第11話 Bランクスタート

 そんな日々が続く中、ついにギルドから連絡が入る。そのことを、直接ギルドマスターが伝えに来た。応接室に理事長先生とギルドマスターがいて、そこに僕は呼ばれた。


「お呼びでしょうか?」


 ちょっとわざとらしいかもだが、一応、それらしく言ってみた。

 部屋の中には、この前のアインとかいう感じの良いイケメンのお兄さんもいた。


 他には、落ち着いた感じの大人の女性がいてこちらを見ている。一見クールだがどこか優しさを感じさせる人だった。あまり見過ぎてはいけないと思いつつ、その容姿というか、整った身体つきに釘付けになる。スクルド姉よりも大きいのではないかという胸のラインからなかなか目が離せなかった。僕も男の子である。


 「フフッ」


 とても小さな一瞬だが、僕は笑われてしまった。反省すべきだ。沈黙がある。


「おい、フォル坊」

「は、はい」


 フォル坊は止めて欲しいです、と言いたかったが、なんとなくそんな雰囲気ではなかったので言わなかった。


「お前、冒険者やりたいか?」

「はい! もちろんです!」

 即答した。


「だそうだ、シギベルト」

「ハハハ、聞くまでもないですか…。こちらとしては有難い話ですね」


 理事長先生とマスターさんで納得し合っている。話がよく読めない。


「あの…」


 僕が聞きかけると、

「君のクラスはBクラスからだ。そして最初はここにいるウルズさんのパーティに入ってもらう」


 アインさんが事務的な口調で伝えてきた。


「ハハハ、さすがに最初からAやSはやれないってことだけどな、ま、君ならすぐ上がって来れるだろう?」


 シギベルトさんは豪快に笑いながらそんなことを言う。だから特にこだわり無いって言ってるのに…。

 そこで今まで黙っていたウルズという女性が語り出す。


「俄かに信じ難い部分もあったけど、この孤児院出身ということで納得がいったよ。実は私もここの出身者なんだ…」

「え?」


 僕が驚いていると、

「そして…」

 と言いかけてウルズさんはドアを鋭く睨み、音もさせずに一瞬でドアに近づき、ドアノブを開ける。


 バタン…。


「「あ」」

 きっとドアに張り付いていたのだろう。

 ロタ姉とスクルド姉が勢い良く部屋の中に雪崩れ込んできた。


「…お前たち…」


 理事長先生がため息混じりに呟いた。


「イテテ…」「もう、急に開けないでよね」


 盗み聞きの犯人たちが文句を言っている。


「随分とはしたない真似をするな、元ヴァルキュリア、そしてノルンと呼ばれた愚妹よ。そしてロタもだ」


「お、お姉ちゃんこそ、なんでこんなとこに…」 

「ひええええ、すいません…」


 普段孤児院の中ではツートップの2人がビビりまくっている。そしてスクルド姉に関しては「お姉ちゃん」と宣った。お姉ちゃん?


「全く情けない。お前たちが付いていてなんだこのザマは…。正座しろ!」


 2人とも一瞬で正座した。そして、ウルズさんの凄まじい迫力にロタ姉もスクルド姉も抱き合って震えている。ちょっと面白い光景だ。僕が知っている限りでは2人は理事長先生以外から、お姉様だの、先生だの、師匠だの、尊敬されているところしか見ていない。とても新鮮な光景だ。


「…す、すいません。まさか先輩がいらしていたとは…」

 とロタ姉が怯え、


「ひええええ、お、お姉ちゃん、睨まないで~、怖いよ、怖いから…」

 とスクルド姉が目を合わさず呟く。余程怖いらしい。


「…というわけだよ、ウルズ。あたしはフォル坊に常識やら礼儀やらを叩き込みたかったんだがね、こいつらが面白がって魔法やら剣技やら教えてしまうもんだから…」

「ヒドイです、理事長!」

「理事長だって、禁忌魔法、笑いながら教えていたじゃないですか!」

「そうですよ、今ならどこの軍隊でも一瞬でぶっつぶせるって喜んでたじゃないですか!」

「おだまり!」


 理事長先生が割と本気でロタ姉とスクルド姉を睨みつける。


「禁忌魔法?」

「軍隊を一瞬で…?」


 シギベルトさんとアインさんが顔を青くながら呟く。

 シギベルトさんに至っては僕の登録カードの記号をしきりにいじっている。


 様子を伺うと、Bを何とかSに変えられないか確認し始めている。頼むから止めてください。ギルドマスターがそれじゃダメだと思うけど…。


 そして理事長先生はシギベルトさんを脅して今のは聞かなかったことにしろ、と詰め寄っている。カオスだ…。


「はあ…、困ったものですね、私がフォルセティに会ったのはまだ赤子の頃ですからね、私がついていれば…。シギベルト殿、これは我が家族の失態、どうか挽回のチャンスを!」


 ウルズさんが懸命にシギベルトさんに語りかける。シギベルトさんとしては願ったり叶ったりのようだ。


「いや、こちらこそお願いしたい。その、どうも普通の新人冒険者たちとだといろいろ不具合が起きるだろうし、能力が釣り合わんからな…」

「…そ、そうですね、僕らAクラスパーティでも無理だと、お、思いますよ…」


 アインさんもしどろもどろである。


「じゃあそういうわけで、ウルズ、あんたに任せようと思うけど…」

「ええ、先生、お任せください。フォルくんは私が立派に稼げる冒険者に育てますから」


 いつの間にか呼び方がフォルくんに変わっていたがそこは突っ込まないほうが良さそうだ。


「おお! さすがはウルズ。稼げる冒険者か、いいね! あんたに任せるからよろしく頼むよ」

「はい分かりました」


 話がどんどん進んでいく。


「あの~」


 一応僕も挙手をして確認する。


「…本当にいきなりBクラスで良いのですか? なんか贔屓されているみたいで…」

「…ははは。謙虚じゃないか…。大丈夫だよ。たぶんうちのギルドでなら誰も文句言わないし言わせないよ。本来なら実力はS相当だからね…」


 シギベルトさんがウインクをする。ゴツいのに器用な人だ。


「そうね、パーティの件はね、結局ギルドでは誰もあなたと組みたがらなかったから、ここの孤児院出身の私に白羽の矢が当たったわけよ、よろしねフォルくん」


 シギベルトさんに続き、ウルズさんがそう言いながら握手を求めてくる。僕としては断る理由はない。


「はい。よろしくお願いいたします!」


 やっとこれで僕の冒険者人生がスタートできるのだ。

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