第13話-グラル、学院に入学する⑤

「ここがトップの教育機関か……! 流石の見栄えだな」

 グラルはロンバルド王立総合学院に到着すると、「試験の受付はこちら」と書かれている看板の案内の通りに歩き続け、見えてきた受付の列に並んだ。

「すげぇ、広ぇな……! これもトップだからこそ為せる事なのか?」

「そうですわね……ここは最高峰クラスの教育機関だから見た目にもこだわりを持たないといけないんですわよねぇ……! 貴族たちから何を言われるか分かりませんし!!」

 グラルの疑問に誰かが答えた。

「ん……? 金髪……いや──」

 グラルが後ろを振り返れば16歳くらいに見える女性がいた。黄緑の髪を後ろへ伸ばしており、腰上あたりの位置でリボンを結っている。瞳孔が黄色で眩しいために、グラルは一瞬だけ金髪かのように見えてしまうがすぐに黄緑色であることに気づく。

「初対面の女性をそうジロジロ見るものではありませんよ? 申し遅れましたね。私はシータ・シン・トライアングルと申します。貴方は先程……これを落としませんでしたか?」

 シータが懐から取り出したものは一年前に盗賊の探剣から作った〝幸運を招く短剣ラックインバイター〟だった。

 あのとき以来、グラルは武器としてこれを愛用していた。肌身離さず持っていたそれが、いつの間にかシータの手の中にある。

「何故、それを……!」

「貴方が持っていたはず、ですか? 私も受験しようと思っていまして、貴方が歩いていった後を歩いていたんですの! ですけど角を曲がったところで多分何かに引っかかったのでしょう。そう……落ちていたのですわ!」

 あまりにもペラペラとシータの口が動くため、グラルは彼女に胡散臭さを覚えてしまう。

「それで気になったのですけど、このような業物を一体どこで手に入れたのでしょう?」

(なるほど、それが狙いか……)

 グラルはシータの意図に概ね気がついた。つまるところ、シータは〝この武器の出どころについて知りたい〟ということだ。

「俺は落とした記憶がないんだが。第一、落としたら金属音がするはずだしな」

「いや、木の枝に引っかかってたのですわ!」

「それだったら尚更引っかかるはずがねぇじゃねぇか」

「て、低木の枝ですよ。そのようなことにも気がつかないんですの?」

「気がつかなくて悪かったな。取り敢えずそれを返してくれ」

「ど、どうしてですの……? 落としたものが〝誰のもの〟かも分からないのですから自分のものにしても構わないはずですわ!! 証拠が無いんですから!」

「じゃあ言葉を変えるぞ? お前は一体……何が目的だ?」

「そ、そんな! 目的だなんて、そのような卑怯なことは考えていませんわ。ただ、どこからこの業物を手に入れたのか気になっただけで……」

「相応の態度を取ったら教えてやってもいいぞ? そんな見下した態度とられても返答に困るだけだからな。つーか見るからに貴族だが、貴族の誇りとかはどうなんだ?」

 その言葉で頭に血が登ったシータは顔を真っ赤にした。シータはトライアングル家貴族の令嬢だったからこそ、己のプライドが傷つけられたと錯覚した。

 頭に血が登った人ほど、当然周りは見えなくなる。

 シータは自分達の周りが他の受験者で囲まれていることに気がついていなかった。

 例外なく全員迷惑そうな視線をシータへと向けていたことに気がつくと、グラルの手に短剣を握らせて一瞬、グラルを睨みつけてからその場を去っていった。

 そして何事も無かったかのようにグラルは列に並び直したのだった。

「ここを受験したいのですが……試験の手続きをお願いします」

「分かりました。他国から来られましたか?」

「はい」

「でしたら、寮住まいになるので合否発表までの間の部屋代として銀貨三枚を払ってもらいます。よろしいですね?」

 グラルは冒険者たちから貰った銀貨の袋から三枚取り出して受付の人に手渡した。

 受付の人は「確かに」と言って番号プレートの付いた鍵をグラルに渡してから「試験頑張って下さい」と言ったのだった。



※※※



「きぃいいいいいいいいいいいい!! 気に入らないですわ! あの子供!! 何が〝相応の態度を見せろ〟、ですわっ!」

 同じく受験を目指していたシータは受付だけ済ませると、すぐに帰宅してベッドにうずくまって枕を噛んでいた。口調を真似しているようであるが、全く似ていない。

 感情がたかぶりすぎた結果、興奮がおさまり切っていないのだろう。

「それになんなのよ!! あの短剣! あんなのどこから手に入れたのよ!? あー思い出しただけでイライラするわ……! ラムダ! あの子供について調べておいてっ!!」

「畏まりました。お嬢様……!」

 執事服の老人──ラムダがシータの部屋のドアを開けて中に入ると、ラムダはシータのわがままを聞いてその言われた通りの行動をとることになるのであった。

(全く、お嬢様も少しはわがままを諦めるということを覚えて欲しいものですなぁ……)

 しかし、内心では自重をして欲しいという思いでいっぱいのラムダであった。

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