第5話 全力で勘違い
ともかく僕は早く登録がしたかった。でないと稼げない。
「あの、登録ダメなんでしょうか? できるだけ早く稼げるようになりたいのですが…」
「ヒエッ…。あ、そ、そうですね。そうでした」
なぜか受付のお姉さんが僕に怖れるような仕草をする。一体どうしたのだろうか?
さっきまでやたらとスキンシップの激しかったケバいお姉様方はさっさとギルドから出ていってしまった。知識の面では頼りになりそうな人たちだったので冒険者としていろいろ質問したかったのに残念だ。
周囲からは「おいブリュンヒルデだってよ」「まじか! 狂戦士集団のか?」「触れちゃいけない組織とかで有名なとこだよな?」などとささやき声が聞こえてくる。
どうやらどこかの危ない組織と僕がいた孤児院を間違えているらしい。あんな優しい人たちばかりの孤児院と似たような名前の恐ろしい機関があるなんて…。これは理事長先生に報告しておいたほうが良いかもしれない。僕がそんなことを思っていると、
「どうぞ、こちらがフォルセティさんの登録証になります」
受付のお姉さんが恐る恐る僕の登録証を持ってきた。
「あ、どうもありがとうございます…。ん? あれ?」
「! ごめんさない、ごめんなさい、これしか無理なんです! ギルドでは出身とか魔力とか関係なく、最初から得られるクラスはCが最高なんです…。どうかこれでご容赦ください! お願いしますお願いします」
なぜかすごい勢いで謝られる僕。いや僕が習った知識としては、最初は最低クラスのFぐらいからスタートだと聞いていたので、いきなり高ランク過ぎてびっくりしてしまったのだ。
「さ、最初からこんなに高いクラスもらっちゃって良いんですかね? ハハハハ」
ちょっとだけ笑いながら思ったことを言ってみた。すると、
「ひえええええ…。ごめんなさい、すぐに上に掛け合ってみますのでどうか命だけは…」
「は?」
受付のお姉さんは人の話も聞かず、そのまま中に走り込んでしまった。話が急に通じなくなっている。なぜだろう? 何か全力で勘違いしているに違いない。早く誤解を解かなければ…。
考える間もなく奥から大男が出てきた。その後ろに先程の受付のお姉さんがいる。大男は俺のところまでやってくると、
「お前か! うちの受付を脅してクラス上げろとか言ってるやつは!」
あれ? なんでこんなことに…。
「ってか、まだクソガキじゃねえか! おいサガン、お前何年やっているんだ? こんなんにびびるとかあり得んだろう?」
「サブマスター、その子、ブリュンヒルデの子です。そして魔力ステータスがいきなりSクラスです」
「あ? ブリュンヒルデ? いきなりSクラス以上の魔力だと?」
サブマスターと呼ばれた大男が一歩下がる。つまり僕から距離を取る。ちなみにサブマスターということはここで2番目に偉い人ということだろう。
「あの、さっきからブリュンヒルデって仰ってますけど、それ、たぶん違いますよ。僕が言ってるのは孤児院のブリュンヒルデです。理事長先生はフリッグ先生です。問い合わせてもらっても大丈夫です。そんな危ない組織なわけ…」
「フ、フリッグだと! あの魔女、まだ生きてやがったのか!」
「え?」
「や、やっぱり…、ど、どうしましょう。私が失礼な対応をしたばかりにこのギルドは潰されるのでしょうか?」
「く、こうなりゃこいつを人質に取って…。おい、ガリオンかジニー、いやレギンかウルズでもいい、とにかくトップの連中呼んで来い、報酬は言い値だと言っておけ!」
ギルド職員たちが慌ただしく動き出す。どうも皆さん思い込みが激しいらしい。未だ誤解が解けてない。どうしようか、どうするべきか…。やはり出直した方が良いかもしれない。
「いきなりで悪いが坊主、テメエを拘束して交渉に使うぞ。マスター不在のときを狙うたあ、作戦としては良いが、ここには俺がいる。そう簡単にはいかんぞ!」
サブマスターはそう言いながらそこらに立て掛けてあった大剣をいきなり僕に向かって振り上げてきた。
ビュン!
凄まじい速さというのはわかるが、普段ロタ姉の猛攻を受けている僕からするとまるでスローモーションのようなスピードに思えた。やはり手加減はしてくれているらしい。
サッ、と最低限の動きで簡単に避けた。
「…」
周囲から息を飲む音だけが聞こえてくる。
「な! 俺の全力を避けやがった…。こいつ、やっぱただモンじゃねえ…」
いえ、ただの冒険者志望の新人なのですが…。
そしてこれは全力だったんだと理解した。正直困ってしまった。これは僕が悪いんだろうか? でも特になにも要求などいないし、受付のお姉さんの勘違いなのに…。
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