第4話


『化け物』


 僕の周りを沢山の人達が取り囲む。なんて暗い、冷たい視線……


 やめて、そんな目で僕を見ないで。僕は、僕はただ……


『お前に生きる資格なんてない』


 ……違う


『疫病神め、消えろ』


 違う!


『お前は人間なんかじゃない』


 黙れ!!!!お前達なんか、お前らみたいなやつなんかーー


「イキルお兄ちゃん!!」


 はっと目を覚ます。さっきのは……夢?


「凄い汗……うなされてたよ。 どうしたの……? 怖い夢でも見たの……?」


 喉が、酷く乾いている。心臓の音が脳の奥まで響いていた。


「何でも……ない……ごめん」


 僕は俯き加減に弱々しく呟いた。


「……私ね、目が見えないから夢を見た事がないの。 だからイキルお兄ちゃんが少し羨ましいな」

「え……そう、なんだ……」

「うん。 私の目の前はいつでも真っ暗。 イキルお兄ちゃんは夢を見られるんだね。 それってとっても素敵な事。 色んな世界を目に映せるんだから」


 色んな世界を目に映せる……


「僕にそんな事が許されるのかな……」

「どうして?」

「僕は……生きていちゃいけない存在だから……」


 珠依がきょとんとした表情をした。


「生きていちゃいけない? なんで?」

「僕が化け物だから……」


 思わず声が震えてしまった。常に僕の脳裏に焼き付いて離れないこの言葉。化け物、こんな言葉、大嫌いだ。


「あなたは人間だよ」

「……っ!」

「生きていちゃいけないなんて言わないで……私はイキルお兄ちゃんには生きていて欲しいよ……」


 珠依が僕の手を優しく握った。そして真っ直ぐ僕の目を見つめてくる。綺麗な目だ。思わず僕はその目を拒むように逸らしてしまった。とても眩しくて。珠依はずっと僕の側にいてくれた。珠依が一緒にいてくれたからか、その後あの恐ろしい夢を見る事は無かった。

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