第10話 優しい姉たち…?
理事長先生との話が終わってからスクルド姉とロタ姉は何事もなかったかのように僕にベタベタしてくる。
ギルドからは数日ぐらい猶予が欲しいと言われているので、暇ではあったが、そろそろ僕もお年頃である。今更2人を異性として見れるかどうかは微妙なとこだが、綺麗でスタイルが良いということはわかる。ちょっと買い物に付き合ったりすればすぐに視線を集めるレベルではあるので、魅力的でないはずがない。
それでもやはり僕の中では姉である。家族のいない僕にとって大切な家族である。色恋とは別の次元なのである。
とはいえ、お年頃はお年頃なのである。これだけは別の話だ。
ちょっとだけ恥ずかしいし、なるべくなら放っておいて欲しい。
例えば、武芸の訓練中。どうやったら修道服をそこまで破戒的に露出だらけにしてしまえるのか謎だらけのアレンジで、くびれた腰や健康的な太ももで、暇を見つけては僕に擦り寄ってくるロタ姉。剣筋が鈍ってないか型が崩れてないか全身を隈なく触りながら確認してくる。
「…あの、ロタ姉? ちょっと触り過ぎな気が…」
いつもより長く、際どく触ってくる。しかも息が荒く、目が血走っている。ちょっと怖い。
小さい頃から剣技含め戦い方を教えてくれた師匠である。厳しいけど、優しくて僕は尊敬していた。どう思い出しても昔のロタ姉は今より少し真面目だった気がする。今では変態オヤジのような表情で僕を見ている。僕から見ても相当な美人さんで、しかも燃えるような髪の赤色がかなりかっこ良いのに、本当に残念だ。
「ねー、そろそろお昼よー」
さっきからずっと隠れて見ていたスクルド姉が声をかける。ロタ姉がすごい形相でスクルド姉を睨むがスクルド姉はどこ吹く風と言った感じで取り合わない。そのスクルド姉もさっきまでロタ姉を睨む表情が凄かったのだが…。
スクルド姉も本当に可憐だと思う。天使のような容姿に豊満で女性的な膨らみとくびれたウエスト。これだけでも十分だと思うが、少し垂れた目といくつになっても甘えた声が魅力的で、孤児院に来るさまざまな業者さんたちは、ほぼ奴隷のようにこき使われ、さらに貢がされていた。
理事長先生が裏で手を引いていそうだが、それを喜んでやっている様子はかなり怖い。孤児院で習う道徳の授業はなんなのだろう、と頭が混乱してしまう。
それでも絶対にこれだけは言っておきたい。
幼い頃からお世話になっている僕にとっては、本当に良いお姉ちゃんなのだ。そして大事な家族である。
そもそも魔法が使えなくても魔法が面白いを感じて飽きずに勉強でいたのはスクルド姉の教え方が上手だったからだと思う。研究熱心で僕の能力の解明にも力を入れてくれている。
「根本的には魔法とフォーちゃんの力は同じように思うけど、フォーちゃんのはもしかすると精霊魔法っていう大昔の失われた魔法なのかもしれないね」
「精霊魔法?」
「うん。私たちみたいに魔力の影響を受けないやつだよ。ただ文献や情報がほとんどないんだ…」
「そうなんだ…」
そもそも人の魔力に差がある理由もよくわかっておらず、魔力がなんなのか、ということも解明されているわけではないらしい。スクルド姉とはこういった魔法議論をよくするのだが、これがまた楽しかった。
とにかくいつも思うがロタ姉もスクルド姉も尊敬できる大切な家族だ。決して残念な美人さん、というだけではない。
ただ、夜は毎日ちょっとした戦いが起こる。
剣撃や魔法の爆音で目が覚めたことなんて一度や二度じゃない。主にロタ姉とスクルド姉が僕の寝室に入り込む権利をかけて戦っているのだ。
冒険者登録に失敗してから数日後もこんなことがあった。
「フォーちゃん、もう寝ちゃった?」
煩くて寝られないんですけど、なんて口答えせずに眠ったフリをするのが一番良い。相手にしてはいけないと学習済みである。
「あれ? フォーちゃん、お話読んであげようと思ったんだけどな…」
この声はスクルド姉である。やはり魔法はかなり有利なようだ。昔からかなりの確率でスクルド姉が僕の寝床に入り込んでくる。それにしても、お話読んであげる、はないだろう。いくつだと思っているんだろうか…。
「…フォーちゃん、寝ちゃったんなら仕方ないな。お姉ちゃんが一緒に寝て寒くないようにしてあげますね…うへへへ」
ズズズズ。
布団が捲られスクルド姉が当たり前のように入ってくる。
なんとか背中を向けて逃れるが、それほど広くないので当然ある部分が僕の背中に押し付けられる。
幼い頃はそのふわふわした弾力のある感触が、まるで鳥の羽に包まれているようで、とても気持ち良いと感じていた。
でもさすがに年頃である。ギュウッと押し付けられると背中がちょっと困る。疲れている日なんかはそのまま寝られるが、目が冴えて眠れないときだってある。特に冒険者登録がうまく行かず、戻ってきて数日しか経ってないこの期間は、どうも変に意識してしまう。
ぷにゅ。
さらに押し付けられる。
「フォーちゃん…」
スクルド姉の攻撃はさらに続く。
ロタ姉はそうでもないが、スクルド姉は気を付けないと、本当にやばい。耳に息を吹きかけるぐらいは序ノ口で、寝巻きの中に手を突っ込み、さらにどんどん下に動かしていく。その時の鼻息が荒く、僕はそこで目が覚めたフリをする。
サササ。
凄まじいスピードでスクルド姉の手が引いていく。
「あれ? 起こしちゃった?」
わざとらしいなんてものではないが、咄嗟に手を隠し、何事も無かったかのようにする。
「また入って来てたの? ねえ狭いからさ、一人で寝たいんだけど」
「…え? フォーちゃん、お姉ちゃんのこと嫌い? ね? 嫌いになっちゃった?」
「嫌いじゃないけどさ、…あのさ、僕も一応、成人男子なんだけど」
「うんうん。それで?」
意識してしまう、とか、言わないほうが正解だろう。下手にそんなことを言った日には、どう意識するの? とか大変だ。
「明日朝早くから理事長先生に呼ばれててさ、移り香が残ってるとたぶんスクルド姉がお説教喰らうことになると思うよ」
「…な!」
これが僕の必殺技である。だいたいこれで大人しくなってくれる。ただ布団からは出て行ってくれないが…。
夜が高確率でこんな感じなので、僕はなんとなくここに残るのは良くない気がしていた。
いつか大事なものを無くしてしまいそうな気がするからだ。
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