第11話

「命……さんの事を知りたいな」

「何? 俺の事? 何故だ」


 命が再び僕を睨み付ける。


「えっと……友達の事を知りたいと思うのは……普通じゃないかな?」

「は? 友達?」

「僕は君と友達になりたいな……」

「馬鹿を言うな。 お前を見逃すとは言ったがそれは同情からだ。 人間のお前を信じる訳がない」


 命はふんと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。冷たい言葉に少しだけ落ち込みかけたが、僕にしては珍しく「引くもんか」と思ってしまった。


「だったら信じてもらえるまでお話する……!」

「……お前なかなか強情だな」


 呆れたように命が溜め息をつく。


「こんな化け物と仲良くしたいなんてどうかしてるぞ」

「僕の事を話したのは君だけなんだ……それに君は優しいから」

「優しい? はっ、俺が人間を何百と殺していると知ってもそう言えるのか?」


 きっとそうだろうと思っていた。しかし、実際にその言葉を聞いた瞬間僕は息を飲んだ。


「その反応……やはり怖くなったか?」

「全然、って言ったら嘘になる……」

「なら……」

「だけどそれでも君を知りたい……友達になりたい」


 命は僕をしばらく見詰めていたが再びため息をつくと、くるりと身を翻した。


「どこに行くの?」

「どこでもいいだろ。 お前がここにいるなら俺は離れるからな」

「あ、明日また会える……?」

「さぁな」


 振り返る事もせず、命は大きな翼を広げ、飛び立つ。強い風に負けじと目を開け、その姿をしっかりと見送る。


「ここで……ずっと待ってるから……!」


 聞こえたかは分からない。それでも精一杯の声を張り上げて気持ちを伝える。風が止んだ頃にはもう姿は見えなくなっていた。


「……あ」


 ふわりふわりと何かが落ちてくる。それを優しく両手で包み込むように受け止める。命の黒い羽だった。


「……えへ」


 僕はそれにそっと頬擦りをしてポケットにしまう。これがあればまた命に会える気がしたんだ。


 次の日、僕はまた同じ時間に命と出会った場所へ向かった。しかし、命の姿はなかった。


「やっぱり来ないかなぁ……」


 その場に膝を抱え込んで座り込む。そして、しばらく僕は命の羽をくるくると指先で回しながらそれをぼんやりと眺めていた。すると、僕のすぐ後ろで草の揺れる音がした。


「本当に馬鹿だなお前は……何をしてるんだ」

「命さん!」


 思わず嬉しさが溢れて顔が緩む。そんな僕の顔を見て、命の表情がなんとも言えないように歪む。もしかして僕は変な顔をしていたのだろうか。そう思い、慌てて両手で頬を押し潰す。


「……ぷっ」

「わ……やっぱり、へ、変だった?!」


 命は身体を震わせて笑いを堪えていた。そんなに面白い顔をしていたのか僕は。途端に恥ずかしくなって耳が熱くなった。


「一体いつから?」

「えっと……」


 時間はよく覚えていない。命の事をずっと考えてたから、なんて言ったらまた笑われてしまうだろうか。それとも嫌がられてしまうだろうか。


「……まぁいい。 もし俺が来なかったらどうしたんだ」

「これから毎日来るつもりだったよ……?」

「お前はストーカーか何かか?」

「ストーカー……?」

「はぁ……もういい」

「ご、ごめんなさい……」


 命は僕の隣に腰を下ろした。昨日と違って姿が見えやすくなっていて、僕は思わずそわそわしてしまった。しばらく僕らは無言のままだった。が、遂に命の口が開かれた。


「そこまで知りたいのなら教えてやろう。 俺の事を」

「いいの?」

「ああ……だが、これを聞いても俺と仲良くなりたいとほざけるかな」


 命が皮肉っぽくにやりと口角を上げる。


「僕は……何があっても君を否定しない」


 力強くそう答える。命の瞳が最初に見た時とは違う揺らめきを見せる。


「……そうか。 じゃあ話そう。 俺がどうしようもなく『化け物』なんだという事を」

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