはっきりとしてきたんだけど……。

 何か、忘れてる気がする。

 LDKに、人の気配。

 アキ?

 な訳ないわよね……。

「ノリちゃん、目が覚めた?」

 女の人の声。

 誰?

 寝室に顔を出したのは……

「え? かおり……ちゃん?」

「ノリちゃーん! 覚えててくれた!!!!」

 かおりちゃんに、抱きつかれた。

 何、このアラフォー女子二人が抱き合う図。


 ☆ ☆ ☆


 高瀬香織ちゃん。

 高校の同級生高瀬隆二の妹。

 リュウ、野球部の万年補欠な坊主君。

「じゃぁ、あの電気屋さん、リュウだったの?」

 香織ちゃんの作ってくれた御粥を、吹き出しそうになった。

「そうだよ。急に電話が掛かってきて、直ぐここに来いって。まぁ、お兄ちゃんが横暴なのは、今に始まった事じゃないんだけどね」

「迷惑かけて、ごめんね」

「ぜんぜん! 会えてよかったぁ」

 香織ちゃん、本当に変わらないなぁ。


 ☆ ☆ ☆


 私が香織ちゃんに会ったのは…

 げ、22年も前。

 香織ちゃんは16歳の高校1年生。

 私とリュウは18歳で高校3年の時。

 短大の合格通知も貰って、後は卒業式だけって時にリュウが浮かない顔をしてた。

「ちょっと、リュウ、そんな暗い顔しないでよ。私と離れ離れになるのが、そんなに悲しいのかなぁ?」

 万年補欠だった野球部を引退して、少し毛が生え始めた元坊主頭をポンポンしたら、リュウのヤツ、ぶすっとしてさ。

「そんなんじゃ、ねえよ」

 ちょっと、そんなんって何よ!

 って思わず食ってかかったら……

「香織が、入院したんだ」

「え? 香織ちゃんが?」

 香織ちゃんは、私達とは違って、優秀な私立の高校に通ってたんだけど、喘息の持病があって休みがちとは聞いてた。

「多分、今度の入院で留年決定……」

 そう言ってリュウは、肩を落とした。

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