第17話 クラスアップ?

 ギルドに到着したのは夜だった。だいぶ遅くなってしまった。ウルズさんが代表して報告を済ます。その後は大騒ぎだった。


「ついに『雷神の落とし子』がやりやがった!」

「あのドラゴンのクエストが達成されたのか?」

「おいおい祭りだぞ、こりゃ」

「これであの森での貴重資源の採取が可能になるな…」

「『雷神の~』の大手柄じゃねえか!」


 こんな調子だ。

 あのクエストはウルズさんが言っていた通り、ずっと壁に貼ってあったようだ。そして余程重要だったらしい。皆、嬉しそうにしている。シグさん、ミストさんも毅然として皆からの賛辞を受け取っている。僕に話しかけてくる人はいないが、僕も毅然としていよう。


 ちなみに僕は、この時初めてパーティ名を知った。『雷神の落とし子』という名前らしい。カッコ良いと思う。

 名前の由来、今度ぜひ教えてもらおう。


 ウルズさんに呼ばれて解体場まで一緒に行き、僕が魔法袋から今日の収穫をすべて出し始めると、そこまでついてきていたギャラリーたちが急に静かになる。


「おい、見たか? 今の魔法袋だろ?」

「なんであのガキ、というかお子様はあんなもん持ってるんだ?」

「…バカ、ブリュンヒルデ出身者だぞ…」

「…そうか、何があってもおかしくないもんな…」


 そんな囁き声が聞こえてくるが気にせず、レッドベア3体、ワーウルフ8体、ミスリルゴーレム3体、そして赤いドラゴン一体を解体場に並べた。

 係員が呆然としたまま動かない。まあ1回の冒険にしては少なかったのかもしれない。確かに魔法袋にはまだかなり余裕があったし、ドラゴンの状態もあまり良くない。まあ最初だし多めに見てもらおう。


「あの~、これだけなんですけど…」


 ウルズさんはクスクス笑っている。


「うちの新人の晴れ舞台での成果なんだ。もう少しなんとか言ってやって欲しいのだがな」


 ウルズさんがニヤニヤしながら係員に声をかける。


 とにかくそこからまた大騒ぎだった。何が何だかわからないぐらいに盛り上がったことだけは確かだった。


「なんじゃこりゃ~」

「おいおいスタンピーとか!」

「雷神、半端ねえ!」


 口々に囃し立てる。

 どうやら今回の討伐での成果は、少ない、ではないく、異常に多い、ようだった。


 例の赤いドラゴンは、かなり問題のあるモンスターだったらしく、何人もの冒険者たちがやられているらしい。中には涙ながらに今回の討伐を喜び、ウルズさんに握手を求めてくる人もいた。


 皆が口々にしている情報では、あの赤いドラゴンは、あの森の主に成りつつあったそうだ。早く森から追い出さないと、森の恩恵が受けられなくなり、資源不足になることは目に見えていたとか…。


 本来ならば、森に寄り付かないようにしてくれればそれで良いということだったらしい。それほどに討伐は難しいと言われていたクエストだったのだ。


 こういったドラゴン討伐成功というのは、全国のギルドで数年に1度、あるかないかほどの成功率らしい。

 理事長先生に知られるといろいろ問題になりそうだが、まあみんな喜んでいるし、今は良しとしよう。夜が更けてもギルドはずっと盛り上がったままだった。

 

「おお、お前ら。今日はお疲れ! 疲れているところ悪いがよ、報酬とかクラスの件でちょっと話したいことがあるんだが…」


 大騒ぎしている連中から解放されて、ウルズさんと僕、シグさんとミストさんの4人で少し離れたところで食事をしていたところ、ギルドマスターのシギベルトさんが声をかけてきた。


「…食事中なんだけどな」

「だね」

「ですね」


 ウルズさんが余裕を持って応対する。その後にシグさんとミストさんが続く。

 僕は黙って食事を止め、ギルドマスターを見上げた。


「ああ、すまない。…そうだな、詳細は明日でも良いんだが、シグとミストもフォルセティもクラスアップすることになったと伝えておきたいくてな…」

「え?」「私たちも?」


 シグさんミストさんが同時に驚く。


「私たち、今回ほとんど何もしてないですよ」

「そうそう、これでクラスアップって言われても…」


 2人とも困っている。真面目だ。やはり実力で納得の上でクラスを上げたいのだろう。そういう気持ちは良くわかる。


「そう言われてもな、レッドドラゴンだぞ? 他の冒険者の手前、パーティとして評価しないと、こっちもいろいろな…。な? わかるだろ? ウルズよ」

「…そう、ですね…。まあ、今回のことではっきりしたのは、フォルくんを野放しにしてはいけないってことでしょうかね」


 ウルズさんがそう言って笑いながら僕を見る。


「ハハハ、本当にそれはそうかも」

「うん、師匠の言う通り。底が知れないなんて言葉じゃ足りないぐらい」


 ウルズさんの言葉にシグさんもミストさんも乗っかる。

 3人ともお酒のせいもあるが、面白がっている感じもする。シグさんは僕と同じ歳なのに、お酒が飲めるらしい。成人だから法律違反ではないが、飲み慣れている。僕は飲めないのに…。


「まさかと思うが、一人で倒した訳じゃない、よな?」


 シギベルトさんが不安そうな表情で聞く。それに対し、ウルズさん始め3人は黙り込む。それが答えと言わんばかりだ。


「…マジか、ド、ドラゴンだぞ…」


「そうなんですよねー」

 シグさんが頭を捻る。


「あれはドラゴンが気の毒だった…」

 ミストさんが遠い目をして呟く。


「そこまでとは…」

 シギベルトさんがため息混じりに呟く。


「できれば他言しないようにお願いしたい」

 当然ウルズさんが釘を刺す。


「…そう、かもな。確かにどんな勧誘やら面倒やら湧いて出てくるか、わからんからな…。なら尚更お前らにはクラスアップを受けてもらうよ」

「…そうか。そうだな。シグ、ミスト、お前らも昇格だ。フォルくんもいいな?」

「「はい」」

「あ、はい…」


 こうして僕はBクラスで登録したその日のうちにAクラスへと昇格した。

 

 報酬については明日ということだが、期待して良いと言われた。正直僕は昇格より報酬のほうが気になっていた。孤児院にいっぱい仕送りしたいと思っていたので楽しみだった。

 理事長先生の喜ぶ顔が早く見たい。多分、怒られる要素はない、と思う。おそらく…。


 ギルド内はまだまだ盛り上がっており、僕たちが帰る頃にはもうすでに僕たちのことを誰も気にしていなかった。要するにみんな飲みたいだけだったのでは?

 

 そのほかの細かな話も後日となった。そろそろ帰宅することにした。

 ウルズさんたちは宿を借りていてこの街にパーティー用の拠点を持っているとのことだ。


 そういえば僕は、自分のこれからの生活拠点について何も考えていなかった。部屋を借りる手筈を全く整えて無かったのだ。今日一日いきなりいろいろあり過ぎて正直そんな時間は無かった。なんとなれば孤児院で泊めてもらえると思うけど、やはり独り立ちした訳だし…。


「…あの、僕まだ泊まるところを手配してなくて…。まだどこか宿屋さんって空いていますでしょうか?」

「ん? 何を言ってるんだ?」

「私たち一緒に住むんだぞ」

「パーティはできるだけ一緒にいなきゃダメなんだよ」

「え?」


 あまり事情を理解していなかったが、パーティは寝食も共にしなければならないのだろうか? 知らなかった。


「でも、僕、一応男ですし、部屋とかはどんな感じなのでしょうか?」

「まあ着けばわかるよ」


 シグさんがニヤニヤしながらそう言った。途中、ウルズさんたちは部屋割りをいろいろ考えていた。どうやらある程度大きなお屋敷なのだろう。部屋はたくさんあるようだ。


 Sクラスともなると一戸建ての家に住めるような大きな財力が手に入るのかもしれない。なかなか夢のある話だと思う。早く僕もそうなりたい。


 そして僕らはウルズさんの家に到着した。それは家というよりも、お屋敷だった。

 その大きさに相当驚いてしまった。ギルドからそんなに離れてはいないという立地はもちろん、とにかくでかい、広い。本当になかなかのお屋敷だったのだ。


「お帰りなさいませ、お嬢様方」


 おお! 思わず声が出そうになる。すごい! メイド長らしきおばさまとその後ろに3人のメイドさんたちが控えて完璧な挨拶で出迎えてくれる。


 僕が驚いていると、

「ここはね、ミストの実家が持っている別荘なんだ。今は私たちが使わせてもらっている」

 とウルズさんが教えてくれた。


「こう見えて私とシグって貴族なんだよ」

 ミストさんがそう言う。


「そうよ、2人ともそこそこの出自なのよ。驚いた?」


「驚きましたけど、納得もしました。お2人とも冒険者にしては佇まいが上品でしたし、そもそもすごく綺麗な顔立ちだなって思っていたんです…」


 興奮してそう答えた。

 なんか屋敷を見たら気分が昂ってしまったらしい。

 少し恥ずかしいかもしれない。

 他にも、なんで冒険者なんかに…? という質問をしたいのだが、聞いても良いのだろうか?


「…ま、まあそう言っても私が3女でミストが次女だからね。実家にいても余り物って感じだから…」

「…は、早めに独立できるように頑張らないとね」


 一瞬ちょっと照れたように見えた。それにしても貴族の世界も大変らしい。


「そう、なんですね。すいません、いろいろ驚き過ぎて…」

「アハハハ、そうよね」「まあ、そんなもんよね、フフ」


 やはり2人とも少し照れているようだ。

 そこにウルズさんが声をかける。


「お前たち、風呂に入ってから少しだけミーティングするぞ。明日からのことだ」

「「はい」」


 そうだな。僕も早くちゃんと独立できるようにならないと…。


「フォルセティくん、おいでよ。お風呂案内してあげる」

「はい」


 僕は言われるままにミストさんとシグさんに付いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る