第23話 告白、そして異教徒認定?


 さて、身体の大きなモンスターはまだやりやすい。苦労したのは、キラー・ビーやナイト・アントたちだ。蜂や蟻のモンスターである。

 一匹一匹は大して問題にはならない、といってもBクラスらしいのでそこそこ強いのだが、これが群れで行動するのでやっかいだ。


 虫系のモンスターは知能が高い。

 こちらの役割分担を早々に見抜き、数の優位をうまく使ってくる。

 地の利も活用し、数匹が囮となり、他は別の角度から毒やら痺れやら眠りやら多彩な攻撃をしてくる。状態異常のオンパレードだった。

 なんで虫たちがデコイなんて仕掛けてくるのかわからないが、とにかく戦い辛い。


 何回かシグさん、ミストさんが動けなくなり、ウルズさんも敵に取り囲まれてピンチに陥った。その度に僕は激しく動き回り、敵をなるべく惹きつける。


 状態異常は今のところ僕の能力ではうまく対処できない。

 僕は動き回りながら、ついでにポーションを2人にかけまくる。


 2人の攻撃力、防御力、魔法攻撃力などは今回の戦闘でかなりベースアップしている。連続した戦闘は個人のレベルをかなり引き上げるようだ。


 僕も量子レベルの呼びかけというか操作力が上がっているような気がする。

 魔法が得意なミストさんと僕が虫系の苦手な火や雷で牽制し、ウルズさんが最後に範囲攻撃する。蜂や蟻たちからしたら、どこから雷やら炎がまるで生き物のように迫ってくるのだ。悪夢だろう。


 そんなこんなでなんとか敵を一掃し、そろそろ森を抜ける。


 確かに遠くに古城が見える。道は整備されておらず、荒野のような有様だった。砂漠というよりも岩山、谷などが入り組んで、川には水が流れず、枯れた大地がウネウネと広がっていた。


「うわ〜、なんか気持ち悪い〜」

 ミストさんがポツリと言ったがその通りだと思った。


 ちょっとした洞窟もどきの岩肌があり、そこで今夜は野宿することになった。

 夜にスケルトンなど闇のモンスターを相手にすることは避けたほうが良いらしいし、夕方のうちに狩りをしたり、野営をしたほうが安全とのことだった。


 僕は全員分の荷物を魔法袋で預かっていたのでまずはそれらを指示された場所に展開する。

「やっぱフォルくん便利だー」

「本当に助かるよ」

 シグさんやミストさんが嬉しそうにテントを運ぶ。


 孤児院とは違う仲間と言える人たちとのちょっとした触れ合いが、嬉しい、なんて思う。

 いつか孤児院のみんなも誘ってあげたい。

 もしかすると、そんなに遠くない日にみんなを誘って一緒にキャンプとかできるかもしれない。楽しそうだ。


 一通りテントを用意すると、狩りについてはウルズさんが僕にレクチャーするとのことで、一緒に出かけた。食べられるものを採りにいくのだ。なんかこういうのもすごく良い。


 今夜も野営に向けて、準備は万端だった。


「さてフォルくん、狩りに行こう!」

「はい!」

 

 狩りは順調で、ウサギが2羽採れたところで、ウルズさんが川での狩りも覚えたほうが良いと魚の捕獲についても教えてもらった。

 釣りをするのかと思ったが、網で漁をするかのように効率的に魚を捕獲した。釣りでは時間がかかるからダメだそうだ。生きるための狩りだからあまり乱獲はせず、それでも的確に獲物を採る必要があるとのことだ。

 また、狩りからの帰り際、食べられるキノコや野菜類も教えてもらった。かなり大量に収穫できた。


「お、帰ってきた」

「大量ですね!」


 キャンプ場に戻ると、シグさんやミストさんがお湯を沸かしており、いつでも料理できるように支度しながら声をかけてきた。

 さすがのチームプレーである。料理は主にミストさんが中心になり、捌き方や切り方、味付けについてのコツを教えてくれた。


 魚は串刺しにして塩を振るだけ。肉も塩味のみ。肉は最初焼きを入れて、そのまま食べる分とスープに入れる分とを分けてぶち込む。スープにはキノコや野菜をたっぷり入れる。肉の出汁とキノコの旨味、塩だけのシンプル味付けの料理が出来上がった。シンプルな味付け、とミストさんも言っていたのでシンプルな味を想像していた。


「な! これ、めちゃめちゃ美味い! すごい、どうやったんですか?」


 かなり美味いのだ。てっきり僕は僕の見ていないところで何らかの調味料を付け加えていたのだと思った。昨日は移動用の保存食だけだったので、そんなものかと思っていた。

 現地調達、現地仕込みが旅の醍醐味とのことだ。


「アハハハ、さっき一緒に作ったよね? 見てたでしょ? あのまま煮込んだだけだよ」


 なんでこれだけのことでこれほど上手くなるのか不思議だったが、とにかく美味い。素材の旨味がよく出ていてこれ以上の味付けは全く必要無いと思った。


「フォルくん、育ち盛りなんだからたくさん食べなよ」


 とウルズさんに言われ、調子に乗って食べ過ぎてしまう。お陰で片付けの手伝いがおそろかになってしまった。


「す、すいませーん、ちょっと動けなくて」

「大丈夫よ、しっかり休んで」

「そうだよ、そうしたらもっと大きくなれるかもよ」


 そんな風に甘やかしてくれるのでその言葉に甘えてしまった。

 そして片付けも大体終わる頃、ウルズさんが皆に声をかける。そろそろ僕も動けるようになってきた。


「なあ、みんな手を止めずに聞いてくれ。フォルくんの能力のことなんだけど…」


 ピタ。という音がしたかと思うほど、皆の動きが止まる。


「やっぱ気になるんですよね…」

「知りたい知りたい…」


 片付けどころじゃないらしい。2人ともササっと座り込む。

 ウルズさんが苦笑混じりに僕を見る。僕は2人の代わりに片付けの続きを始めた。

 そしてウルズさんが話し始めた。


「2人とも、よく聞いて欲しい。私たちはパーティーメンバーだからな。このタイミングで伝えておく必要があると思ったんだ…」

 ウルズさんの言葉に息を呑む2人。


 そこまで緊張して話す内容だろうか、と思ったが、僕は聞き耳を立てながら作業を急ぐ。


「今から話すことはパーティー内だけの内密な話だ。外に漏らすのは厳禁と考えてくれ」

「え? なんか本気ぽい…」

「そんなにすごい話なんすかね…」

「ああ。話すこと自体は、ブリュンヒルデ孤児院の理事長先生から一応許可はもらっている。だがそれが外に漏れたら私もただでは済まないだろう…」

「「ブリュンヒルデ!!」」


 孤児院の名前を出した途端、さらに2人は緊張していた。


「あの、ちょっといいですか?」

「なんだミスト」

「私、おそらく聖女様が開発した魔道具なのでは? と考えているんですが…」

「ああ、そうか、それならあの異常な属性数とか、モンスターの壊れ方なんかも、説明が付きそうね」

「…なるほど」


 ウルズさんのなるほど、という言葉と同時に僕も心の中で、いや、なるほど、と呟いた。

 他の人の前で多属性で攻撃したり、素粒子レベルでの分解は止めた方が良さそうだ。3人の話は続く。


「おそらく、2人が想定しているすべてが当てはまらないだろう…」

「え?」

「…そうなんですか…、そこまで特別な何かが…」


 2人は首を傾げている。


「フォルくんはな、魔力が無いんだ…」

「「は?」」

「魔力がゼロなんだよ」

「「…」」


 少し沈黙した後、


「いやいやいや、師匠、それはおかしいでしょ?」

「そうですよ。魔法現象が発生しているのを見ていますからね」

「…そうか」


 ウルズさんは少し考えて、


「フォルくん、片付けは大体終わったかい?」

「あ、はい。もう終わります」

「そうしたらちょっとこちらに来て、戦闘で使っていた魔法もどきを実演してくれるかい?」

「あ、は〜い、すぐ行きますね」


 僕は最後の洗い終わった最後の鍋を魔法袋に入れ込み、3人の近くまできた。


「そうだな。火の魔法をゆっくり発現させてくれ」

「わかりました。これですね」


 僕は手の平の上に向け、そこに火の玉を浮かせる。

 確かにこの動きだけ見ると、普通に魔法が発動したように見える。だが、


「うそ!」


 ミストさんにはわかったらしい。


「え? 何? 何かおかしかった?」

 

 シグさんは気づいていない。

 ミストさんの方を向いて説明を求める。


「…信じられない。でも確かに戦闘中も魔力の流れを全く感じない時があったし…。そもそもモンスターの壊れ方がおかしい気もしていた…。ということはこれは一体…」


 ミストさんがぶつぶつ呟いている。


「ちょっとミスト、私にもわかるように説明して! 何がなんだかわからないんだけど…」

「シグ、魔力の流れを注意深く観察してみろ。この状態ならお前でもわかるはずだ…」

「え? あ、はい…」


 ウルズさんに咎められた後、すぐに目を閉じ集中する。しばらく後、


「…あ、あれ? え〜と…」


 シグさんが焦ってしまう。


「どうしたシグ?」

 ウルズさんが聞くと、

「あの、ま、魔力が感じられなくて…。それなのに、ずっと火の玉が出ていて…。あ、あれ?」

 と困惑している。

「つまりそういうことだ」


 ウルズさんが一言そう言って2人を見る。


「簡単に言うと、フォルくんは魔力がない。でも魔法に近しい現象を引き起こすことが可能だ。理事長先生やスクルドからは量子の世界への干渉力だとか、波動制御力などと説明されたが、詳しいことは私にもわからん…。というか誰もわかっていない。な、フォルくん?」

「ええ。ミクロ世界についてはすごくわからないことだらけで…。ただ、万物は細かな粒子でもあり、波でもある、ということがなんとなく体感できています。ごめんなさい、本当にその程度しか…」

「…スクルドが、原初の精霊魔法の可能性も、なんて言ってたな…。それについてhもう少し調べる必要があるだろうが…」

 ウルズさんと僕が考え込もうとしたのだが、


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」

「…そうっすね。なんか難しい話はわからないんですが、そして原初の魔法にはとて興味ありますが…」

「それどころじゃないわよ! そ、そんな能力の解明なんて後回しよ!」

 シグさんが特に興奮していた。


「それって、フォルくんが異教徒ってことじゃない!」


 シグさんの僕を見る目が、最初の頃に戻った気がした。


「こら、シグ」

「…」


 ウルズさんに咎められたが、僕を見る目が冷たい気がした。

 異教徒ってなんだろう? 魔力無しが迫害を受けている様子は先日の馬車の一件で理解できたが、宗教的なことをとやかく言われる筋合いはないはずだ。

 そもそもミズガルド王国は多神教のはず。それぞれ崇める女神様がいて、自由な信仰が認められている。


「…あの、異教徒ってどういうことですか?」

 僕が恐る恐る質問してみたのだが、

「あんたは黙ってて!」

 とシグさんに一喝され、睨まれた。


 その目は、馬車の時、折檻を繰り返していた父親が、子に向けていた目と似ていた。


「シグ、いい加減にしろ!」

「でも師匠! 魔力無しがいた場合は国報告しなきゃいけないんでしょ?」

「…ねえ、シグ、落ち着いてよ」

 ウルズさんは然り、ミストさんは涙声でシグさんを落ち着かせようとする。


「私は、私は嫌! 魔力無しが、異教徒が同じパーティーだなんて…」


 パシ!


 平手を飛ばしたのはウルズさんだった。

「いい加減にしろ! じゃあお前、パーティー抜けるのか? 依頼をこのまま辞めるのか?」

「…」


 シグさんは殴られた頬を抑え、そのまま森に向かって走り去っていく。


「シグ!」

「あ、師匠、私追いかけますね」

「ああ、頼むミスト。ちょっと言い過ぎたかもしれない」

「…とにかく行ってきます」


 ウルズさんはその場に座り込み、頭を抱えていた。

 僕は呆然と立ち尽くしたままだった。


「あの〜…。パーティーは僕が抜けた方が…」

「あ、フォルくん、ごめん。フォルくんが気にすることじゃないっていうか…」

「…でも、異教徒って…」

 僕もその場に座り込む。

「…そうだな、これはこの国の根幹に関わる問題なんだ。本当は、魔力無い人をこんな風に排斥するのはおかしいんだよ…。だいたいさ、魔力ってなんだろうね…。フフフ」

「僕も探して来ます…」

「そうかい? 手分け、した方が良いか…。頼むよ、フォルくん」

「はい、わかりました」


 パーティーを今後どうするかはさておき、とにかく夜の森は危ない。僕が近くの入り口らしきところから、ウルズさんが少し離れたところから、森の中に入ることにした。


 夜の森。

 正直、モンスターだらけである。荒野側の近くでは、サソリ型のモンスターなんかもいた。

 一度戦闘したり、見たことあるモンスターであれば、対処もわかっている。

 数が多くてもなんとかなるだろう。

 ただ1人は不味い。


 僕は周囲の振動に集中し、モンスターを発見次第、素粒子レベルで分解し、消滅させていく。発動まで少し時間がかかるのが難点だが、そのことを補うため、スクルド姉やロタ姉とふざけて作った呪文的な言葉があるのだが、それを順番に発する。


『ゆらゆらと蠢動し、揺らげ、晒せ、万物の根源。その波動、滅界せよ』

 周囲10メートルぐらいまで効果がありそうだった。あちこちでバタバタ、ズシンズシンとモンスターが倒れたり、部分的な消滅現象が起きていた。ちょっと効果が強過ぎるかもしれない。


『我が声を聞き、跪け、全ての振動を我が意のままに』

 前方のみに効果がある。視認できる前方が酷いことになってしまった。

 

『ゆらゆらと、その波動、滅界せよ』

『その波動、根絶に至れ。律令の如く』

『元素根絶、振動支配』

 この辺りが使いやすい。発動もまあまあ早い。モンスター1体ずつに有効だ。


 その後も適当に言葉を紡ぎながらモンスターを駆逐していく。

 どんどん、どんどん死んでいった。獣系も虫系も関係なしである。


 ヒュイーン、ヒューン、ズバズバ。


 だいたいこんな感じの落下音や木々に倒れ込む音が定期的に鳴っていた。なかなか効率的だった。


 ちょっとした大量破壊である。森の資源など関係ないとばかりに破壊していく。


 正直ここまで破壊しまくった経験はなく、なんとなくどんどん力が解放されていき、気持ちが良かった。


 荒野の方から来たのであろう、新しいモンスターたちもいた。


 サソリ型は硬いのだが、雷や火にはかなり弱い。ちょっとした雷撃でもすぐにひっくり返って動かなくなる。お腹は柔らかいので剣で一突きである。


 他にはムカデの大きなやつとか、ミミズが大きくなって顔が口だけになっているやつが出てきてこちらを喰らおうと襲ってくる。


 どれもかなりデカい。

 図体が長いモンスターは、すべて刀で倒すことにした。

 ムカデの大きいやつは、サソリよりも硬い皮膚が自慢なようだが、振動を纏わせた刀で真っ2つになった。


 雷炎を纏わせると斬った痕から香ばしい匂いがしていたのでミストさんが帰ってきたら食べられるか聞いてみようと思った。


 顔が口だけのミミズのようなやつは、柔らかいがすばしこく地面に潜る。そして何でも呑み込もうとする。頭に来たので、まず氷で凍らせて、空中に放り投げ、その後、刀でバラバラにしてやった。この切り方はロタ姉に習ったものだ。あとでシグさんにも教えてあげたい。


 それにしても…。

 シグさん、ミストさんとこれからも同じようにやっていけるだろうか。


 しばらくまた歩くと、「きゃああ」という悲鳴が聞こえた。僕は慌てて声の方に向かう。

 そこには、倒れ込んでいるシグさんと、サソリ型の大型モンスターがいた。サソリは今まさに大きなハサミでシグさんを掴み込もうとしていた。


「…大丈夫ですか!」


 僕が駆け寄ると、シグさんはこちらを振り向き、泣いていた。

 一瞬だけ複雑な表情になったが、


「…助けて…」


 と小声で僕に。

 まあ仲間?を助けるには十分な理由だろう。


 僕はサソリに雷撃を喰らわす。

 さっきと同じようにサソリはひっくり返り、お腹を見せる。僕はそこに剣を突き立てた。


 シグさんにいた場所は意外にも野営地からそれほど離れていなかった。

 僕は近づかないようにする。


「…あ、あの…」


 シグさんが何か口走る。


「…ありがとう」


 小声だがお礼を言うシグさん。


「いえ、皆のところに帰りましょうか? パーティーについてはこれから考えましょう」

「あ、は、はい」


 それから2人は無言で野営地に向かった。

 途中のモンスターの夥しい数の残骸を見ながら「すごい」とシグさんが口走っていたが、知らないふりをした。

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