第11話 ポケットモンスター
俺と浅野が通ってた公立の中学校はうちから徒歩十分なのに対し、小野川が通ってた私立中学は実家から電車で七駅、しかもそこから徒歩十二分。
駅までの歩きや電車の待ち時間・乗車時間を合わせると一時間はくだらなかったんじゃねえか?今の俺の通勤時間より長いぜ。でも話によればそんな生徒はありふれてたらしい。高校ですら徒歩で通ってた俺には想像も付きゃしないね。
まあ私立中学校と言ってもピンキリなんだろうが、小野川が通ってたのはもちろんかなりレベルの高い所。そこから名門高校、そして名門大学って言うわかりやすいエレベーターが築き上げられてる場所。
「なあ浅野、お前小野川が通ってるような所の中学生ってどんな会話してると思う?」
「さあね、案外僕らと変わんないのかもね」
「にしてもお前すげえな、九十点って」
「津野こそ前回よりいいじゃない」
「五十四点でいばれるかよ」
そんな雑談は何べんもした。落ちこぼれと優等生だったけど、それでも幼なじみって特権を生かして仲良しこよしのままでいられたのはラッキーだ。浅野はクラスで上から三番目、俺はケツから三番目。それがだいたい定位置になってた。
まあ決して赤点だけは取らねえつもりでいたが、それでも先生から学業成績について相当に心配された。親父たちはなるべく早く身一つで生きられるように高校はそういう所に進ませますのでっつってくれたけれど、その事のありがたみを俺が知るのは俺が実際にそうなってからだった。まあ、手遅れって訳じゃねえから別にいいけどな。
「でも考えてみりゃよ、どんな学校だってトップとビリって存在するもんじゃね?名門中のビリと底辺中学のトップってどっちが上だと思うか?」
「鶏口牛後って言うでしょ?」
「小さい集団のトップのが大きい集団の下っ端よりいいって事か、でも集団にいる奴らの数が同じだとしたら話は違くね?」
「僕はそうは思わないよ」
名門校のビリってのは、そんなに頭が悪いもんなんだろうか。同じ内容のテストを受けたとして、浅野って言うそこいらへんの公立校の優等生よりいい点が取れねえもんなんだろうか。名門校のビリとまでは行かねえにせよそれに近い連中は、俺と似てるもんなんだろうか。
俺自身、勉強はビリ争いでも音楽や技術は普通レベルだったし体育は平均以上だった、それで浅野のような友達がいるからそれほどつらいって気持ちはなかった。
だからそういう連中も友達や他の楽しみを見つけて適当に生きてるんだろう、俺より確実に頭がいいはずだからんな事にはとっくの昔に気が付いてらくらくこなしてるんだろうな。
そう思ってたから俺は名門校のビリの方がいいっつったけど、浅野は違うらしい。
「実はこの前さ、偏差値のかなり高い学校の高校生の人の家に行ったんだよ」
「お前の親類かなんか?」
「ううん、イベントで知り合った男の人。その時は見事に二連敗してね、リベンジをしないかって誘われてさ。結果はやっぱり向こうの二連勝、でもまあ別軸のコンテストで勝てたから満足だったけどね」
「けどねって何だよ」
「本当はもうちょっとゲームしたりおしゃべりしたりしたかったんだよね。でもその人成績がかなり危なくってさ、ちょっとでも成績落とすとゲームさせてもらえなくなるってぼやいててね、それじゃこれ以上お邪魔する訳には行かないって帰ったんだけど、何か消化不良って気分でね」
「なるほどなー、しっかしよ、お前はインドア派に見えて案外行動的なんだな」
「必要な時は動くもんだよ」
中学校でも俺は野球部だった。理由?高校の時とまったく同じで、部員が少なくて目立てるかもって思ったからだよ。
さすがに一年生からレギュラーなんて甘い事はなかったが、二年生になれば年功序列でレギュラーが回って来た。まあ活躍については今ここで特別自慢するようなことがないって時点でわかってもらいてえレベルだ。
それでもまあ、一応練習はほとんど皆勤賞だった、他にする事もねえから。
その点浅野の奴は休みになると家に籠りっきりでゲーム機を動かしてると思いきや、案外ホイホイとあっちこっちに出かけてたらしい。
それが塾でもイベントでもなく、ゲームの対戦だって知った時には最初は驚き、すぐに慣れた。
そういうイベントで知り合った連中の家に行っては適当に対戦し、それで情報を交換したり適当にしゃべったり。浅野はそういうやり方でお友達を増やして行った訳だ。残念ながら結婚式まで付き合うような奴はいなかったようだが、それでも浅野にとってはいい思い出だろう。
そう、ポケットモンスターって奴は。
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