第7話 能力解放…

 ガサッ!


 そんな音だったと思う。僕の飛ばした塊で、目の前のガリオンさんに穴が空いた。お腹より左寄りだと思う。ちょっと脆い気がする。

 Aクラスだというからには、もう少し防御できるような何か工夫をしたほうが良いのではないだろうか。


「うぎゃああああああああ」


 なるべく小さい穴だと思う。即死ではない。我ながらコントロールが上手く出来た。


 決して致命傷ではないのに、なんだか大袈裟だ。


「大袈裟ですね、大した怪我でもないでしょう? まだいきますよ」


 相当頭に来ていたのか、僕はハメを外してしまっていた。力の発散が久しぶりで楽しくなっていたのだ。僕は嬉々として次の攻撃を実行した。


 ビュン!


 今度は右手を上から振りかぶって下に振り下ろした。飛ぶ斬撃が飛んでいく。


 バサ!


 ガリオンの左手が簡単に切断された。なぜ避けない?


「あああああ、腕が、腕が…」


 右手で肩を抑えて喚いている。


「ちょっと、なぜ避けないんです? いきます、って言いましたよね? 普通避けるでしょ? 困ったな…」


 辛うじて意識を保っているサブマスターや受付嬢が何か呟いている。


「あ、あれは何て魔法だ?」

「…わ、わかりませんが、特殊な魔法具、とか…」


 うん。意識がはっきりしている。腐ってもサブマスターと受付嬢だ。それにしてもどうしようか…。

 考えあぐねていると、さきほどの眼鏡のイケメン兄さんが話しかけてきた。


「…な、なあ君、君はこのままこのギルドを破壊するつもりかい?」


 さっきよりは慌てた様子だが、この中でただ一人、まともに話ができる様子だったので、僕も少し落ち着こうと深呼吸した。なんだろう、でも暴れ足りない…。


「破壊なんて興味ありませんよ。僕は冒険者登録したいだけなんですから…」

「え?」

「いや、訳がわからないですよ。魔力がAクラスだからどうとか、孤児院の名前を言ったら突然襲いかかってくる人がいるし…。そこのサブマスターさんとか受付嬢さん、どう考えても職務にチュウジツとは思えないですね」


 そう言いながら僕が二人を睨む。

 2人は「ヒェ~」とか言いながら這って逃げようとする。なんだか余計に腹が立つ。


「なるほど、すべてはこちらの早合点か…。ふう…。すまんね、僕は単なるAクラス冒険者で名前をアインという。ここのマスターとは古くから知り合いでね。あっちの2人よりよほど話せると思う…」


 確かにこのお兄さんは僕の話を聞いてくれそうだ。だが、そうなるとこの作ってしまった黒い塊をどうするかだ。塊たちは解放されたくて仕方ないようで抑えてないとどうなるかわかったものじゃない。


「ふう~…」


 もう一度深呼吸する。ダメだった。どんどん気持ちが伝わってくる。暴れさせろ、暴れさせろ。そんな風に問いかけてくる。


「すいません、落ち着くためにもちょっとこの黒い、えっと、ま、魔力を少し放出したいのですが…」


 ちょっとだけ声が冷たくなったかもしれない。アインは冷や汗を流しながら頷く。


「あ、ああ。ちょっとぐらいなら大丈夫だと思うよ。ここは頑丈だからね。アハハハ…」


 乾いた笑いだった。僕がなんらかの力を持て余しているのが分かるのだろう。

 でも良い人のようだ。初めからこう言う先輩を頼れば良かった。

 せめてこの人は傷つけないようにやろう。

 僕は咄嗟に左腕を天に伸ばし、手の平を掲げた。


 ドドーン!!!!!!!


 たったそれだけだが、次の瞬間には空が見えていた。火でも光でも風でもない。何の属性も持たないただの黒いエネルギーの塊が、3階建のギルドの天井をぶち抜き、綺麗な青空が見えるまでに至った。そしてかなり空高くなってから、


 ガガガガガガゴゴゴゴ…。


 と辺りに鳴り響いた。


「あ…」


 やり過ぎただろうか。3階に誰もいなければ良いのだけれど…。


「な…」


 アインさんが口を開けて呆けている。イケメンさんには似合わせない仕草だから注意したほうが良いかもしれない。

 すっきりした気分でアインさんに話しかけようとして、またしてもドアが勢い良く開いた。


 バコン!


 そのうち壊れそうだ。


「あ…。理事長先生…?」


 そこにいたのは、ブリュンヒルデ孤児院の理事長先生と他先生たち、そして見知らぬゴツいおじさんだった。


「…こ、このバカタレめ! フォルセティ~! お前は何をやっとるんじゃ!」


 理事長先生が凄まじい勢いで僕のところに来てポカンと頭を叩き、怒鳴り散らす。

(うわ~、久しぶりに先生のお怒りモードだ…。どうしよう…)

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