第12話 パーティ初顔合わせ

「いろいろこれから大変なこともあると思うけど、頑張ろうね」

「はい。ありがとうございます! よろしくお願いいたします!」


 優しくて綺麗なだけでなく、すごくしっかりしている。頼り甲斐がありそうだが、僕も男だ。逆に早く頼られるようにならなければ!


「フフ、そんなに力まなくても大丈夫よ。…ところでフォルくんは覚えてないよね? 私のこと?」


 ウルズさんが少し恥ずかしそうにそんなことを言う。しっかり者のイメージだが、こんな可愛らしい部分もあるのだ。なんだか微笑ましい。


「…すいません」


 僕が言うと、


「…フフ、いいのよ。気にしないで。うん、これから仲良くなろうね?」


 と優しく返事をしてくれた。なんだか本当に好感を持てる。


「おねーちゃーん」「せんぱーい」


 ロタ姉とスクルド姉が器用にも正座しながらウルズに近寄る。


「なんか私もフォーちゃんとパーティ組みたいんですけど…」

「私もです。何でもしますから」


 とんでもないことを言い出した。案の定、理事長先生が頭を抱えている。

 これでまとまりかけた話が壊れるのはちょっと迷惑だ。


「姉さんたち、いい加減して! みんな困ってるよ。僕は一人で大丈夫だから、いつまでも僕を甘やかさないで!」

「…」「…」

「お願いだよ!」


 ちょっとキツかったかもしれないが、はっきり伝えた。僕はとにかく冒険者になりたかったのだ。


「ほお、ちょっとは言うじゃないか、フォル坊」


 理事長がニヤニヤしながら言う。一方、ロタ姉とスクルド姉は、


「「びええええええん、フォーンちゃんが、私のフォーちゃんが、○✖️△※◉◇◉」」


 もはや何を言っているのかわからない。大泣きだ。余程寂しいらしい。


「…姉さんたち、本当に心配しないで。ウルズさんもいることだし、暇なときは帰ってくるから、ね」


 少し優しく声をかけることにした。ついでに頭も撫でてあげた。そういえば最近僕が撫でられるよりもあきらかに僕が撫でている回数が多い気がする。それから2人が落ち着くまで約10分もかかった。


 そして僕は、そのままシギベルトさんたちと一緒にギルドに向かうことにした。


「お世話になりました!」


 僕は本当に意味で最後の挨拶をした。

 やっと念願が叶ったので、とても爽やかな気持ちで孤児院を後にすることができた。


 あ、スクルド姉とロタ姉がなんか睨んでいるけど、気にしないでおこう。

 

 ギルドに到着して最初に諸手続きを行い、まずはウルズさんのパーティを紹介してもらうことになった。


 途中、サブマスターのゴウガンと慌てん坊受付嬢のサガンと目が合うが、普通に目を逸らされた。

 よし、今度絶対いじめてやろう。そう心に決めていると、ギルドのロビーに案内された。


 以前は知らなかった、というかその前にやらかしてしまったのでわからなかったが、ロビーはレストランというか酒場が併設されていて実は奥がとても広かったようだ。だからお酒臭かったのだ。


 練習場みたいなところもあるらしいし、狩ってきた獲物の解体場もあるらしく、かなりの敷地面積だ。こういう知識を歩きながらウルズさんにすべて教えてもらっている。


 ウルズさんはSクラスの冒険者で、国からの依頼も受けるベテランだ。

 皆ウルズさんに挨拶し、憧憬の目を向け、僕を見て目を逸らすかギョッとした顔で踵を返す。あのときの騒ぎのせいでみんなから嫌われた可能性は高いと再認識する。いろいろと心の葛藤に気付いたのかウルズさんが声をかけてくる。


「奥の席に現在の私のパーティメンバーがいるから紹介するよ」

「…はい、お願いします」


 今度こそ、うまくやるぞ、と心に決めた。

 ウルズさんが近寄ると立ち上がって迎える2人の女性。いや、女の子? 


 1人は短い青色の髪の毛で、まるで妖精のような顔立ちの女の子。

 若い。もしかしたら僕より年下なのかもしれない子と、もう1人はロタ姉のような赤い髪で僕をしっかり睨みつけているキリッとした女性だ。

 背は2人ともそんなに高くないが、僕よりは高い。情けないことだが…。


「2人とも、この前話したフォルセティくんだ。今日からうちで面倒みることになったから」


 ウルズさんがそういうと、2人は立ち上がったまま、その場で挨拶をする。


「どうも、ミストです。16歳です。魔法全般大丈夫です。Bクラスです。もうすぐAですけど…。あとは…、まあそのうちで…」


 短髪で青髪の小さな女の子だ。僕とは目を合わさず、短めの言葉を明後日の方を向きながら棒読みでしゃべっている。


「はじめまして。私はBクラス冒険者のシグルーンよ。魔法剣士として登録しているけど、魔力多いほうなので後衛に回ることもあるわ。回復は使えない。年齢は15歳。確か同じ歳って聞いてるけど…」


 赤髪でキリッとした方だ。一応こちらを向いてくれるし、言葉使いもギリギリ丁寧だが、明らかに睨んでいる。

 それぞれの独特な挨拶が終わったので僕も挨拶をする。


「はじめまして。フォルセティと言います。ブリュンヒルデ孤児院出身です。一応、ま、魔法と剣、両方いけます。一応、回復も…。あと、年齢15歳です。同じですね、シグルーンさん?」


 最後はニコッと笑顔で同じ歳のシグルーンさんに語りかけた。

 感じ良く出来たつもりだったのだが、シグルーンさんからはそっぽを向かれた。あれ? 何かやらかしたんだろうか…。


「クラスは?」


 無表情のミストさんが、やはりこちらを向かずに聞いてきたので、すぐに返答をした。


「Bです。先ほど教えてもらったのですが…」


 すぐにシグルーンが激昂する。


「はあ! あんた新人でしょ? なんでBよ! コネで上位クラスもらったって実力が無きゃ恥かくだけじゃない! バッカみたい!」


 いきなり、だった。僕が何か言いかけるよりも早く、

「おい、シグ、なんだその言い方は…」

 ウルズさんが彼女を諫める。


「…え、でも、その、なんというか…」

 ウルズさんには逆らえないのかビクッと怯えて小声で口ごもる。


「ミスト、お前も同じか? 納得いかんか?」

「さあ、実力を見てみないと、なんとも…」


 ミストさんは平常運転のようだ。まるでこっちを見ないが、ウルズさんの方には顔を向けてしゃべっている。


「…そうか、わかった。すぐにわかると思ったが、そういうことなら今から依頼を受けることにする」


 ウルズさんは少しため息を吐き、そう言いながらギルドの掲示板に向かう。

 相変わらず僕の意見は無視され、批判だけされる。まあ顔が童顔だし、仕方ないか、と諦める。


 時刻はお昼過ぎ。もうすぐ夕方になろうという時刻だが、こんな時間からクエストを受けることになり、ギルドの掲示板をみんなで覗く。まあ問題はあるが、いよいよデビューだ。頑張ろう。


 未だミストさんもシグさんも僕に近づかない。

 あ、ちなみにウルズさんがシグルーンさんのことをシグさんと呼べ、と笑顔で言うのでそうしようと思ったのだが、ウルズさんが見えないところで「言ったら殺す」オーラを出していたので、取り敢えず保留中だ。


 初対面だし、仕方ないだろう。どうも僕はあまり人に好かれるタイプではないのかもしれない。いつもチヤホヤされて甘やかされ過ぎていた、ということだ。反省しよう。


 掲示板を見る。いろいろある。

 本来、初心者である僕は薬草収集とか鉱石採取とかゴブリン討伐とかそのあたりに挑戦すべきだろう。掲示板に貼り出されている依頼書には初心者向け、というのがわかるようになっており、ベテランさんはなるべくそういった案件を初心者に譲ることになっている。規則ではないが、暗黙の了解らしい。さすがにミストさんもシグさんも慎重に選んでいる。


 いくら僕が嫌いでも、いきなりケガしたり、それこそ死んだりはさせられないのだろう。「これなら魔法も剣も両方実力がわかるんじゃない?」「こっちのほうが実践向きよ」などと真剣に話し合っている。だがそんな中ウルズさんは迷わずにちょっと毛色の違う依頼書を手にする。


「え?」

「師匠、いくらなんでもそれは…」

「なんだ? お前たち、怖いのか? これ、ずっとここにあっただろ、そろそろ片付けたかったんだ。私と組むとはそういうことだぞ」


 2人が怖気付くような案件らしい。僕はウルズさんに尋ねたが、


「どんな案件なんですか?」

「ハハハ、まあ、あとで話すよ」


 と、笑いながら誤魔化された。受付に依頼書を持っていくらしい。まあウルズさんがいれば大丈夫だろう。僕は安心してすべてを任すことにした。


 ミストさんとシグさんはさっきよりもキツく僕を睨んでいた。不謹慎ではあるが、僕は昔姉たちに読んでもらった青鬼と赤鬼のお話を思い出していた。

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