第9話 登録保留

 僕はどう答えようか迷っていた。

 そして結局何も言わず、そのまま踵を返して理事長先生の元に戻ることにした。


「おい、ちょっと待て…」


 とガリオンが何か言おうとしているようだが無視した。さっと理事長先生の側に戻り、謝罪の言葉を探す。


「ったく、お前には常識ってもんが無いようだね?」

「…すいません」

「だいたいお前の教育係は何をしてたんだか…。甘やかすからこういうことになるんだ…」


 あ、これはロタ姉とスクルド姉も怒られるパターンだ。ご愁傷さまだ。


「あの…」

 僕は恐る恐る訪ねた。


「なんだ?」

「やっぱり冒険者はダメでしょうか?」

「そうさね…」


 理事長先生は本気で迷っているようだった。

 

「なあ、ちょっと、ちょっと待ってくれ!」


 僕と理事長先生が難しい顔をして悩んでいると、さっき無視したガリオンが勇敢にもこちらにやってくる。「ガリオンさん、まだ安静にしましょうよ」「あれは関わらないほうが良いですって」と、周囲は全力でガリオンを止めている。


「うるせえ、俺はまだ詫びと礼をしていないんだ!」

「え?」「マジすか?」


 周囲から驚きの声がする。僕も正直驚いた。


「す、すまねえ。ギルドからの依頼だからってやり過ぎたのはこっちなんだ…。あと、腕つなげてくれて感謝する。本当にすまない…」


 ガリオンは真剣な顔で僕にお詫びと礼をしてきた。なんか良い人っぽいよ。


「ほう、あんたがうちのフォル坊をぶっ飛ばしたんだってね…」

「…あ、いや、俺はその…」


 ガリオンは僕の横にいる理事長先生の迫力にしどろもどろになる。彼は本当に礼を言いたかっただけらしい。


「なんだい? 人を化け物みたいな顔で見て? 見所がありそうだから声をかけたのに…」


 理事長先生は一瞬獰猛な目でガリオンを見る。


「おいおい師匠、やめてくれよ。こいつはガリオンって言って一応Aクラス冒険者だ。将来有望なんだ。潰さないでくれよ。あ、腕治してくれたんだな、ありがとよ」


 そこに割って入ったのはギルドマスターのシギベルトさんだ。隣でガリオンが「一応って…」と呟いているが誰も聞いていない。


「なあ師匠、この場は一先ず預けて貰えないか? 悪いようにはしないからさ」

「どうするんだ? 今更この子がこのギルドで冒険者稼業なんてできないだろう?」

「いや、そうでもないかもしれないぜ。どうもこちらの落ち度がかなりあるらしいし、なあゴウガンよ?」


 シギベルトさんがゴウガンと呼んだその人があのサブマスターのことらしい。シギベルトさんは凄まじい気迫でゴウガンを睨みつける。ゴウガンさんと受付嬢サガンさんはいつの間にかギルドの整理に取り掛かっていたのだが、シギベルトさんの一言で氷付いてしまった。


「おい、ちょっと来い! 二人とも!」

 ちょっと気の毒なぐらい怯えている。

「こここここここの度は、ままままま誠に…」

「わわわわわ私は、その、あわあわあわ…」


 これはトラウマになるかもな。理事長先生の威圧って凄いからな。


「おいシギベルト? こいつらは何を言っているんだ?」


 理事長先生は謎の生物を見るような目で彼らを見る。

 シギベルトさんが大きなため息を吐く。

 ゴウガンさんやサガンさんのことについて、シギベルトさんは理事長先生に平謝りだった。

 

 結論から言うと、僕はいきなり謹慎になった。


 そして、なんと僅か2時間程度でまた孤児院に出戻ってきていた。


 沙汰が決まるまで時間が欲しいとのことだ。


 冒険者は危険な仕事であるが、実入りも良い。そしてかなり優遇もされている。

 当然腕の立つ者が多く登録しているが、それはすべて国が管理している。その受付であるギルドがしっかりと人物を見極めないと治安が悪くなる。荒くれ者などを安易に登録させでもしたら大変だ。


 その割にちょっと脳筋な人たちが多かった気もするが…。


 そういう訳で僕の登録は一旦保留になった。登録しないという訳でなく、どのクラスからスタートするかを考えさせて欲しいとのことだった。

 ちなみに、帰ってきてからスクルド姉とロタ姉の喜びようは凄かったが…。


「まあ、私のフォーちゃんが帰ってきてくれた~」

 と言いながらスクルド姉がギュッと抱きしめてくれたかと思うと、


「私だけのフォーちゃんが私のためだけに戻ってきてくれた~」

 と隣からロタ姉が僕を奪い取りガッチリ抱きしめてくれた。


 二人がまた喧嘩をし始める。

 別にホームシックという訳ではないが、なんとなく家族の元に帰ってきた気がして嬉しくなった。今日は2人の好きにさせてあげよう。だがそこで、


「ギルドでの件でちょっとお前たちに話がある…」


 と、理事長先生がスクルド姉とロタ姉に一言言うと、2人は固まり、頷いて奥の部屋に行ってしまった。連れだって出て行った3人の緊張感が半端ない感じだったのでとても怖かった。


 僕は取り残されてすぐに自室に戻った。

 その日は疲れてすぐに眠った。憧れの冒険者登録、いつになるのだろう、と考えながら…。

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