第12話-グラル、学院に入学する④
この世界では何故だか不明であるのだが、加減乗除の計算は存在することに対して、そこから先が存在していない。グラルは御者が馬を休めている間、道中で追い越していく商人の馬車を見てそのようなことを思い浮かべていた。
「どうしましたか? グラル様?」
「……いや、何でもない」
「そうですか、っとそれと、ここの確率についてなのですが──」
グラルは確率について五人に話をしていた。その具体的な計算方法も含めて。
常に死と隣合わせのこの世界で生き抜くためには確率は非常に重要なファクターとなりうるため、まずはこれをとグラルが選んだのだ。
「グラル様……数学について我々にも教えていただけないでしょうか?」
グラルと御者の勉強会で少し興味を引かれたのか、グラルに頼み込んだ人達がいた。
「それなら……馬を休めるときだけならいいぞ? 警戒さえ怠らなければな」
会話の内容から分かる通り、護衛として雇われた冒険者パーティーである。
「ありがとうございます! その確率というものは冒険者にとってはとても重要な考えだと思ったので、ありがとうございます!!」
そして今に至る。グラルは一から数学を教えつつも、確率を優先的に教えていた。
「例えばサイコロ……いや、コインでいいだろう。コインを一枚投げて表か裏かを当てる遊びがあったとしよう。このとき表と裏はコイン一枚につき一つずつしか存在しないから、可能性としては表と裏……合わせて二通りある。だから表が出る確率は理論上……〝二回コインを投げたときに一回だけ表が出る〟、という訳なんだが……これは何千回、何万回もコインを投げたときに〝二回中に一回〟という結果に限りなく近づくだけで必ずではないことも同時に覚えていて欲しい」
「なるほど……! つまり起こり得る可能性のうち、起こしたい事柄の可能性を除法で計算するということですな!! 私もスッキリしましたよ、カッカッカ!」
「……御者さん、理解が早すぎねぇか?」
「それは長年生きておりますからな!」
「いや、もう少しで理解できそうなんですが……喉に出かかっているだけなのでもう少し詳しくお願いできませんか?」
「「「お願いします!」」」
「お、おう」
若干、冒険者たちの威勢のよさに引き気味であるグラルだったが、確率についてさらに噛み砕いて説明すると冒険者たちも理解が及び、目を輝かせた。
「確率ってすごいですね!!」
「本当にすごいですよ!」
「これを活かせばより戦闘での負担が減るかもしれない!!」
「確率は偉大だな!!」
冒険者全員揃って確率を絶賛していた。
「これはまだ初歩中の初歩だからな。まだ奥が深いぞ?」
「「「「えぇええええええええええ!?」」」」
四人の冒険者は確率の奥の深さ──長い道のりに悲鳴をあげた。
しかし四人にとって不運だったのはグラルにとって、これは目的である数学を広めることであるから教える内容に全く容赦がなかったことだろう。
「たとえばだが反復試行であれば──」
「「「「「難しいぃいいいいいいいいいいいい!!」」」」」
五人揃ってあまりの難しさに更なる悲鳴をあげたのだった。
※※※
そしてグラルにも何日もの馬車の旅の終わりが訪れることとなる。
「ここが、ロンバルド王国……!」
街並みはべネトレット王国とは打って変わって水路と道が平行に並んでおり、水路を道が挟む形となっている。そしてその外側に建物が並んでいてとても神秘的な街並みをしていた。
「グラル様……我々に数学を教えていただき、ありがとうございました! これはせめてもの謝礼です。どうか受け取ってください」
グラルは冒険者パーティーのリーダーを務める冒険者から何枚かの銀貨をもらう。しかしグラルはそれを返そうとした。
「いや、それは俺の善意でやってることだから別に──」
「大人の気遣いをそのように無下にすることはあまり誉められたことではありませぬぞ?」
御者の言葉で「相手の面子を潰す行為である」ということに気がついて、グラルは渋々受け取った。
「あそこに見える大きな建物がロンバルド王立総合学院です。この道を真っ直ぐ進んで坂を登れば学院へ着きます。有意義な時間になったことを感謝致しますぞ! カッカッカ!」
「ああ、こっちも有意義な時間だった。ありがとな……! それじゃ、俺は早速学院へ向かうことにする。帰りの道は気をつけろよ? じゃあな……!」
そう言ってグラルは御者たちと別れて一人で学院へ向かったのだった。
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