第16話 充実感

 終わってみれば呆気ない。

 もっと上手くやる方法があったかもしれない。

 この程度の敵にこんなに手間をかけるのはあまりよろしくないだろう。


 ただ終わった後、シグさん、ミストさんが、


「なんかすごい感じだった…」

「すごいものを見た気がした…」


 シグさんとミストさんは口々に「すごい」を連発していた。ボキャブラリーが少ないアホな子になっていた。

 周囲の警戒を終えたウルズさんが近づいてくる。


「お前たち、ちゃんと見てたか? 次はお前たちだけでやるからな…」


 そう言われて2人は固まる。


「師匠、む、無理な気がしてきました〜」

「私もです〜。Bクラスのままで大丈夫な気がしてきました〜」


 シグさんとミストさんは変わるがわる弱気な発言を口にする。なんか自信をなくしたらしい。


 ウルズさんは呆れながら、僕に話しかける。


「驚いたな。聞いてはいたがすごいな。あとで色々教えて欲しい。なんというか、ゾクッとした。ドラゴンがあんな風に崩れている姿なんて、初めて見たぞ」

「ハハハ、僕も、孤児院の先生たちも完全には理解していないんですよ。メリットデメリットありますけどね…」


 孤児院出身のウルズさんは、ある程度理解してもらえているはずだが、一度きちんと話しておいた方が良いかもしれない。


「な、なるほど…。う~ん、なんかあちこち規格外過ぎるし、今度、きちんと戦力を把握させてね…」


 ウルズさんもそう思ってくれたようだ。


 シグさんやミストさんはすでに獲物の持ち運びについて検討し始めていた。とても逞しい2人である。加えて前向きだ。尊敬に値する…。


「師匠~、ドラゴンの素材、使える部分もありますよ~」

「顔から首にかけてはドロドロに溶けてますけど、この大きさなら鱗とか爪とかの素材も十分です」


 シグさんとミストさんがウルズさんに素材の具合を報告する。


「そうかそれなら良いお金になりそうだ。良かった」


 さすがウルズさんもあの孤児院出身者だ。少しだけ理事長先生を思い浮かべてしまった。


「ただこれどうやって持っていきます?」

「解体するしかないだろうね…」

「あの~、僕、孤児院の先生から魔法袋もらってますよ…。容量はわからないんですが、スクルド姉が作ってくれて…」

「「「え?」」」


 ウルズさんもびっくりしたようだ。

 結局それぞれが持っていた荷物も全部僕の魔法袋内に収めることになった。


「いや~、それにしてもスクルド様の袋、なんか万能過ぎて…。さすがだわ…」

「あまりにもすご過ぎてなんだか現実感がないですわ」

「お前たち、わかっていると思うが、他言するな」

「「りょーかい」」


 スクルド姉のこの袋、結構すごいものらしい。

 なぜか有名人のスクルド姉は、魔法付与に関しても造詣が深く、大抵のものは自分で作ってしまう。

 姉妹の中では一番付与魔術が上手いとウルズさんが言っていた。


 詳しい仕組みはわからないが、異次元に場所を借りるようなイメージとなるらしい。とにかくみんなが褒めているのですごいものだと思う。

 

 今日はさっそく冒険の初体験だったけど、行って良かった。


 シグさんやミストさんたちともだいぶ打ち解けたし、実際に魔物と戦うこともできた。これからも勉強してどんどん実績を積み上げていきたい。

 

 僕は充実感に包まれていた。

 


〜〜〜Another Viewpoint (暗躍する者たち)〜〜〜


 この時、フォルセティたちは気づかなかったが、彼らの様子を遠くから伺っている存在がいた。


 屈強な男と妙齢の美女の2人組、他にも部下らしき者らが数名いて、フォルセティたちにわからないほど遠くから、彼らの様子を見張っていたのだ。


 種族はまばらだ。人族、魔族、が入り混じっている。


「すごいですな」


 そう語るのは屈強な男の方で、名をガジルという。鎧から赤黒い筋肉がはみ出しており、頭には二本の角が生えている。太い尻尾も特徴的で人族とは明らかに違った出立だ。


「彼は人間ですよね? あれは魔法ですか? それとも別の何かですか? 魔力反応ありませんけど…」


 部下らしき人族の一人、白衣を着た学者風の男がそう訪ねる。


「わからん、ちょっと異常だ…」


 美女が答える。この美女の見た目はほとんど人族だが、尻尾があり、蝙蝠のような羽が生えている。角は髪の毛に隠れて小さく生えており、露出の多い衣装を纏っていた。ガーベラと呼ばれており、実は人族に紛れ込んで諜報活動をしている魔族のスパイだった。


 ここにいるメンバーのリーダー的存在だ。

 ドラゴンを追っていたところ、フォルセティたちを見つけ、その様子を遠くから監視していたようだ。


「ならガーベラさま、依頼主さまに報告は?」


 白衣の男たちが書類などを片手にガーベラに確認する。


「ああ、もうちょっとしてからだな。悪いがもう少し調べてくれ。あとガジル、ヤツの能力について凄いのは分かったが、系統とか未だ謎のままだ。ちょっとお前、接触してみてくれないか? 手段はなんでも構わない」

「おいおい姉さん、ドラゴンを倒してしまうヤツと戦えと? 無理言うなよ~」


 そう言いながらガジルは嬉しそうだった。


「戦え、とは言ってないだろう? ったく…」


 ガーベラも白衣の男たちも呆れている。


「…フフ、味方になるのか敵となるのか、今のところわからんだろ? 化け物っていうのは間違いないんだ。味方として取り込んでみたはいいが、暴発でもされたら敵わんからな…。今は奴の様子を探って弱点なんかを見つけることが一番さ」

「なるほど、慎重にってか?」


 実際にガーベラは自身の雇い主に報告すべきかどうか迷っていた。力を持ち過ぎるヤカラはどのみち制御できない。


 正直、現時点では全く触れないか、排除しておいたほうが良い、と考えている。相手は人族で魔族とは違う。価値観が違い過ぎるのだ。制御できると思えない。


 万が一、雇い主が「連れて来い」とか言い出すと面倒だ。大人しくついてくるわけがないし、実際に連れて来ても持て余す可能性がある。


 今、迂闊な報告は避けるべきだろう。しっかり見極めてからだ。


 本来ならそれで良かったのかもしれない。

 だが、この時もし一秒でも早く報告を入れていたら、この後の状況は変わっていただろう。

 

 ただ、15歳の少年、それも子どもに見える人族の少年に、それほどの力があるなど、誰も想像できないし、思いもしないだろう。


 少なくともこの時点では放っておくのが正解だった、ということで良いのではないだろうか。

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