第20話 新たな依頼
ギルド内は昨日に引き続きとても賑やかだった。ここにいる人は本当にテンションが高い。
「やあウルズさん、ご苦労さまです」
「シグルーンお姉さま、今日も綺麗です!」
「ミスト嬢、今度ぜひお食事でも…」
僕が所属する『雷神の落とし子』は、とても人気のあるパーティらしい。クラスも上がったし、女性からも男性からも支持されているようだ。
初日に僕を案内しようとしたケバい女性冒険者たちもいて、特にシグさんに声をかけているが、僕と目が合うとスッと逃げるように消えていった。嫌われてはないと思うけど、たぶん…。
やはり僕は、このギルドであまり印象が良くないらしい。これから頑張ろう。僕がため息を吐いていると、
「まあそのうち慣れるさ」
とウルズさんがそっと肩に手を置いて励ましてくれた。本当に男前だ、このお姉さんは…。
僕たちは掲示板を覗き込み次の依頼を探す。そのうちにシギベルトさんがやってきて声をかけてきた。
「よお、いいところに来た。頼みたい案件、指名クエストがあるんだが…」
すごく申し訳無さそうだ。
「今日入ってきた依頼なんだがな、先方がお前らが受けてくれるならすぐにでも、って言ってきたんだよ」
「切羽詰まっているのか?」
ウルズさんが呟く。
シギバルトさんは、
「まあな。それに本音ではどうしてもお前たちに依頼したいらしい…」
と言いながらシグさんの方を見る。
「ん?」
シグさんは首を傾げている。
「でもな、この依頼危険なんだよな…」
シギベルトさん曰く、十中八九、王家からの依頼らしく、王家の依頼は危ないものが多いとか…。
「師匠、どうします?」
「報酬良さそう。やらない手はない」
シグさんは不安そうだが、ミストさんはやる気満々だ。
僕が横から口を挟んでみる。
「先に詳細を聞いてから、というのはダメなんですか?」
「聞いたら断るって選択肢はなくなるんだよ」
ウルズさんが僕の頭を撫でながら心配そうに言う。撫でるのは勘弁願いたい。
「今回みたいに指名って、ある程度信頼されている上位クラスにしかできないんだよ」
とウルズさんが言うと、
「上位クラスは余程でないとその指名を受けないといけないんだ。ギルドの威信ってやつもあって」
とシグさんが続けた。
「いや、今回のは情報が少ないことを理由に断ることもできるぜ。俺もそのつもりだったし…」
シギベルトさんがこうやって言ってくれるが、
「いや、待って欲しい。こういったクエストを受けること自体は勉強になるからな。メンバーたちに経験させたい」
とウルズさんがそう言い切る。
「そうか、あんたがそう言ってくれるならこっちとしても問題ない。よし、じゃあ連絡しておくよ」
「ああ、ありがとう。そうしてくれ」
こうして僕らは件の案件を受けることになった。
「おい、また雷神がとんでもないクエストやるみたいだぞ」
「なんだなんだ、面倒なクエストを全部片付けてくれるのか」
「例の調査クエストらしいぜ…」
「無茶だろ…」
そんなに難しい案件なのだろうか。
その後、僕たちはギルドの奥の別部屋で、その内容をざっくり聞かされた。
「今回のクエストは古城の調査だ」
シギベルトさんがゆっくりそう語る。
シグさん、ミストさんが息を呑む。
この前の森をさらに奥にいったところに朽ち果てた古城があり、そこに大量のスケルトンが発生してしまったとのことだ。それ自体は放っておけば良いだけの話なのだが、調査隊が何グループも調査に向かったまま行方不明になっているらしく、その中にこの国の王家の第5王女が含まれていたらしい。
何とか救出したいのだが、状況がわからない。
だからまずは調査して状況を掴みたいとのことだった。
「それって軍隊とは動かないんですか?」
僕が不思議に思ってそう聞くと、
「…第5王女ってなるとね」
シグさんが悲しそうに呟く。
ミストさんが小声で補足してくれたのだが、第5王女となると、継承権はほぼなく、血税を注ぎ込んでまで王女を助けるとなると、各所から反発があるそうだ。貴族って面倒臭い。
王家は困り果て、冒険者ギルドに依頼することになったらしい。指名クエストにした理由はこの後シグさんから聞かされた。
ちなみにこの王女、とってもお転婆な王女らしく、剣も魔法もかなり使えるようで、考古学にも興味があるとか…。この王女が今回の調査隊のリーダーだったらしい。
誰も王女の行動を止めなかったのかというと、そうでもなく、皆で止めたが止められなかったということで、今回の事件が起きてしまったそうだ。
継承権は少ないと言えど、王家と言えど、かなり可愛がられ、付け加えると、わがまま放題に育てられた末娘である。その家族からしたら気が気でないらしい。
王家、貴族といろいろなしがらみがなければ全軍で調査に赴きたいところだろう。
だから今回の調査依頼は、かなり重要な役どころとなる。
「王家の方々もいろいろ大変なんだね…」
「そうっすね」
ウルズさんとミストさんがそんな会話をする横でシグさんはよそよそしい。
僕は不思議がっていると、
「ちなみにその王女はシグの友人よ」
「え? そうなんですか…」
ミストさんが教えてくれた。
「…まあ、なんというか、学校が同じだったのよ。私が先輩になるの。昔はよく一緒にいろいろやったもんだけどね…」
王家のいざこざには興味ないが、その古城で何かあったのは間違いないらしい。
シグさんの心配そうな顔を見ると、一刻も早く向かうべきだろう。
「まああんまり気負うなよ、フォルくん」
「あ、すいません。でも、急いだ方が良いですよね」
ウルズさんの言葉に僕がそう答えていると、
「…ありがと」
とシグさんが小声でお礼を言った。
ただ僕はちょっとだけワクワクしている。
不謹慎だが、冒険者としてはまさにそれらしいワクワクする案件だ。
古い城とか、正直少しだけ興奮していた。
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