第13話 パーティーメンバー

 受付ではちょっとだけ揉めていた。というか騒ぎになっていた。


「今からなんて危な過ぎますよ」

「でもこれはずっと片付いてないだろう」

「しかし、もしもの…」

「なんだ? 私たちの実力を疑っているのか?」

「いえそういうわけでは…、わかりました、処理します。少しお待ちください…」


 こんな感じの会話が聞こえてきた。割と大変な案件なのかもしれない。


「ところであんた、武器はどうしたの?」


 シグさんが聞いてきた。またしてもシグルーンのことはシグと呼んで良いとウルズさんが言ってきたので、そう呼ぼうかと思ったが、やっぱり「呼んだら殺す」オーラが出ていたので面と向かっては呼んでいない。


「え? 武器?」

「見たところ何も装備していないけど」


 ミストも不思議そうだ。シグさんとミストさんから武装のことを言われ、確かに何もしていないことに気付いた。


「そうですね、あのあたりに安く置いてあった気が…」


 先回来たときに武器がたくさん置いてあった場所があったはずだ。かなり安かったので当面はそれで良いと思っていた。ロタ姉が「道具を選ばないのが一流だ」と言っていたので、僕もそれに倣っている。


「は? あんた死ぬ気?」


 シグさんが鬼の首を取ったと言わんばかりに詰め寄る。


「これだから素人さんは…」


 ミストさんは相変わらずこちらを向かない。


「いい? 武装はね、私たちの身を守る大事な相棒なの。手入れもそうだけど、ケチったりせずに今纏える最高のものを常に装備しているべきなの」


 シグさんが身体を仰け反らせていかにも説教っぽく語り出す。


「え? でも…。道具を選ばないのが一流って教えてもらって…」

「誰よ、そんなアホなこと教えたの! バカじゃない! 死んでからもそんなこと言える? いいからちゃんとしたものを選びなさい!」

「…えっと、そう、なんですか…。はあ、わかり、ました」


 あまりの迫力に僕は困り果てて武器の相談ができる人を探しに行こうとして、止められる。


「おい、フォルくん、どこへ行く?」

 ウルズさんだった。


「いや、ちょっと武器をなんとかしようと…」


 と言ってもお金があまり無い。ギルドに置いてあった武器でなんとかしようと思ったが、シグさんとミストさんが睨むのでちょっと無理したほうが良いかもしれない。そんなことを考えていると、


「いらないだろ? ここにある適当な剣を三本ぐらい持っていけ。私が買ってやろう。予備に二本でいいだろ? 足らないか?」

「…あ、でも…」

「師匠、いくらなんでも…」

「…無謀ですよ」


 2人がウルズに詰め寄る。一応心配してくれているのかもしれない。


「…ん? なんだ? 文句あるのか?」

「い、いえ…」「どうなっても知らないっすよ…」


 2人が小声でモゴモゴ言っているが、ウルズさんは特に気にした様子はない。


「…あ、ありがとうございます!」


 とにかく僕がお礼を言うと、


「…っていうか、剣は使えるんだっけ?」

「…はい、ロタ姉に習いました。今では僕の方が強いんですよ」

「え? そ、そうなんだ…。ふ~ん…」


 何気ない会話のつもりだが、ウルズさんが少しだけ顔を引き攣らせている。

 ただシグさんたちはさすがに我慢できなかったのか、慌ててこちらに近寄り、


「師匠、ちょっとそれは無謀過ぎます! 素人のお姉さんに教えてもらったとかふざけてます!」

「師匠、それではもし何かあったときに死んでしまいますよ」

 と、2人してウルズさんに意見している。やはり心配してくれているのだ。

 なんだかんだで優しい2人だとわかり安心した。

 そしてウルズさんは2人にとって師匠的な人らしい。


「仲間が死ぬと一定期間クラスアップできないっすよ」

「もうすぐAクラスなのにそんなの面倒です」


 前言撤回。やはり僕なんかの心配はしてくれていなかった。


「いや、2人はフォルくんの実力を見たいのだろ? シグ、フォルくんの姉って誰だか知っているのか? って良いか…。まあ、ここは私に任せてくれ。そしてすべての前衛をフォルくんにやってもらう」

「「ええ?」」


 二人は驚くが最後には渋々従った。こうして僕の最初の冒険が始まろうとしていた。

 

 現場近くまで馬車で行くらしい。

 馬車に乗って確かに気付いたのだが、僕は孤児院の男子用の僧侶のような格好と剣という不格好な出立だ。それに比べ、ウルズさんもミストさんもシグさんも革の鎧やチェーンメイル、甲冑の軽装版などなかなかに格好良い。


 思い思いの戦闘スタイルだが、動きやすさなどを自分なりに考えてコーディネートしているのだろう。正直憧れる。これこそ冒険者の醍醐味だ。


 僕は孤児院時代、姉様方の用意する服装しか着たことがない。シスターの服を何度試着させられたかわからない。あまり思い出したくない過去だ。

 僕がジロジロ見ていたのが分かったのだろう。さっそくシグさんが文句を言ってきた。


「なに? ジロジロ見て? そんな童顔で色気付いてんのか? いやらしい」

「今のは鎧とか籠手とか見て研究しているだけだと思う。シグは意識し過ぎ」


 ミストさんがシグさんを揶揄う。


「な、何を! 私はただ今後の心得として…」


 意外にもミストさんが助け舟を出してくれた。僕は慌てて目を逸らし、自分の格好を見てため息をついた。

(お金が貯まって防具が買えるまでは我慢だ。怪我しないように気をつけよう…)

 

 魔力を持たず、魔法が使えない僕にとってこれが冒険者への第一歩である。緊張するが楽しみだった。


 馬車の中で僕はあらゆる戦闘シーンを想定してちょっと緊張する。

 万物の揺らぎを感じながら馬車は先に進む。


 ちなみに馬車というのは、慣れないとお尻が痛くなる、というのは本当だ。そんな痛さも冒険の醍醐味だと考え、今のところ嬉しく思えた。


 さて、そんなこんなでいよいよ、馬車は目的の場所に到着した。


「さあみんな、ここから先は、Bクラス以上でないと難しいとされる狩場だよ。気合入れてな」

「「はい」」


 2人とも気合が入る。僕も気合を入れる。どんな魔物が出てくるのか。冒険者としての第一歩、本当に楽しみだ。

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