第18話 大浴場にて…

 お風呂はいわゆる大浴場だった。僕は割と風呂好きである。孤児院でも広くはないが、お風呂に入るのが好きだった。だからこういったゆったりできる風呂はとても気持ちが良い。


 だが、ちょっと問題があった。今ここにはシグさんとミストさんが一緒に入っている。何故か一緒に入ることになってしまったのだ。


「あの、やっぱり男子が一緒に入るのはおかしいっていうか…」

「え? そう?」

「同じパーティじゃない。気にしない気にしない」


 気にしない訳にはいかない。せめてかなり歳が離れているとか血が繋がっているとか、一緒に入ってもおかしくない背景や状況があれば良いのだが、さっきから目のやり場にもとても困っている。距離が近いのだ。

 2人とも普通に、いや普通以上の美人の部類に入る人たちなので、本当に申し訳なくなる。


 ミストさんは顔だけでなく全身も妖精さんのように白くしなやかでそれでいて、なんと着痩せするのか出るところはしっかり出ている。バランスが良いなんてもんじゃない。短く切りそろえられた青い髪が余計に妖艶さを醸し出す。さすがにタオルで隠してくれているだがちょっと際どい。


 シグさんはまだ幼さの残る顔の癖に胸が凶悪なぐらい豊満だ。戦いの中ではわからなかったがこれまた妖艶な雰囲気がある。赤くて長い髪が何束か前の方に垂れて、胸の大事なところをちゃんと隠してくれるので助かっているが、これもまた際どい。


 決してしっかり見ているわけではないが、どうもチラチラ見てしまっているらしく、印象が残ってしまう。

 2人も気付いているのかニヤニヤして近づいてくる。


「やっぱり僕、出ます! すいません!」


 ザバッと勢い良く立ち上がり、出ようとするが、そこに最強のモンスターが現れた。


「なんだ、みんなで入ってたのか。私も誘って欲しかったな」


 さらに妖艶さと大人の成熟さが合わさった凶悪ボディのお姉さんが僕の行手を塞ぐ。


「ん? どうした? 背中流してやろうか?」

「いや、あの、別に、僕はその…」


 そのまま僕は片腕を掴まれて洗い場に座らされる。かなりの力だった。 


 さすがに後ろを振り向く勇気はない。


「あの、一体何を?」

「え? 泡を用意しているに決まってるだろ? スクルドたちがいつもやってただろう?」

「え? 姉さんたちは最近はあまり…。昔は良くやってましたが…、ハハハ」


 スクルド姉たちに散々来ないように言ってあるので最近は全くない。


「…あの小ちゃな赤児が大きくなったもんだな…。当時はおむつとかを替えるのは私の仕事だったんだぞ…」

「え? それはちょっと恥ずかしいですね…」

「じゃあ背中流すぞ」

「はい、…あの、すいません」


 背中に程良くタオルの圧がかかる。何だか優しい。


 僕には母親の記憶が全くないが、こうしてウルズさんと接していると、母親ってこんな感じなのかな、って少しだけ思えてしまう。

 もちろんウルズさんは母親にしては若過ぎる。なんとなく感慨に耽ってしまった。まさかとは思うが、孤児院から一日離れただけでホームシックに陥ってしまったのだろうか。


 そんな感じで洗われながらしばらく身を任せていたのだが、だんだん洗う面積が増えてくる。

 そしてピタッと背中に柔らかい感触が二つほど感じたところで、


「なあフォルくん、前も洗ってあげようか?」


 なんて言葉を後ろから、ほぼ抱きしめられた状態で囁かれてしまう。


「ひや、え? いや、それは…、ちょっと…」

「なんだ? 恥ずかしいか? ずっと離れていたとはいえ、家族みたいなもんだろ?」

「え? でも…」


 スクルド姉とかロタ姉とかとは違う感じの積極さ加減である。どうも抵抗できない。しかも背中に当たっているマシュマロが僕の意識を飛ばしそうになる。どうしよう…。


「ちょっと師匠?」

「あ、師匠がセクハラしてる」


 シグさんとミストさんが助けに来てくれたらしい。だがタオルで隠していないので全部見えている。僕は一瞬で目を逸らす。たぶんだが顔なんかは真っ赤だろう。


「あ、フォルくん、今見たな?」

「うわー、エッチなんだー」


 それなら隠して来てよ、と言い返す余裕もない。


「なんだお前ら? 私は昔を思い出してこうして家族とのスキンシップをしているだけだぞ。それに今日は一人でがんばったし…」

「えー、ずるい! それなら私もねぎらいますよ」

「私も私も」


 ちょっと待てー。ウルズさんはともかく、シグさん、ミストさんは今日の出発時点ではかなり僕のこと警戒してなかったっけ?


「なんだお前ら、随分と冒険前と様子が違うな?」

「そりゃ、あれだけ実力見せられればね」

「うん。正直規格外過ぎて嫉妬するのもバカバカしいって思った」

「なるほど…。まあフォルくんの凄さに気付いたってことか。まあお前ならすぐに気付くと思ったが…」

「有望株すね」

「今のうちに唾つけておくのも良いかと…」

「アハハハ、露骨だな。じゃあ私もそうしようかな」


 なんで3人でそんなことで盛り上がってるんですか?

 こっちはいっぱいいっぱいなんですよ。ちょっともう限界かもです。

 ザザッ!


「あ!」


 ウルズさんの一瞬の隙をついて風呂場からの脱出を試みた。脱衣所までたどり着き、そのまま逃げるように寝室に向かう。

 というか寝室がわからなかったので、途中のメイドさんに「疲れて眠たいのでどこでも空いてる部屋を教えてください」と早口で詰め寄り、適当な部屋に入った。

 そこでそのまま鍵を掛け、とにかく寝ることにした。情けないかもしれないけど、今はとにかく休みたかった。

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