第3話 憧れの冒険者稼業
そんなことを考えながらブラブラしつつ、冒険者ギルドに到着した。
出迎えは…、あるはずもなく…。
その雰囲気は、聞いていた通りだった。
昼間からお酒の匂いと、きつい香水の匂いが充満しており、風紀なんてものとは無縁な風体の人たちがそこそこだらしなくあちこちにゴツい感じのお兄様方や露出の高い服装のお姉様方がたくさんいた。大丈夫だろうか、ここは…。
「なんだテメエ?」
さっそくそこそこゴツいお兄さんに絡まれた。
「子供が来るとこじゃねえぞ」
「なんだ? ママでも探してるのか?」
「ボク~、迷子かな~?」
入って3歩ぐらいだったので、かなり早い方だろう。
こんなに暇で良いのだろうか。
他にもとても暇そうな人がたくさんいた。
こういう場合、どうするべきだろう。さっそく難問だ。僕は孤児院からほとんど出たことがなく、出る時はいつもスクルド姉やロタ姉と一緒だった。
「こらガキ、早く返事しろ~!」
「びびってんじゃねえのか~。へへへ」
この人たちの中には、放っておくという選択肢はなかったのだろうか。
早く受付まで辿り着きたいのだが、みなさん無駄に身体がデカく、通り抜けることが難しかった。
そして吐く息がとても臭い。
手っ取り早く何か騒ぎを引き起こして退かすとか、遠くに飛ばしてしまおうかと考えていると、
「ちょっとあんたら!」
「いい大人が何やってるのよ!」
「サイテー」
ケバさ全開の3人のお姉様方が、僕を庇うようにイカつい男たちに向かって文句を言ってきた。
おかげでいきなり騒ぎを起こして男たちをぶっ放すことは諦めた。
男たちは舌打ちをしながらスゴスゴ引き下がっていく。なんか引き際にすごい顔で僕を睨んでいた。
そうそう、僕は成人になったのだ。舐められてはダメだが大人の対応をしよう。
「…すいません、ありがとうございます」
まずは3人の親切なお姉様方にお礼を言った。そういえば、理事長先生にくれぐれも目立つな、と注意されていた。危ない危ない。危うく怒られるところだった。
僕が感謝の言葉を伝え去ろうとするのだが、行く手を塞がれてしまう。さっきの件、ありがたいことはありがたいのだが、どうもこのお姉さんたちの僕を見る目が怖い気がする。
(でへ~、可愛い~、ナニコノ生物~)
(おつかいかしら~? や~、目合っちゃった!)
(私好み! これはたまらんわー)
小声でそんなことをお互いに囁き合っているのだが、丸聞こえだ。
肉食系のお姉さんたちは、自身の欲望にとても忠実に見える。こういった輩はスクルド姐やロタ姉だけでお腹いっぱいである。ありがたいが、関わらない方が良い人たちに見えた。
このあたりはスクルド姉やロタ姉で慣れておいて本当に良かった。口元のヨダレが気色悪い。あれは間違いなく、ヨダレだ。おそらくそこそこ美人さんだと思うが、台無しだ。ケバいお姉様方は、他の人に分からないようにヨダレを拭きながら男たちの悪口を言う。
「ほんと、ここのギルドの男は最低よね。こんな小さい子をどうにかしようって、鬼畜ね」
「サイテーね」
「ギルドマスターに報告しておくわ」
お姉さんたちは、このギルドで顔利きなのだろうか。割と大きな声で周囲を威嚇していた。先ほどのイカつい軍団は黙り込んでこちらに目を合わせなくなった。自分の席でお酒をちびちび飲み始め、
「いや、俺はただ困ってそうだったのでいろいろ教えようと」
「おう、俺だって、子供には優しいんだぜ…」
何やら非常に小声で言っているが、お姉さんたちが、
「あ?」
と凄むと、そのままさらに小さくなってしまった。
やはりこのギルドである程度有名なお姉さんたちらしい。凄んだ顔をまるで想像させない満面の笑顔で、今度は僕の方に振り向く。
「こっちにいらっしゃい」
1人が手招きしてくれるのだが、僕はなるべく早く受付を済ませたかった。
「ところでどうしたの?」
「ここは危ないオジサンたちがいっぱいいるところだよ」
「お姉さんと一緒にいたほうが良いよ」
そう言いながら僕の肩に手を回したり、腰を触ったり、ちょっとしたセクハラだった。悪気はないと信じたい。僕は思った。受付できない呪いのようなものがあるのだろうかと…。
(受付から離れていくような…。これ、断らないほうが良いだろうな…)
とりあえずお姉さんたちについていき、とにかく登録して冒険者になりたいことを伝えた。だが、
「うそでしょ!」
「こんな小さい子が?」
「なんで?」
予想通りの反応だった。
やはりこの童顔がいけないらしい。まず僕は自分の年齢を知ってもらうべきだと思った。誠心誠意説明すれば伝わるだろう。
「僕は孤児院出身でこう見えて十五歳なんです。成人して冒険者になって孤児院に恩返しがしたくて…」
目の前のケバい三人が固まる。今時こういった話は珍しいのだろうか?
「ジュ、ジュウゴサイ?」
しかし反応したのはそこだった。
僕はよほど子供に見えていたらしい。何歳に見えていたか、怖くて聞けなかった。
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