第24話 神獣と精霊魔法

 野営地まで歩いている途中、シグさんは僕をチラチラと見る。


「あの、なんでしょうか?」

 何回かこうやって質問するが、

「…え? いや、なんでもないわ。べ、別に…」

 と話を逸らされてしまう。

 

 なんだろう? 新手のイジメだろうか…。


 そのうちに、辺りに生臭い匂いが立ち込める。新手のモンスターかもしれないが、様子がおかしい。


「シグさん!」

「うん。分かってる」

「ちょっとでかいかも」

「う…」


 そこに、大きな白い蛇が顔だけ現れて、こちらを見ている。


「ヒィィィィ…」


 シグさんは尻餅をついてしまう。もはや戦う気力がないようだ。


 顔だけ見てもかなり大きい。白い大蛇、もはや僕らは白い牢獄に囚われているようものだ。周囲はいつの間にか、胴体が定期的にズズズと蠢いている。

 そのたびにシグさんが怯えた声を出す。


「…た、た、助け…」


 泣いているらしい。助けを求めた言葉は誰に言ってるわけでもないだろう。

 ただ、僕は白い蛇をよく観察して思う。かなり大きく、ミミズタイプのモンスターとかと、全く違ってなかなかに迫力がある。大きさもそうだが、ドラゴンを見たときと同じぐらいの感動を覚えた。


 そして僕はその大きな目が気になっていた。目の焦点が合っていない気がする。もちろんモンスターなので焦点が合っていようがいまいが関係ないのかもしれない。


 グラァァァァァ…。


 そして今のところ会話が成り立つ様子はまるでない。爬虫類のその目が、虚な目、だと感じた。なんか生気も感じられない。


「ねえ、何か、苦しかったりするの? 話、通じれば良かったのに…」


 一縷の望みを話しかけてみるが反応はない。

 シグさんは未だガタガタ震えている。


 ドゴーン!


 ついに攻撃を仕掛けてきた。大きな顔で噛みつこうと迫ってくる。しかも牙から紫色の液体が涎混じりに滴り落ちていた。おそらく毒だろう。力もあるし、大きさも半端ないし、良好な関係は難しいようだ。


 大きいが器用に身体をくねらせてくる。尻尾も尖った状態のランスになって付いてくることもあれば、薙ぎ払ってくることもある。大きいくせに素早さもある。

 動けないシグさんを庇いながら攻撃を避けるには限度がある。


 バサバサバサ。


 木々を薙ぎ倒しながらゴリ押しで攻撃してくる。

 細胞レベル、原子レベル、素粒子レベルまで分断、分解して輪切りにでもしてやろうかと思ったが、正直余裕がない。

 魔法もどきでなんとか対応するが、全魔法に耐性があるようで、傷ひとつつけられない。


 今のところ、シグさんをなんとか抱えて避けられているが、どうも追い込まれているような気がする。できれば集中する時間が欲しい。


 僕はシグさんをお姫様抱っこしたまま走り続け、森の奥に走り抜けていった。

 どういうわけか他のモンスターはいない。白い大蛇が怖いのだろう。


「…くそ~、時間さえあれば…。あの蛇、蒲焼にしてやるのに…」


 とにかく僕は走った。


 グオララララ!


 そのうちに先日の開けた場所、黒い石のところまで辿り着いた。

 白い大蛇はすぐそこまで迫っている。


「…はあ、はあ、くそ、こんなところまで、来ちゃったよ、ってシグさん、シグさん…」


 シグさんは気を失っていた。どうりで途中から重くなった気がしたわけだ。死んでは無さそうなので良しとする。

 白い大蛇はこの開けた場所の周囲をうろうろしている。どういうわけか入って来ない。時折苦しそうな低い声を出している。


「…ま、なんかわからないけど、チャンスかな」


 僕は集中する。

 そして、なんちゃって呪文を唱える。


『その波動、根絶・消滅・分解に至れ。律令の如く』


 その途端、白い蛇の鱗の表面がわずかに削れていく。


「あれ? おかしいな…」


 僕は身体を真っ2つにするつもりだった。なのに、表面が削れただけだ。

 再度集中していくつかの呪文を呟く。


 同じだ。ただ効いているのか、白い大蛇が大声で叫びながらのたうちまわる。


 グオオオオオオオオオ。


 身体をあちこちにぶつけ暴れ回っている。ただ、この開けた空間には入らないようにしていた。まるでこの黒い石に気を遣っているかのようだった。


 僕は集中力を高め、白い大蛇の滅殺を強くイメージする。

 

 グオオオオオオオオオ。


 細かな世界の粒子、一つ一つの結びつきに、その固有振動に呼びかける。

 壊れてしまえ、離れてしまえ、と念じ続ける。


 これは魔法ではない。強い意志で万物のつながりを断つ作業だ。


 そのうちに白い大蛇の身体に亀裂のようなものが入り始める。だが元通りになろうとする力も同時に働いていた。こんなことは初めてだ。

 なんだか身体が熱い。


 大蛇は今も荒れ狂っている。


 そして僕は、大蛇を形作る全ての粒子とその波を捉えたように感じた。

 その瞬間、大蛇が動きを止める。


「…」


 しばらく沈黙がある。

 あれだけ荒れ狂っていた大蛇が動きを止め、僕をじっと見る。なんとなく目の焦点が合ってきたように感じる。

 大蛇は、呆然としていた。戦意を無くしてしまったようにも見える。


『人間の子よ、応えて欲しい…』

 かすれた声が頭の中に響く。


「…ん? だれ、だれですか?」

 キョロキョロと周りを見るが、ここには気を失っているシグさんを除けば、目の前の白い大蛇しかいない。


『応えて、欲しい…、そして教えて欲しい、のだ…。なぜ、このような状況になっているのか? 我はなぜここにいるのか? なぜ、今、滅ぼされようとしているのか?』

「え? あれ?」


 さっきよりもさらにじっとこちらを見ている。間違いない。白い大蛇からの言葉が頭に届いている、と思う…。


 先ほどまで無機質に攻撃してきた雰囲気と全く別の個体のような印象だった。


『頼む、人間の、子よ…。なぜ我が領域を犯すのだ? 我を滅ぼす理由を教えて欲しい…』


 声に力がない。何が哀れな気がする。


「…え~と、その、襲ってきたからやり返しているだけで、特にこちらから手を出す気は無かったんですが…」


『! 我が襲う? 其方を? まさか…』


 心底動揺しているようだ。しっかり伝わってくる。


「ええ。だって僕らはここで休んで、明日あの城の調査をしにいくだけですからね」


『なんと、あの朽ち果てた城を! そういえば…。しばらく前にそんなことを行って通っていた者たちがいたような…。いや、よく思い出せん…』


 本気で悩んでいるようだ。どうも悪い奴ではない気もする。


「え? 大丈夫ですか? 思い出せないってどういうことですか?」


 とりあえず会話を続ける。


『…我は、はるか昔から、この地を見守っている。古の大いなる存在たちから、その役目を与えられていた。我を知る古い種族たちからは、神獣などと呼ばれている。ところが数百年前から突如現れたあの城のせいでどうも力を上手く制御できず、ときどき意識を無くしてしまうようだ…』


 今回の調査に思い切り関与しているんじゃないだろうか。


「つい最近もそんなことありました?」

『…あった、かもしれぬ…』


 ほぼビンゴだよな…。


「え? それはマズいな」

『もちろん殺してはおらん。それは遠く昔から我に使命を与えて下さった神々たちの厳命だからな』

「…う~ん、それにしては、さっきは問答無用で襲ってきましたよね?」


 ちょっと嫌味を言ってみた。


『す、すまぬ。意識が混濁して、何かに支配されていたのだ。それに久々に生命の危機を感じた。だが、この場にきて、その黒いモニュメントを見た途端、頭の中のモヤが晴れていった…。何かとても神聖な…』

「黒いモニュメント? …それって、この石のこと?」

『…そうだ。その石が…、ん?』

「どうしたの?」


 白い大蛇が急に動きを止めて黒い石を見つめる。

 すると、黒い石が淡く光を放ち揺れながら、また語りかけてくる。


«…人々の信仰は崩れ去り、偽りの代償が与えられる。ありとあらゆる恵みを享受するも、精霊の声を聞かず、精霊の恩恵を受けず、何も気づかず…»


 黒い石からのメッセージは、前よりもずっと悲しそうな雰囲気だった。


『…古の神々が今の現世を憂いて遺した言葉だろう…。悲しいな…』


 大蛇はそう言って黒い石を見つめ続けていたが、突然その石がそのカタチを維持できず、崩れてしまう。

 粒子が大気中に広がって、空気の中に溶けんでいった。


「…うそだろ、…消えてなくなった」

『…役目を終えたのだろうか…。それにしてもこのような場所に…』


 ただ驚く僕を気にせず、何か感慨深いものがあるのか、大蛇はとても悲しそうだった。

 お互いが黙ったまま時間だけが過ぎる。といっても数分ぐらいだったかもしれない。

 ただこのまま、古の郷愁を想い、感慨に耽る、というわけにもいかない。


「あの~、なんか、悲しそうなご様子でお声をかけにくいのですが…。そしてお一人で納得されているようですが…」

 

 ちなみに僕は敬語で話しかけることにした。ここまでくると、さすがに目の前の存在が神聖なものであると思い始めたからだ。タメ口はやめておこう。


『…おお、すまんすまん。懐かしさのあまり…』

「懐かしい、のですか?」

『…うむ。ここは、聖地だ。原初の神々に祈りを捧げる場所だ…』

「ここが? 原初の、ですか?」


 驚いた。先日偶然たどり着いたこの場所が、ただ開けただけのこの場所が、なんと聖地らしい。まあそう簡単に聖地だとか言われても…。

 加えて『原初の』という言葉。さすがに気になる。


 一方大蛇は、そんな感じで逡巡する僕を興味深く眺め、言葉を選びながら少しずつ語る。


『…今、この現世の簒奪者たちではない。古の、原初の神々に祈りを捧げる場所がここだ。先ほどの黒い石はその先達たちが、遺したメッセージのような、ものだ…』


「簒奪者? どなたのことでしょうか?」


『…そうか、それも知らぬか…。ま、簡単に言うと、大昔に本当にあった神々たちの戦いで勝った方、と言うことかの…』


「神々の戦い? 本気で言ってます?」


『本気も本気。歴史なんていうものは、意外と忘れられ、ねじ曲げられてしまうものだよ。魔法の体系のいくつかが失われてしまったようにね…』


「…すいません、ちょっと理解が追いつかず…」


『フフフ、気にするな。今でなくともお主は必ず理解できる、いや、お主でなければわからんだろう…』


「…そう、ですか。まあ、ここが大切な場所、というのだけは分かったんですけど、なぜそれであなたの洗脳らしきものが解けたんですかね?」


『…原初の、魔法、いや波動を感じたからだろうな…』


「え?」


『今の世界の魔法が数ある魔法の一つに体系に過ぎないことは分かっただろ? 失われた魔法やそれに付随したなんらかの魔法具を使ったのだろう。…どうもかなり怪しげな術を使われてしまったらしい…。気色の悪いことだ…』


「…あの、すいません。今の世界の魔法が偽りってどういうことですか?」


『ん? なぜそんなことを聞く?』


「…いやだっていきなり偽りなんて言われても…。ってことは本物もあるんですかね?」


『お主が使っておるではないか…?』

「え?」

『ん?』


 どうも話が噛み合わない。僕と大蛇が同時に首を傾げている。


『…まさか気づいておらんのか? お主が使っているそれは原初の精霊魔法そのものではないか…』


「ええ?」


 まさかの…。まさか、スクルド姉が、ぽろっと語った内容が大正解だったようだ…。


「…僕は、でも魔力無しですし…、努力はしましたけど、この世界では異教徒なんて言われるような不信心ものらしく…」

『今のこの世界の魔力はある存在から与えられたものに過ぎない…』

「…そう、なんですか?」


『なるほど。不思議な世の中になったものだ…。だがそもそもお主に魔力など必要ないだろ? 精霊に呼びかけるべき心根があれば…。万物の根源である精霊たちが、物体であり波であることがわかれば、理解さえすれば、応えてくれるではないか…』


「…あ、そう…かも、ですね…。確かに…」


 まさにそうだった。そしてずっと思っていた。なぜ万物は、僕の呼びかけに答えてくれるのか。

 前に、もしかすると万物の根源には、それぞれ意志が宿っているのではないだろうか? などと考えたこともあった。荒唐無稽ではあるが、魔力がないのに似たようなことができるのは自分でも不思議だった。万物を司る細かな粒子とは精霊のことである、そう理解して良いのだろうか…。いや、そうなると矛盾することもあるのでは?

 僕は黙り、考え込んでしまう。

 そんな僕を見て大蛇が優しく声をかける。


『…いきなり全てを理解しようとせずとも良い。その力があるのなら精霊たちはいつでもお主の問いかけに応えてくれるはずだ…。』


「…そう、ですね。まあ、今はちょっと驚いてしまって…」


『…フフフ』


 それから僕は、頭の整理がつかないまま、ここに来た理由をきちんと伝えた。


『…なるほど、王家の依頼か…』


「最近通ったのって、若い女の子中心のチームだったはずなんだけど、どうなったか覚えてる?」


『うむ、確かに人間のおなごとその取り巻きらしき者たちがいた…。我の姿を見て慌てて逃げていったが…』


「…逃げていった方向は、荒野の向こうの古城ってことで合っていますか? それと、あなたはあの城が何かわかりますか?」


『…うむ、向かった方向はその通りだが…。…いや、そもそもあの城は、目的は知らぬが魔族が建てたのだ、と思う…。実際によくわからんのだ。いつからあるのかもはっきりしておらん。ただ、精神支配を施す何らかの仕掛けがあるように思う。今回そなたと出会い、この場所に来て洗脳が解けたのだが、あまり気持ちの良いものとは思えぬ…』


「魔族、ですか? 存在は知っていますが合ったことないですね…」


『古の神々の末裔と自称しているが、あくまで自称に過ぎん。ただ、今の魔法のあり方や借り物の仕組みに疑問を呈しているのだろう…』


「なら、むしろ良いことをしているのですかね?」


『いや、奴らはあまりにも排他的なのだ…。変わらぬなら、現状を全てやり直してしまおうと考えている…』


「…激しい考え方ですね。そして、…なんだか詳しい、ですね」


『ずっと魔族側から協力を要請されていた。断っていたのだが、洗脳の経緯を思い起こすと、魔族側に何かされたのかも知れん…』


「洗脳は魔族が施したと?」


『…そう考えるのが自然だな。何回目かの魔族との交渉後から記憶が曖昧だ…』


「…なるほど、洗脳、ですか…。魔法ですかね? あれ、とても難しいはず…」


『…おそらく何らかの装置だと思う…、というか、お主、洗脳を試みたことがあるのか?』


「…。いやぁ、まさかまさか。…ハハハ」


『…』


 その後も大蛇と会話を続ける。大蛇にはヨルムンガンドという神様から与えられた名があると云う。大昔の聖戦規模の戦いでは、古の神々の従者として戦ったそうだ。そうなると、現在の神々の敵ということになる。


「…あの、今の世界はあなたと敵対していた神々が創ったものであるなら、今の王家なんかは敵ってことになりませんかね?」


『人族を含むすべての世界の守護者たるべきを、神々が争ったのだ。守護すべき人族を敵とすることはない』


「…そ、そうですか。まああれですね、子供の親権を父親と母親が奪い合うような感じの…」


『…ん? アハハハハ、そうか、それはそうかもしれん。面白いことを言うものだ…』


「…ハハハ」


 いや何がツボったのかわからないが、とにかく楽しそうにしてくれたのでヨシとしよう。


『ところでお主の名はなんという?』


「フォルセティ、といいます…」


『…』


「…あの?」


 突然大蛇が黙り込むので、気になって声をかけるが、


『うむ、それでフォルセティ殿は、あの城に行きたいわけだな?』


 と何事も無かったかのように返事をされた。殿はやめてほしいが…。


『…我と、契約をしよう。そうすればあの程度の荒地、すぐに踏破できよう。我も洗脳を受けずに済むかもしれぬ…。うむ、良い考えだ』


 大蛇は自身の考えにご満悦のようだ。僕としては大蛇と契約?という突飛な出来事をどう処理すべきか悩んでしまう。


「すいません、お待ちください。あの、ちょっといろいろ相談したい人もいたり、とか…」


『気にするな。我に乗っていけば移動が楽だぞ。こう見えて早いしな…』


 それは魅力的な話だが、ウルズさんに相談してからの方が、いやそもそも理事長先生に断りを入れないといけないような気も…。どうしようか。

 散々迷っていたが、次の言葉を聞いてすぐに返事をしてしまった。


『お主の精霊魔法は制御しきれていない状況だからな。こういう場合、見合った精霊と契約することでリミッターを得ることになるぞ。さらに細かな制御ができた方が良いのではないか?』


 確かに魅力的だ。

 それから僕と大蛇は他愛ない世間話を楽しんだ。

 さすがに歳を取っているだけのことはある。昔話がとても面白かった。

 契約云々は別にして、僕たちはたぶん良い友人になれると思う。


「契約した際のデメリットって何かあります?」


『…そう、だな…。う〜ん、デメリットというか、今のままだとうっかりこの世界を壊してしまうかもしれんぞ?』


「え?」


『お主、感情が昂ると歯止めが効かなくなるだろう?』


「あ、それはあるかも…」


『…それ、相当危険な状態だぞ。ふわふわ状態の今より良いことの方が多い気がするが…』


 納得だった。

 少し力を持て余し気味だったこともある。

 僕は大蛇との契約を望んだ。


「…わかりました。ぜひお願いいたします。それで、どうやってやるんですかね?」


『我にお主の血を飲ませるのだよ』


「血、ですか? はい、じゃあこれで…」


 ドバドバドバ。

 僕は自身の剣で勢い良く腕を切り付けた。


『おいおいおい、一滴で十分だぞ? 危ないやつだな…』


 そういうのは先に言って欲しかった。

 大蛇は顔を近づけて、舌を出す。本当に僕など一飲みでいけそうだ。

 長い舌でペロリと舐める。

 その瞬間、大蛇が光を放ち、全体を包み込む。


「うわ、眩しい…!」


 光はやがて収縮していく。そして僕より少し大きい程度まで縮まり、やがて人型の光へと変貌する。

 光が収まると僕より少し年上らしき女性がいた。


「…え? 人の姿?」


『フフフ、契約者に合わせた状態に身体が変化するのだ…』


「ちょっと裸なのは…」


 仕方ないので僕は魔法袋から預かっていたパーティメンバーの衣服を適当に選んで渡した。あとで謝っておこう。


「契約は、あと名付けぐらいかな」


「え? ヨルムンガンドさんでは?」


「…それは神代の時の通り名ですよ。さあ、あるじ殿が名付けてくださいませ」


「え?」


 いきなりそんなことを言われても…。僕にそんなセンスは無いのですが、とは言えない雰囲気だ。大体こういうのは、スクルド姉やロタ姉が得意なはず。どうしようか…。


「なら、う〜ん…」


 かなり期待した目で見られている。


「う〜ん、シロってことで…」


「は? シロ?」


「ええ、髪の色、白いし…。ダメ、ですかね?」


「う〜ん、仕方ない。ではシロで…。あるじ殿は名付けのセンスが無いかもしれんの〜。まあ良いか、これから頼むぞ、あるじ殿…。フフフ」


 うん。がっかりされた。ちょっとした美人さんに残念なヤツ認定されてしまった。ちょっと癖になるかも、なんて思ってしまったが、平常心を保とう。

 長くて白い髪色が似合う感じの清楚な感じなのに、赤い瞳が妖しく光っている。ああ、この人、本当に綺麗だ。スクルド姉やロタ姉にはどう紹介しようかな? 姉様たち、ちょっと美人さんが僕に話しかけてくると、途端に喧嘩売ってたからな…。うん、面倒なので後で考えよう。

「し、シロさん、ところで何か、変わったんでしょうかね?」


「シロ、と呼び捨てで構わないよ。すぐに何か変わるわけではないよ。ただ今までとは力の加減などが違うから、最初は戸惑うかもね」


 なんか話し方まで変わっているような…。こういうのは突っ込まない方が良いだろう。


「あるじ殿、という呼び方は…、まあおいおいで良いから変えていきましょう、こちらこそよろしくお願いしますね」


 変な呼び方が定着しないように気をつけないと、思い、ともすると妖艶な白い大蛇さんに笑顔を向ける。

 少しだけシロさんの頬が赤くなった気がするのは気のせいだと思う。


〜〜〜Another Viewpoint (遠い未来、とある歴史家の談)〜〜〜


 当時、この世界には魔族が存在していた。魔族たちは、複数の国に分かれており、この当時、それぞれがまだ見ぬ魔王の覚醒を待っていた。


 魔王の出現は、古の神々の復権を目指す魔族たちにとっての悲願である。

 

 フォルセティとシロの邂逅は、間違いなく、この世界の変遷に一石を投じることになるのだが、彼らが、魔族と関係を結んで世界の構造を変えていくのは、まだ先の話であった。

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