第7話
季節は秋。空気もすっかり涼しくなり、葉っぱも衣替えを始める。僕達が出会ってもう4ヶ月になる。今の所幸い何事もなく、幸せで穏やかな日々を送っていた。僕の、僕だけの平穏な日常……
「イキルお兄ちゃん、なんか嬉しそうだね」
「えっどうして分かったの?」
「雰囲気で分かるよ」
珠依は時々まるで見ているかのように人の気持ちに気付く。まさか僕と同じ境遇なんじゃ、と考えた事もあったけれど違うようだ。彼女は見る代わりに、その人の声や空気を敏感に感じ取る事が出来る。彼女にとってはそれが「普通」なんだ。
「凄いなぁ……」
「え? なぁに?」
「ううん、何でもないよ」
近頃僕は笑う事が多くなった。自然と笑えるようになっていた。これはきっと、珠依のお陰だ。
「……ねぇ、珠依。 見えないのは辛くないの……?」
珠依はきょとんとしていた。
しまった、やっぱりこういう事は聞くべきじゃなかったかもしれない。
「ご、ごめん……嫌な事聞いたよね」
珠依はくすりと笑った。
「勿論あるよ。 今でもたまにどうして私は目が見えないんだろう、どうして皆と同じじゃないんだろうって思うもん」
意外だった。僕と一緒にいる時、そんな素振りは見せた事なかったから。だけど、よく考えると当たり前だ、珠依はまだ7歳だし幼い。
「なら……どうして君はそんなにも前を向いていられるの……?」
珠依はとんとんと2回軽快に足を運び、くるりと振り返った。
「私には私にしか出来ない事があるもの」
「珠依にしか出来ない事って?」
「分からない。 でも皆得意な事苦手な事があるみたいに、その人にしか出来ない事もきっと存在する。 それに私、見えなくても幸せだよ! この世界はどんなふうな景色なんだろうって想像するだけで夢が広がって、わくわくするの!」
この子は本当に強い。僕なんかよりずっと。
「僕にもあるのかな……僕にしか出来ない事……」
「うん。 あるよ。 絶対」
今までずっと生き続ける事に疑問を感じていた。僕が存在する事で不幸になる人がいるならば、僕はいてはいけないんじゃないかって。このまま死んだ方がいいんじゃないか、もう苦しむ事もないのだから。そんな想いが心の奥にどろどろと渦巻いていた。だけどこんな僕でも誰かの役に立てるなら、いつか胸を張って生きる事が出来るんだろうか。そう思った時、僕の世界は鮮やかになったように見えた。……だけど、運命の女神様は意地悪だったんだ。
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